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『海澪 -千年の縁-』  作者: 木峰圭介


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(69) 法師陰陽師の幻䗲《げんりん》

 幻䗲(げんりん)と称する旅の僧がいた。実際には僧でもない、寺を追い出された破戒僧で、法師陰陽師として村々を巡り、地方から国が乱れはじめ、末法思想が広がり、人々の不安が広がる中、時に経を読み、祈祷をし、護符も書いた。薬草を集め、薬師(くすし)も真似事をしていた。

 幻䗲(げんりん)には、旅を共にする真白(ましろ)という若い娘と、まだ乳飲み子の男児がいた。男児は真白(ましろ)の生んだ子ではない。

 それに、大型の熊犬 (*8)が一頭。およそ一週間して、だいぶ傷は癒えたが、その時は全身傷だらけで、泥と血が固まって、無残な姿だった。今も右目の傷は治っていない。

 不思議な連れ達の話はのちに語る。


 幻䗲(げんりん)は、野宿の準備をしていた。一人旅なら、箕や法衣にまるまり、夜露をしのげば済むが、連れが増えるとそうもいかない。ましてや、娘と赤子だ。柴や薪も集め、火も絶やさないようにしなければ、野盗はもとより獣も避けなければならない。

 日が傾くと、ほんのりと輝く白い月待草の蕾をみつけた。

 およそ半年前に娘を拾い、一週間前に赤子を拾った。

 これ以上何あっても驚く事はない、これも何かの縁。そして、頭に浮かんだのは、『竹取物語』。

 〝光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いと美しうてゐたり〟

 月が望む頃、小さなポンと音がして蕾が開くと、中には本当に赤子の姿があった。

 人間界に流された、はつ姫(き)であった。



熊犬 (*8): マタギ犬などとも言われる。熊やカモシカなどの大型獣を狩っていた伝統的狩猟民「マタギ」が、猟を共にしていた犬。日本犬唯一の大型犬である秋田犬の祖先(秋田マタギ犬)がその代表格として知られる。



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