花奈①
考えあぐねている茜が会社を出た時、見知らぬ女性から声を掛けられた。
隣に小さな男の子が居る。
「貴女ね。」
「はい? あの何方でしょうか?」
「まーくん、このおばさんよね。」
「うん、そうだよ。おじさんが写真をくれたんだ。
ほら、これ………。」
子どものスマホに大和とのツーショットが見えた。
「話があるのよ。」
「分かりました。お子さんと一緒に入れるお店がいいですね。」
「え………ええ、そうね。」
「お宅は何方ですか?」
「何でよ。」
「お子さんがご一緒です。
ご自宅に近い方が宜しいのではございませんか?」
「あんた……………。」
「遅くなるとお子さんの睡眠に影響が出ると思います。
少しでもお近くで、と思いました。」
「あんた………子ども、居るの?」
「いいえ、おりません。
でも、友人や後輩達には子どもが居ますので………。」
「そ……そう……。」
茜は大和の元妻らしき女性とその息子の二人を連れて、彼女の最寄りの駅の一つ会社寄りの駅で降りた。
駅前は閑散としているが、小さな古めかしい洋食屋があった。
そこに入ると、直ぐに男の子は「お子様ランチ」を注文した。
お子様ランチが目の前に置かれると男の子は目を輝かせて「ママ、食べていい?」と隣に座っている母親に聞いた。
「いいわよ。」と母親が言うと、男の子は嬉しそうに大きな声で「頂きます!」と言って食べ始めた。
その姿が可愛らしくて茜は目を細めて笑みが零れた。
大和が愛している息子。
大和に少しも似ていない血が繋がらない息子。
愛されるのが茜には分かった。
愛らしいのだ。全てが………。
運ばれて来た料理を前にして「頂きましょう。お話を伺います。どうぞ、お話し下さい。」と茜は花奈に話した。
「大和と結婚して欲しくないのよ。」
「はい、彼から伺いました。」
「でっ、分かってくれたの?」
「離婚されて再婚されたのに、どうして彼の再婚を認めないのでしょうか?
その理由をお教え頂けませんか?」
「そ……それは………養育費が途絶えたら困るのよ。
養育費は子どもの権利でしょう。
貰って当たり前なの。
でも、大和が再婚したら途絶えるかもしれないじゃないの。」
「養育費はお子さんの権利です。
だから、彼が結婚してもしなくても当然のこと、お支払いすると思います。
そういう人です。」
「でも、子どもが生まれたら変わるかもしれないじゃないの。
困るのよ。うちの人の稼ぎは少ないから、途絶えたら生活が困るのよ。」
「このことは、もう少し私達で話し合う時間を頂けませんか?
今、この場で私が結婚しないと言っても、それは彼の気持ちを確認していませ
んので………お時間を頂戴したく存じます。」
「期限をつけるわよ。」
「はい、勿論、結構でございます。」
「1週間後、よ。」
「承知致しました。」
茜は結婚に拘ってはいなかった。
その事も含めて大和と話し合わねばならないと思った。
◇◇◇◇
大和に花奈から電話が架かって切ることが増えた。
メッセージもほぼ毎日届くようになった。
大和はいい加減、嫌になって来た。
いつもの日、家に帰っても茜の姿は無かった。
茜に⦅残業か……?⦆とメッセージを送った。
そのメッセージの通知があった頃、茜は花奈と会っていた。
大和は何度もメッセージを送った。
やっと既読になって、直ぐに茜から返信メッセージが届いた。
「貴方の別れた奥様とお子さんと会った。
会社の前で私を待たれていました。
どんな内容かは会ってから話すわ。」
茜から届いたメッセージを見て大和は固まった。




