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(30) もし万が一
空が明るくなると、他の漁師の舟に混じって、わたじの舟もなんとか確認できた。
「お兄ちゃん、頑張って」
こいしは、口に出して祈る。
浦家には、長兄のわた助がいるので、普段は〝たじさん〟呼びなのだが、二人きりの時には、子供の頃のように〝お兄ちゃん〟呼びになる。もう、他の人に聞かれると、なぜか恥ずかしい。
日が昇ると、光る海の波に紛れて、もう、区別はつかなくなった。
この見晴らし台には、焚き火の跡がある。夜に何か集まる時に灯り代わりに燃やすだけでなく、何かトラブルがあって帰港が遅れる時に、灯台のように火を点ける。
『そうだ、もし万が一にもお兄ちゃんが迷っても大丈夫なように、柴と薪を集めて、乾かしておこう』
こいしは、遠く海を眺め、わたじの無事を祈りながら、柴と薪を拾って集める。勿論、使う事もなく、暗くなるまでに帰ってくれれば一番いいのだが、こいしは心配で、ただ待って祈ってるだけではいられなかった。
もっと幼い頃は、わたじと一緒に柴を集めくらいしか手伝いができなかったのを思い出す。そして、その頃からずっとお兄ちゃんは優しかった。




