(71) 白い娘
幻䗲が人の気配に気付くと、緊張して向き直り、大錫杖を掴んだ。山賊が戻って来た可能性がある。山の中で野盗らしい集団に合うことも度々あるが、やつらは弱者を狙う。熊幻䗲を敢えて襲う度量など持っていないが、用心にこしたことはない。
人の気配は、ぼろを纏った娘だった。襲われた家族の一人だろうか?それなら不思議だ。若い娘を拐わずにおくなどありえない。
娘は幻䗲が二人を弔う様子を見て安心したのだろう。警戒しながらも、姿を現した。
その手には、山で摘んできたのであろう瑞々しい野草の花束が握られていた。娘は静かに近づくと、幻䗲が築いたばかりの生々しい柴の山へ、その花をそっと置いた。それは、彼女なりの、精一杯の弔いだったのだろう。
幻䗲は、その娘の姿を見て、山賊の輩が娘を手放したのか、どうにか理解をした。娘の肌は、病人のように、見る人によれば死体のように白く、髪は老人のように色が薄い。瞳も盲のように黒さがなかった。
山賊は娘を拐ったはいいが、その人とは思えない怪異さに気付くと、恐れたのだろう。おそらくは、その祟りを恐れ、殺めることどころか、身ぐるみ剥ぐ事すら恐れてできなかったのだろう。殺めた老人の服まで剥いだというのに。
幻䗲は、かつて、みやこの東の市で、娘のような白い異人を見たことがあった。山の怪異でも妖かしでもない。それは、花を手向け、涙を流すことでも明らかだった。
幻䗲は、「大丈夫」と言い、娘に手を差し出す。娘はおずおずと彼の手をつかんだ。
もう一度「大丈夫」と言い、娘の手を握った。その手はちゃんと温かかった。




