(65) 歌垣の日
わたじの村の歌垣の当日、昼前から次第に近くの村から、一張羅のお洒落をした若い男女が少しづつ集まっていた。わた助達は出迎えの挨拶をし、知った顔は手伝いを申し出てくれる。手伝いながら、明るいうちにお相手の見定めをしている。
わたじも普通に準備の手伝いをした。役人の狗児の一人が死んで、明日にも見聞が来るという噂は広まっていたから、なおさら平常を装っていた。こちらには非はないと見せておく。
日が傾くと歌や踊りが始まる。村の歌垣は貴族のような雅な祭りではない。そして、若者が誰彼と交わるわけではない。男が申し込み、女が承諾すれば、木陰で睦み合う。初めて合う者もいれば、未婚だけでなく既婚者もいる。女側が断れば、男はそれで引き下がる。乱暴な男や強引な男は嫌われるだけでなく、つまみ出される事もある。暗くなれば、仮設の小屋で何組もが睦み合う、神聖な神事だ。後に盆踊りと名前を変え、同じような事が行われていた。中には祭りの雰囲気だけを楽しみ、交わりに加わらない娘もいれば、皆に拒否られあぶれる若い男もいる。そんな男を慰める年上の女もいる。ほんの百年前まで、日本の地方では続いていた祭りだ。
人の多い江戸等の町では必要ないが、孤立しがちな村では人の血が濃くなり、問題が起きるのをそうやって昔から防いできた、教科書には載らない文化だ。
わたじは、暗くなり薪に火が灯ると会場を抜け出し、こいしのもとに向かった。
(AIによるイメージです。時代設定、キャラクター設定を汲んでない場合があります。これから登場するエピソード、登場人物のネタバレがある場合があります)




