(58) 村から逃げる算段
歌垣の祭を控えた翌日、噂が伝わってきた。
打ち所が悪かった狗児の男が死んだ。歌垣の翌日にでも見聞に来るらしい。
見聞とは聞こえがいいが、やつらのことだ。指ひとつ触れていないのに、責任を押し付けるに決まっている。その場でなぶり殺しにされかねない。最悪、身内だけでなく、村全体のせいにされるかもしれない。
わた助は言う。
「とりあえず、姿を消そう。お上の任期はあと三年もない、そうすれば、戻って来れる」
「皆に迷惑がかからないか?」
「なんとか考えよう」
村全体で反抗を企てたことにしないためにも、何事もなかったように歌垣は行う。
わたじの避難先、役人への言い訳をどうするか?
わたじは、村を歩きながら考えた。歌垣の参加者に紛れて他の村に隠れるか……他の村に迷惑をかけるわけにも行かない……ひとりで山中に隠れる……いや、山に隠れるくらいなら、無人の小島の方がいい……三年か……
ふと気が付くと、目の前に女がいた。時々遠くから見かけていたあの娘だった。
「私の国で匿うことができます」と言う。
明日の歌垣が落ち着いたら、港の奥にの舟を用意するという。もし、その気になれば、月が高いうちに出港するから、何も持たず身ひとつで来いという。
そう言うと、姿を消した。誰かの嫁ではなかったのかと思ったが、初めて言葉を交わした娘には、不思議な品格が感じられた。
その娘は、つぐ姫だった。




