(66) 重なり合うふたつの|懸守《かけまもり》
わたじの村では、褌祝いをすませていない男、初経をみていない女は、手伝いこそすれ歌垣には参加しない。
こいしも陰から覗き見ることはあっても、まだ参加できない。
わたじは、この夜に旅に出ることはこいしに伝えてある。今、最後の別れをしにきた。こいしは家で静かに待っていた。
わたじに合うと、また泣きそうな顔で抱きついてくる。
こんな小さなこいしを両腕に抱くと、わたじは胸が苦しい。
「三年だ。受領の狗どもが帰れば、大丈夫。もう村にも迷惑はかからないだろう。必ず戻ってくる。三年すれば、こいしもおとなになる。そしたら、祝言をあげよう」
こいしは、くしゃくしゃに泣きながら、おにいちゃんを繰り返す。
「おにいちゃんに、御守りを作ったの」
と、薄紫の歪んだ丸い石を革紐で結んだ首飾りを見せた。
「この浜で一番綺麗な石をずっとずっと探したの。紐は父ちゃんに付けてもらった」
確かに細かい結晶が光る、あまり見ない綺麗な石だ。
「他の石は乾くとガサガサになっちゃうのに、この石だけはずっときれいなままだったの。こいしのこと、忘れないで」
「忘れるものか。一番大切な人だ」
大切な人と言った時、その言葉を思い出した。首にある玉胎龍の勾玉だ〟
「こいし。これは一番大切な人を守る懸守だ。こいしに預けようと思う」
「これって、わた助さんが着けてるやつでしょ?」
「昨日、大切な人を守ると言って譲り受けた。そして、あえて、こいしに持ってもらいたい。一番大切な人の証だ」
わたじは、こいしの首に玉胎龍の勾玉をかけ、こいしの薄紫の小石の首飾りを自分の首に着けた。
くしゃくしゃに泣くこいしを改めて抱きしめた。
わたじとこいしは、この時初めて睦みあった。
ふたつの石は触れ合って、磁器のような音を立てていた。
(AIによるイメージです。時代設定、キャラクター設定を汲んでない場合があります。これから登場するエピソード、登場人物のネタバレがある場合があります)




