(87) カミサマのお告げ
呼ばれて拝み所に入ると、ツルは白い法衣を来て神棚の前に座っていた。何を焚いていたのか、普段の線香と違う匂いと、薄い煙が漂っている。
「姉ちゃぁ、私の初孫さ連れて来たはんで…」
「わいはぁ、カメもほんに〝ばっちゃ〟になってまったなや。こりゃ、めんこい子だっきゃ」
開口一番、破顔して、君枝から修を取り上げ、抱き抱えた。
顔見知りの女連中が集まって、修を交代で抱きながら近況報告などを始める。地元の噂話、今年の冬の雪、とり留めのない普通の会話。
「せば、神様何て、言ってらのか聞いてみるべ」
ツルが居住まいを正して静かに目をとじると、神棚に向かって低く拝み言を唱え始めた。独特の節回しがついたその声は、細く立ち上る線香の煙の中に溶けていく。
不意に、部屋の空気が熱を帯びて降りてきた。
ツルの瞼がカッと見開かれる。濁った、しかし全てを見透かすような眼球が、赤ん坊の顔ではなく、そのすぐ後ろの、何もない虚空をじっと見つめた。
「……私の父ちゃが守っとる。だきゃ、心配いらん。初の曾孫だはんで、可愛くて仕方ないのじゃろ」
ツルは誰に言うでもなく呟き、それから、はっと息を呑んでさらに視線を上へと向けた。
「……あいやぁ、父っちゃ、えらいもんまで一緒に連れてきてる。蛇神様……いや、龍の神様だ。龍の神様が、このわらしを子守りしとる。えらいもんだ……。修は、龍に守られ、やがては龍を守るようになる」
一転して、カミサマの顔に悲しげな影が落ちる。耳を澄ますように顔を歪めると、低く、這いずるような声で続けた。
「……鉄の箱に、襲われるかもしれん」
鉄の箱? 列車か、それとも車の事故か……。
君枝の脳裏をよぎった不吉な予感を、すべて見越したようにカミサマの言葉が重なる。
「安心しろ。九死に一生は得る。君枝、お前を悲しませるようなことにはならん。ならんが……修は、大きな悲しみを背負うことになるやもしれぬ。人は、そういうものだ」
カミサマの胸元には、碧の勾玉があった。




