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『海澪 -千年の縁-』  作者: 木峰圭介


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(81) 温泉

 二人が港につくと、六人の人が迎えてくれた。

 年長の阿留(ある)と舞緒《まいお》。頭の切れそうな恵蓮(えいれん)、がっちりした体格の太雅(たいが)の二人の兄。明るい明寿(ああす)は、つぐ姫(ひ)と同じくらいか。おとなしそうな星来(せいら)は、村に残したこいしと同じくらいだろうか。

 この時にわたじは、六人はつぐ姫(ひ)の本当の家族だと思っていた。すぐに誤解は解けるのだが。

 つぐ姫(ひ)の母や姉のはつ姫(き)も、近くに一緒に住んでいる。父親は、通うことが多いらしいが、つぐ姫(ひ)の父はほとんど母と一緒に暮らしているのだそうだ。

 汗を流して、着替えを促される。自然に湧き出る温泉を引いていると言う。案内は星来(せいら)がしてくれた。話しぶりから星来(せいら)はつぐ姫(ひ)が大好きなのがわかる。

 風呂は、村でも欠かせないが、水を運ぶのも大変だし、薪も集めるのも大変だし、塩作りにも沢山使うし、買えば高い。だから、お湯の量だって多くないし、水よりましなくなくらいぬるい。

 ここでは、肩まで浸かるくらいのお湯が、しかも温かい。なんて贅沢なんだろう。

「でも、みんな、あんまり入らない」と星来(せいら)は教えてくれた。「病気や怪我を癒す時くらいかな」


 ゆったり温まっていると、つぐ姫(ひ)が近づいて来た。白い湯帷子(ゆかたびら)一枚の姿だった。

「わたじさん、湯帷子(ゆかた)は着てないんですね」

「湯は好きだが、こんなものを着ていたら湯に入った気がしないのだよ。せっかくだから湯上がりに身拭いとして使わせてもらうよ」

「よかった。つぐも裸ではいる方が好きなんだよね。脱いじゃお」

 つぐ姫(ひ)はするすると恥ずかしがることもなく湯帷子(ゆかたびら)を脱ぎ捨てる。

 漁師の村では男は褌ひとつの時も多いし、裸で出歩くことも珍しくない。海女の季節には、女も腰巻ひとつや裸でいる。見慣れた姿だし、つぐ姫(ひ)の海女姿も見ていたはずだが、先の雅な姿からの裸の姿に、ましてや、目の前で脱ぐ様子を目にすると、わたじの心臓は跳ね上がった。

「背中を流しましょう。殿方にはそうすると聞いていますから」

「いやいや、そんな話は聞いたことがない。大丈夫だ」

 そう辞退したが、聞かぬふりをしてお湯に入ってくる。わたじの背中にまわり麻布で背中を擦り、手を前にまわし胸を擦る。ぴったり背後に身を寄せてきた。

背中に触れるつぐ姫(ひ)の胸の感触は、幼いこいしのものとは違う。娘特有の甘い香りが、湯気とともに鼻をくすぐる。

 「かたじけない。ありがとう」

 わたじは、起きそうなしるしを隠すようにあわててお湯から上がった。つぐ姫(ひ)の顔を見ることはできなかった。

 

 

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