(78) 生き残った赤子と犬
それは、土肌が剥き出しになった山崩れのすぐ隣で、身を寄せ合っている熊犬と赤子だった。
熊犬は、泥だらけで精根尽き果てたように横になり、立ち上がるどころか吠える気力もないように見える。特に前脚は泥に加え血だらけで、何かを懸命に掘り出そうとしていた事を想像させた。
幻䗲は近づいて、熊犬が懸命に泥の中から掘り出したであろうものを見た。それは何頭かいたであろう中で、やっと見つけた二つの仔犬の骸に違いなかった。母犬は泥に埋もれた我が子を掘り出し、全身を舐めてきれいにしたのだろう。その骸には、土ひとつ付いていなかったが、母犬の望みは叶わなかった。
赤子の方は、かろうじて産着が残っている姿で、必死に熊犬の腹にしがみつこうとしていた。母犬も、亡くした我が子の代わりに、自分の体温で赤子を温め続けていたのだろう。
ここからは、幻䗲の想像だ。
このあたりでは、血の穢れを忌んでか、離れた産屋にこもって出産をする。普段は物置として使うような小屋を片付け、乾いた草を敷き、妊産婦と産婆、女だけが立ち合う。天井から吊るした縄につかまり、しゃがんだ姿勢で出産をすることが普通だった。そして、犬は昔から安産の守り神だ。主人の出産に際し、産屋のそばに寄り添っていた。たまたま、母犬の出産も近かったのだろう。そこに、非情にも突然の山崩れが起きた。人々はなす術もなくまき込まれた。赤子も、一度は巻き込まれたのかもしれない。母犬が仔犬と共に掘り出したのかもしれないし、何かの奇跡で産屋の流出から逃れたのかもしれない。知るのは、もはやこの母犬しかいない。
とにかく、ひとりと一頭だけが生き残り、赤子は今、母犬の乳を探していた。




