(86) ツルのオガミヤ
幼い雰囲気さえ残る君枝は、まだ一歳にもならない修を抱いて、夫と共に実家に里帰りをしていた。
君枝は、六人兄妹のうち下から二番目。地元を離れ、東京に出て行って、器量も良かったのだろう、すぐに見初められ結婚して、修も生まれた。兄姉が地元でまだ独り身な者も多かったので、君枝の母親にとっての初孫にあたる修の、お披露目実家帰りというわけだ。
君枝の母親は、カメと言ったが、少し歳の離れた姉のツルは、この土地ではゴミソ、または〝カミサマ〟と呼ばれる民間の霊能者だったので、せっかく遠くから来たんだ、挨拶に行こうとなった。
全国的に有名なイタコが、亡くなった人を降ろすのに対して、カミサマは神霊を自分に降ろし、相談者の運勢、病気平癒、失せ物の行方、家庭内の悩みの解決に神の言葉として伝える。自宅がオガミ屋となり、地元の人が相談に集まっていた。
君枝にとってツルは、年に数回、親戚筋が集まる席で見かける伯母さんであって、母のカメよりだいぶ年上に見えていた。赤蔵の山で厳しい修行をしてきたと聞いていたので、人あたりの良さそうな笑顔の中に、凛としたものを感じていた。
君枝とカメは、さほど広くない待合室にあたる部屋で、地元の相談者に混じって待っていた。顔見知りが多いのだろう。皆、声をひそめながらも雑談をしている。カメも何人かの知り合いを見つけて、初孫を嬉しそうに紹介した。




