(34) 最長級のなぶら
わたじは、下からわき上がってくる小魚を脅かさないように鳥山に近づく。かなり日も傾いて、なぶらが起きやすい時間だ。
今日の最後のチャンスだろう。
上から見ると魚影が見えるのだろうか? 海鳥の数が増えだした。なぶらがどちらに移動しているのか見極めて、先回りして針を流したいところだ。
数尾がときおり水面を跳ねたかと思ったら、突然、海面が沸いたように、小魚が一勢に水面に現れた。これが〝なぶら〟だ。下から鰹か鮪が小魚の群れを上に追い立てているに違いない。
針を流すと、早速鰹がかかった。使い慣れた手鉤で舟に取り込む。針を外して、また流すと、続けてかかった。
舟を漕いで走らせる、かかった魚を引き揚げ、舟に取り込む。針を外して、海に流し、舟を漕ぐ。
父親とわた助がいれば、手分けしてやる作業を、今日は一人でこなさなければならない。おそらくなぶらが続くのは十分もないだろう。
わたじは夢中で作業を繰り返した。
いつもなら数分で静まるはずのなぶらが、その時に限って三十分経っても消えない。目の前はカツオが狂ったように跳ね、投げれば掛かる。
一人で乗るわたじは、その〝滅多にない最長級のなぶら〟に興奮し、我を忘れて夢中で釣り続けてしまった。
気がついたときには、舟の床はカツオで埋まり、太陽は水平線の向こうへ完全に沈み、西の空にわずかに明るさが残るだけだった。




