⑼ 呼び捨て
海澪と星来は、繁華街を走り、だいぶ静かな住宅街まで来ていた。
小さな児童公園を見つけ、中に入った。夜の児童公園に人影は無かった。
並んでベンチに座る。
「ありがとう」
最初に話したのは海澪だった。
「カッコよかった!」
「何でもないです。海澪様に何かあったら、兄さん達に怒られますから……」
星来は、相変わらずぶっきらぼうに話す。
「ありがとう」
もう一度、海澪が言う。
「星来ちゃんに、お願いがある」
「なんですか?」
「海澪様って言い方、止めて欲しいな」
そして、続ける。
「〝みお〟って呼んでくれると嬉しい」
「子供の時みたいに〝みおちゃん〟じゃだめですか?」
「ダメ!そして、〝せいら〟って呼びたい!」
「……い、いいですよ。呼び捨てにできる人なんか、いないから、少し恥ずかしいです」
「〝せいら〟ありがとう」
「もう言わなくていいです。……〝みお〟」
「恥ずかしいね」
「やめますか?」
「やめない!〝せいら〟ありがとう!」
「もう、いいです」
「わかった。今日は、これで最後にする。…〝せいら〟ありがとう!」
「はい。それじゃぁ、この際だから、はっきり言っておきます」
「……何?」
「〝みお!〟人を信じ過ぎるのも良くないです。気を付けて下さい」
「わかった。星来を怒らせると恐いし……」
「恐くないです」
二人で笑ったのは、久しぶりかもしれない。




