翔也との再会
あの22歳の別れ。
あの辛さを哀しさを今も忘れてはいない茜は、店に入る前に落ち着かせるためにゆっくり息を吸いこみ、そして吐き出した。
勇気を振り絞って店に入ると、店の中央付近の窓際の席に翔也が座っていた。
あの頃と同じだった。
待ち合わせて茜を待っている時の翔也の姿だった。
そういうことを忘れられないのが、哀れだと茜は思った。
席に近づくと、翔也は立ち上がった。
そして、「来てくれてありがとう。」と翔也が言った。
その言葉に茜は驚いた。
驚いていると翔也が「そんなに驚くことか?」と言った。
その声、その言葉遣い……全てが若い頃のままだった。
一瞬、茜は錯覚した。
22歳の……あの言葉を聞く前の茜と翔也に戻ったかのように思ってしまった。
「座ってくれよ。」
「あ………うん。」
「元気だった?」
「………お陰様で………。
今日、貴方は入ってなかったわ。
他の方の名前だった。」
「うん、インフルらしくて、俺が急遽代役だよ。」
「そうだったの………もっと早く知らないといけなかったわ。」
「それ、どういう意味?」
「秘書として落第って言う意味。」
「そっか………。」
「話って………何?」
「う………うん…………ずっと謝りたかったんだ。
ずっと……茜に酷いことして申し訳なかったと……謝りたかった。
茜………ごめん。
中絶させて………妻と結婚して……妻と縒りを戻した時に……。
否、戻したいと思った時に別れ話をすべきだった。
本当にごめん。」
「今更?」
「そうだな……今更だ。
…………あれから、どうしてたんだ?
会社辞めたのか?
勤めてた会社と違う会社に……お前が居てビックリした。
何があったんだ?」
「色々あったわ……貴方もそうでしょう?
生きていれば色々あるわ。」
「そうだな…………色々……ある。
……………茜に酷いことを俺はした。
その同じことを……うちの娘はされたんだ。」
「え………お嬢さんが……された?」
「うん、まだ20歳なんだ。
中絶して、それなのに……捨てられた。
俺がお前にしたことと同じ………。
………天罰なんだろうな……俺が茜にしたことが娘に………。」
「違うよ。」
「えっ?」
「それは違う。」
「茜?」
「貴方が私にしたことと、お嬢さんがされたことは同じであっても違うの。
貴方がしたからお嬢さんがされたわけじゃないわ。
した男が悪いの。
お嬢さんを大切にしなかった男が悪いの。
貴方が私にしたことで、お嬢さんに天罰が下るはず無いじゃないの。」
「……茜………。」
「そんなことで自分を責めるの?」
「責めないといけないんだ。」
「貴方が後悔しないといけないのは、そんな考えに囚われていることよ。
今、貴方がしないといけないことは、親としてお嬢さんを守ることよ。
見守ることよ。
全て受け入れてあげて……心の傷を癒してあげて……。
私は親が居なかったから、親に泣き言すら言えなかった。
言わせてあげて……いっぱい……。」
「茜………本当に済まなかった。」
「そうよ、貴方が謝る相手は私よ。
今まで捨てて来た女性に、心から謝って!
そして、大事にして! 家族を………。
もう二度と誰も悲しませないで! 奥さんやお子さん達を大切に想い続けて!
そのこと、忘れないで頂戴。」
「………うん………うん…………。」
茜は初めて翔也の涙を見た。
翔也との別れ際、茜は呟いた。
「これで、私の22歳の別れが終わったんだ。」
翔也はスマホで妻に電話をしていて、その言葉に気付かなかった。




