(37) 大漁祝い
わたじが港に着いた時には、見晴らしの明かりがついたのを見て、松明を持ってわたじの舟を探しに出港しようとしている村の舟がいた。
村の人達にも、、心配と迷惑をかけて、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
舟を着けて、一番に駆けつけたのは、こいしだった。遠くからわたじの姿を見て、安心したのだろう。お兄ちゃんと大声で泣きながら、走って抱きついてきた。
そして、わたじが全身血まみれなのに気がついて、更に大声で泣きだした。
「わたじ、どこを怪我した?」
わた助が声を掛けた。
「少しでも軽くしようとして、手探りでワタを抜いた。大丈夫、どこも怪我はしてない」
「なら、よかった」
焚き火の明かりで見ると、こいしはわたじの血が付いた以上に土まみれなのに、わたじは気が付いた。
「どうした、こい?」
「すぐに火をあげられたのは、こいしのおかげなんだ。それに、おまえの舟を見つけて、山をくだる時に何度も転げてきたからなぁ」とわた助。
こいしは、わたじに抱かれて、まだ子供のように泣いていた。今は、わたじが無事なのがわかって、嬉し泣きが止まらない。
「怪我がないなら、先に風呂に行ってその血糊を洗ってこい。こいしも一緒にきれいにしてやれ。後の処理はみんなでやっといてやる」
わた助が伝えると、わたじは申し訳なさそうに従った。
無事な帰港が伝わったのだろう。見晴らし台の焚き火も消えかかっていた。
日が沈んで、まだ一時ほどもたっていないだろう。こいしの〝念のため〟が、こんなにも役にたった。
わたじの釣果は鰹十尾、鮪二尾。褌祝いとしてだけではなく、ひとり舟としても記憶にない大漁だった。
魚の処理が終われば、村中でわたじの大漁を祝い、その夜は盛り上がった。
わたじ本人は、申し訳なさでいっぱいであった。




