翔也の結婚
茜が泣き明かした翌日に翔也へメッセージを送ってから3ヶ月経った。
翔也からはメッセージなど届かない。
ブロックしたからだと茜は思っていた。
だが、そんな甘い想いは断ち切られた。
土曜日の午後、大型商業施設で友人と買い物をし終えて、友人と別れ一人で駅に向かっていた時、「茜ちゃん?」と声を掛けられた。
翔也の同期の一人だった。
彼の名は、進藤陽介。
翔也の友人達の中でただ一人茜が名前を知っている男性だった。
「あ……進藤さん。」
「……えっと……元気だった?」
「あ……はい、進藤さんは?」
「俺? 元気そのもの。」
進藤は茜を「ちょっとカフェにでも行かない?」と誘った。
困惑しながらも茜は了承した。
進藤が休日なのにスーツを着ており、その上、紙袋を持っていた。そして、白いネクタイ。
それが何を意味するのか茜は知りたかった。
近くのカフェで二人は向かい合って座った。
「茜ちゃん……その……元気だった?」
「さっきも聞きましたよ。」
「えっ? そうだった?」
「ええ………進藤さん、お話があるから誘って下さったんですよね。」
「あ…………あぁ……うん、話したかったから……。」
「何でしょう。」
「……うん……あのさ……翔也から別れ話あった?」
⦅えっ? 聞いてないの?⦆
「もう3ヶ月前に……別れました。」
「3ヶ月前………そうだったんだ。」
「ええ。」
「聞いてるよね。翔也から……今日が結婚式だってこと……。」
⦅え………今日……結婚式………。⦆
「聞いてて、ここで……その……何してるの?
翔也、今日はこの近くのホテルで1泊するんだよ。
知ってるよね。
それなのに、何をする気なのか……茜ちゃん、非常識だよ。」
⦅知らなかった………。⦆
「あの……進藤さん、私は……私から別れを告げました。」
「えっ?」
「だから、彼が何時、何処で結婚式を挙げるか知りません。
何処に泊まるかなんて……全く知りません。
今日は友達と買い物に来て、さっき別れたばかりです。
それでも、私が何かすると思うんですか?」
「あ……ごめん…………。」
「私の何が悪いんですか?
私は何もしていません。
………それでも、貴方達には私が悪者ですか?」
「………ごめん! 俺、何も知らないくせに……ごめん。」
「……今日……結婚したんですね、彼………。」
「………うん。」
「綺麗だったでしょうね、花嫁さん。」
「茜ちゃん………翔也は結婚したから、忘れられないかもしれないけど……
忘れた方がいいよ。」
「そうですね。」
「………あのさ、今日撮ったんだ。」
進藤は何を思ったか茜には分からなかった。
スマホを差し出された。
そのスマホの画面には満面の笑顔で紋付き袴姿の翔也と美しい色打掛の花嫁が幸せそうに寄り添っている。
茜は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
まだ3ヶ月しか経っていない。
茜にとっては恋の傷跡がまだ癒えていない。
癒えるほどの時間が経っていない。
――涙を流してはいけない――
だが、そんなことも出来なかった。
俯いて顔を上げられなくなった茜を進藤が見つめていた。
「茜ちゃん……翔也の奥さん、綺麗な人だろう。
あいつが本気で愛したただ一人の女性なんだ。
………茜ちゃん……だから、あいつのこと忘れて………。
早く立ち直ってくれないか?
中絶もして……辛い恋だったから、忘れて新しい恋をして……。
……茜ちゃん………あいつのことで泣かないようになって欲しい。」
「中絶のことまで言われたくありません。」
「あ……ごめん。」
泣いている震えた声で反論した茜に進藤は酷いことを言ってしまったと後悔した。
茜は立ち上がり挨拶もせずに千円札を1枚テーブルに置いて店を出て行った。
「あ……茜ちゃん………。」
進藤は身動き出来なかった。
進藤には茜の姿が今にも消えてしまいそうなくらい儚く見えた。




