(84) 海賊に襲われた近隣の村
わた助、わたじの村の歌垣の夜、近くの村は海賊に襲われていた。
歌垣で若衆が出払っていて、抵抗する者がいない所を狙ったようだ。殺められた犠牲者はいなかったが、まだ歩けない幼児を除く子供達五人と、乳呑み児を抱えた女だけ二人がさらわれ、網等の仕事道具、塩、布等が盗まれた。
大きな津倉と違い、貧しい網屋を襲ってもたいした実入りにはならないだろうが、若衆がいなくなった村を襲うなら、赤子の腕を捻るようなものだ。
後に襲われた村の人に聞くと、手慣れて手際が良かったらしい。女、子供のいる家も、倉庫にしている網屋も、あらかじめ知っているようだという。老人ひとりしかいない家は、上がることもなかったらしい。
「誰かが手引きしたに違いない。怪しいのは、最近出入りしていた問の連中だ」という。
ありえないことではない。問の輩自体が、裏では略奪行為をすることもあると聞く。
「よその村では、さらわれた人以外は皆殺され、家や小屋に火をつけられたととの噂もある。歌垣で若衆がいなかったのは、幸いだったのかもしれない」
『こんな乱れきった世の中では、皆が集まる歌垣は、もう難しいのかもしれないな。祭らに加わっている村の若衆の頭達で話合う必要がある』
わた助は、独りごちた。




