⑽ 家出猫
明音は、バイトを終え、帰る途中だった。
児童公園の横を通ると、見覚えのある朱色の着物のコスプレが目についた。
紫の帯に黒いマスコット。間違いない。
「昼間にぶつかった子だよね」
海澪も覚えていた。人の世界に来て、最初に手を貸してくれた人。
恥ずかしいがりの星来はすかさず黒猫のぬいに隠れた。
「ごめんなさい。お詫びもできなくて……」
と消えそうな声の海澪。
「あっという間に消えちゃったから、心配していたんですよ。怪我は無かったですか?」
「大丈夫」
「おうちは近いの?」
「えっと……」
「電車終わっちゃうよ。こんな所で一人でいると、悪い男に連れて行かれちゃうよ」
「はい、連れて行かれるところでした」
「はぁ?」
細かい事をごまかしながら、海澪が説明すると、一緒ににおいでと言う。
『星来、この人は信用してもいいと思う?』
海澪は、声に出さずに聞いてみた。
『悪い人ではなさそうだけど』
明音が、連れて行ったのは明音のバイト先、バー〝まめぞう〟
そこでは、片付け物もそこそこに、修と優美は、残り物をつまみながら酒を飲んでいる。
「家出猫を拾って来ましたぁ」
と、明音は続けて
「わしは、もうよっぱっぱじゃぁ。帰るから、よろしく」
明音は、いつもこんな調子だ。ほんとに酔っぱらってるかわからないけど、こんな酔っぱらいは、可愛い過ぎるだろう。
「男は拾って帰るなよ」と修は言うと
「何言ってんだか? わしは修ちゃん一筋なんだぞ」
明音は続ける。
「早く、その優美を捨てて、わしの所に夜這いに来んかい!」
これは、絶対酔っぱらったふりだ。本気にすると痛い目に合う。それも、二人からだ。




