(54) 問丸の宋桂《そうけい》
歌垣の開催日が決まって、あわただしく準備していると、新参の問丸の男が、しばしば村に現れるようになった。名を宋桂と自称した。普通に日本語を話す。粗野な商人と言うより、都の雰囲気をまとった若い男だ。村人の中には、大陸かぶれと言う者もいた。
薪や濁り酒等をいい条件で用意するという。余りそうな塩があれば買い取るし、足りなくなりそうなら、すぐに用意もするという。
時には、宋銭を革紐で結んだ首飾りを、若い村娘に贈ったりしていた。
「これからは、この銭で米や布と交換できるようになる。それに、都では身に着ける事が、今様のお洒落だし、お守りにもなる」と言っている。
こいしもひとつもらっていたが、年長けた二十歳の姉のこはくはもらえなかったと、少し不機嫌そうだった。
宋桂は、わた助にこういう提案もしていた。
ここの村人は、山の上の仮設小屋を作る手際もいい。加工場の側に、仮置きの倉庫小屋を作ってはくれないか。荷が多くて運びきれない時には留置きできるようになるし、集荷しておけば効率的だ。資材を無料で提供してもいい。お上の問職に全部まかせていたら、ピンはねされてばかりだろう。なんなら、次回の歌垣の時は仮小屋ではなく、しっかりとした小屋にすればいい。
悪い話ではないが、わた助は慎重だった。宋桂は、人あたりが良すぎる。だから余計に胡散臭い。




