(80) たつのみや
わたじとつぐ姫を乗せた巨大な丸木舟は、漕ぐ者もないのに音もなく進んで行く。
つぐ姫の美しさは、相変わらずだったが、すぐに、あの堅苦しさは消えていた。
「わたじさんを迎えるために、思いっきりお洒落をしたのよ。カッコよかった?」と、恥ずかしそうに笑う。村で出会う可愛い娘に戻っていた。
何でも、こんな重たい服を重ねたのは、成人式にあたる裳着の儀以来だと言う。台詞も練習して覚えたらしい。なんて可愛いことだろう。
つぐ姫は、十七歳だと言う。十九歳の姉がいる。
向かっているのは、蓬莱の島を越えた〝たつのみや〟だと、つぐ姫は少し言葉を濁らせた。全てを正直に話せば、わたじを驚かせることになるだろう。それどころか、恐れさせて、引き返すと言うかもしれない。そもそも、龍の力はまだあまり上手ではないつぐ姫だったが、わたじの前では龍であることは秘密にしておこうと決めていた。少し遠い村のちょっと贅沢な家の、可愛い村娘〝つぐひ〟がいい。
霧が立ち込め、三度、闇の帷が降りて、そして虹のような光に三度包まれた。この世界では三日が過ぎたというのだろうか。しかし数時間しか経っていないような気がする。遠いというのは、距離的なものではないのを、わたじは感じていた。
やがて港に近づいて行く。なんと港に入る前の海の中に、立派な門が立っている。門を抜けると、港の上まで建物の屋根が覆っていた。わたじは見たこともないが、みやこや海の神を祀る大社とはこんなものなのだろうと、見上げるばかりだ。




