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『海澪 -千年の縁-』  作者: 木峰圭介


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(18) |明寿《ああす》と歩く

 二人は人に身を変えて海辺の村を歩いていた。

「つぐは、まだ、あの人間が好きなの?」

 明寿(ああす)が、遠くに見えるわたじを視線で示して、つぐ姫(ひ)に尋ねた。

 「……」

 何も言わないつぐ姫(ひ)だったが、顔が赤くなって、答えを聞くまでもなかった。

「つぐは分かりやすいね」と明寿(ああす)が笑う。

「ここらへんは、海女が栄螺(さざえ)捕るのは夏だけなのに、もう寒くなっても、つぐが裸であの人の事を覗き見してたのを見つけた時は、びっくりしたんだよね」

「もう、言わないでよ」

「はつ姉さんも、心配してたからね」

 龍界に人は入れられない。もし万が一夫婦になりたい人間ができたら、龍界を捨てて人の世界で夫婦になる。前例がないわけではないけれど、ことごとく、破綻している。

「わかってる……」

「そう言えば、明寿(ああす)達って、結婚とか恋愛とかないの?」

「うちらって、成長がめちゃくちゃ遅い長命種族だからなぁ。恋愛感情が不足してるんだよね。それに、仲間はおそらく、前に居た、遠い西の果ての島にしか、いないんじゃないかな」

「いつか、帰るの?」

「わからないけど……かなりこっちが気に入ってる。みんな優しいしね」

 明寿(ああす)は笑う。

「向こうでは、人間と戦って、負けちゃってるんだよね」

「そんなことがあったんだ」

「本当に、こっちの人間て、優しいよね。つぐが好きになるのも分かるよ」

「そうだ……つぐに教えてあげよう。もうすぐ、あの人間の男の褌祝(はかまいわ)いをするらしいよ」

「褌祝(へこいわ)い?」

「この村の男の元服(せいじんしき)みたいなものなんだ」

 明寿(ああす)は、かつて見たこの村の褌祝(はかまいわ)いの様子を、つぐ姫(ひ)に話してきかせた。

「わたじさん、ひとりで海に出るんだ」

「つぐ、あの人間の名前、知ってるんだ」

 つぐ姫(ひ)は、また、顔が赤くなった。




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