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『海澪 -千年の縁-』  作者: 木峰圭介


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(70) 山賊に襲われた山家《さんか》の跡

 幻䗲(げんりん)は、大柄な身体で、無精髭をたくわえ、ボロボロの法衣こそ纏っていたが、野盗と見紛う姿をしている。知る人は、熊幻䗲(くまげんりん)、かつては僧の仲間うちでは子路(しろ)と呼ばれていた。子路(しろ)とは、古代中国での熊を表す隠語だ。

 見た目の荒々しさに反して、人当たりも柔らかく、愛嬌もあり、幻䗲(げんりん)の辻説法や講釈は、宗教家というより大道芸で、人気を得ていた。


 およそ半年ほど前、幻䗲(げんりん)が山道を歩いていると山の民、山家(さんか)の住み家があった。幻䗲(げんりん)はすぐにその異変に気がついた。血の臭いと荒らされた家。山賊に襲われてそれほど時間が経つていない。近くには老人と赤子の殺された死体があった。

 この時代、特に地方は乱れに乱れていた。山道を行けば、身ぐるみ剥がされた行き倒れの骸(むくろ)を見ることなどは、幻䗲(げんりん)にとって見飽きた光景だった。

 老人と赤子の遺体を並べた。周囲の藪から青々とした柴の枝をへし折り始めた。パキパキという音が山に響く。二人の上に折った柴を幾重にも重ねていく。やがて二人の姿が葉の下に完全に隠れると、その即席の緑の小山の棺に向かって静かに手を合わせ、念仏を唱えた。


 離れた場所で、隠れるようにその様子を見ていた娘がいた。

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