(57) 狗児《いぬこ》の暴力
その日は波が荒かったので、漁は控えて、若衆の連中は歌垣の用意をしていた。
山の会場で仮設を仕上げる者が多い中、わたじは、ひとり港周辺を整えていた。
狗児と言われる役人の手先、ごろつきの数人の姿が見えた。中でも、今の狗児達は、前任にも増して乱暴で、誰もが関わりたくないと思っていた。
こいしの姿が見えた。
遠くからでも、こいしが狗児にからまれている様子はわかったわたじは、こいしに向かって走って行った。
こいしはが何かを拒んでいたのち、男が彼女の胸元から何かを乱暴にもぎ取ったのが見えた。
「何してる!」わたじが大声をあげる。
「お兄ちゃん」と言って、こいしが叫ぶ。
男は、手にした棒を振り上げて乱暴な声をあげて挑発してくる。
「離れろ!」
別の場所で、それを見ている姿があった。時間さえあれば、わたじを見ている姫。そしてその後には、二人を心配しているはつ姫がいた。
つぐ姫は、わたじを助けるつもりで、龍の気を使って男を弾き飛ばそうとする。
わたじは気付いてない。他の人目もない。殺めるつもりはない。ただ少し弾き飛ばせばいいだけだ。
「俺の嫁だぞ!」
わたじのその言葉に、つぐ姫は一瞬動きが止まった。次の瞬間、つぐ姫の後から、別の龍の気が飛んでいった。
はつ姫が飛ばした気だった。男はわたじを殴る前に、大きく飛ばされ、仲間の狗児の一人を巻き添えにして、下の岩場に落ちて行く。
後にいた他の狗児の輩達から見たら、わたじに殴られたと見えるかもしれない。
はつ姫は、つぐ姫に寄り添って、何も言わない。
わたじは、泣きじゃくるこいしにを抱き寄せる。
「大丈夫!こいしは泣き虫だな。もう安心しろ」
話ぶりから見ると、岩場に落ちた狗児が頭的な男なのだろう。気を失っていたが、大きく出血等はしていないようだ。巻き添えに落ちた落ちた男は、立ち上がって騒いでいる。
輩は、どこからか戸板を持っていき、意識の無い男を運び出した。直接、大声で言いがかりを付けてくる輩はいないが、わたじを睨み付けてくる。
わたじは、指ひとつ触れていない。一人てイキっておいて、急に足を滑らせたか、バランスを崩したか、自分で転んで落ちていったように見えたが、嫌な予感がしていた。
あいつらのことだ、後で言いがかりを付けてくるに違いない。




