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『海澪 -千年の縁-』  作者: 木峰圭介


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(59) 白拍子の〝龍の前〟

 旅芸人の白拍子〝龍(たつ)の前(まえ)〟の一座は、今日も野宿を強いられていた。

 午後から総勢六人で庵(いお)と呼ばれる、なんとか野露をしのげる簡易のテントの準備をし、暗くなる前に一夜分の柴、薪を拾い集めていた。

 ほのかに明るく輝く、黄色い夕星草(ゆうづつくさ)の蕾を見つけたのは龍(たつ)の前(まえ)だ。それは、あの〝竹取物語〟を思い起こさせた。

 かすかにポンという音がして、思っていたように、花の中には三寸ほどの赤子がたたずんでいる。龍(たつ)の前(まえ)は両手優しく包み、庵(いお)に運んだ。

 それは、人間界に流されたつぐ姫(ひ)だった。龍(たつ)の前(まえ)という名の白拍子に拾われたのも、縁に違いない。

 赤子同様の姿のつぐ姫(ひ)は、ほぼ三月(みつき)で髪上げ(成人)に成長した。

 龍(たつ)の前(まえ)は、それを前もって理解しており、見習いの禿(かむろ)とは違い、早くから白拍子としての舞や歌を教え込んでいた。

 成人したここでのつぐ姫(ひ)に、〝夕星(ゆうづつ)の前(まえ)〟の名前を授け、連(つ)れとして相舞(あいまい)を舞い、人気を博していった。


挿絵(By みてみん)

(AIによるイメージです。時代設定、キャラクター設定を汲んでない場合があります。これから登場するエピソード、登場人物のネタバレがある場合があります)



 次兄の恵蓮(けいれん)が、人の世界に来て、つぐ姫(ひ)を探すのは違法ということはないが、関わりを持つことを公にすることは憚(はばか)られた。あくまで、偶然、秘密ということになる。

 龍界では十年以上だが、人の世界ではほんの一年少しとはいえ、旅芸人としての生活は難儀だろうと思われたが、気丈にも明るく笑顔で、変わらず美しかった。



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