第二十五話 やりたかったこと
「マジっすか本体来ちゃったっすよ」
「まったく、面倒臭いったらありゃしねえ。とりあえずお前らは下がってろ、俺の合図まで魔力を温存するんだ」
「なんでこんなことをした。協会への恨みか?」
「別に協会への恨みはそんなねえよ。ある程度仕方なったからな」
和田はあっさりと答え、続ける。
「腹が立ったのはハンターでもねえ一般人どもだ」
「一般人?」
「ああ、ハンターでもねえ奴らが、ハンターに税金を使いすぎだの、侵出を起こしたハンターは辞めろだの……感謝されるのは天内や円城とかのメディア受けがいい奴ら」
「俺らも命かけて守ってんだ、ちったあ、崇めたたえろってんだ」
「なんだ?あがめられたかったのか?」
櫻田から思わず間の抜けた声が漏れる。
「別にあがめられたかったわけじゃない、有名になりたかったんだ。お前には分からないだろうな」
「いや、分かる分からないの前に……今だって十分有名だろ」
「十分?」
和田が鼻で笑う。
「俺のどこが有名だってんだよ。せいぜい、“名前は聞いたことあるかもな”程度だ」
一拍置く。
「そんなもん、すぐ忘れられる」
その声には、妙な確信があった。
「……じゃあ、どのくらいなら満足なんだよ」
「歴史に名を遺すレベルだ」
迷いはなかった。
「死んだ後も、語られ続ける」
「それがいい」
空気がわずかに冷える。
「くだらねえな」
吐き捨てるように言う。
「それに、こんなことしたくらいで、そんなもんになれると思ってんのか?」
「はっ……」
和田は肩をすくめる。
「誰がこれで終わりだって言ったよ」
視線が、ゆっくりと持ち上がる。
「まだ、序の口だ」
「……なに?」
「あと30分」
淡々とした声。
「国会に議員が全員集まる。総理含めてな」
和田は懐から、小さな装置を取り出す。
「そこを――これで吹き飛ばす」
空気が凍る。
「……おい」
言葉が、出ない。
「それは流石に――」
「やばい?」
和田が笑う。
「当たり前だろ」
そして、少しだけ視線を落とす。
「俺はな、天内や円城みたいに顔がいいわけでもねえし、飛び抜けて強いわけでもねえ」
「そんな俺が歴史に名を遺すには――これしかなかった」
拳を軽く握る。
「革命家として、生きる」
「そのためなら、死ぬ覚悟もできてる」
一切の迷いがない声だった。
「……狂ってる」
「そうかもな」
あっさり肯定する。
だが――
「でもな」
和田の目が、わずかに鋭くなる。
「これは俺のためだけじゃねえ」
「この国のためでもある」
「は?」
「ゲートの数は増え続けてる」
「このままいけば、ハンター不足で確実に滅ぶ」
「だからその前に――荒療治が必要なんだよ」
「国に訴えれば――」
「無理だな」
和田は呆れるように答える。
「上の連中は、自分の立場を守ることしか考えてねえ」
「そんな連中が、“覚醒の強制”なんて決断できるわけがない」
一歩、前に出る。
「だから俺がやる」
「俺が世界を、変える」
「俺の夢もかなってついでに国も救う。一石二鳥さ」
櫻田は言葉に詰まった。
和田の言っていることは正しい。
櫻田だって上の連中は嫌いだ、国のためだと言いながらハンターをこき使う。
そのくせ犠牲が出たらハンターのせいだと言って責任は取らない。
だが――
「人を殺すのはいけねえだろ」
「……道徳的じゃないってのか?数百人が死ぬことで何十万、数百万人も生かすことができるんだぜ。こっちの方が道徳的じゃないのか?」
「未来のことなんて分からねえよ、もうすぐスーパースターが現れて日本を救ってくれるかもしれねえじゃねえか」
「そのスーパースターを生み出す可能性を上げるためにも覚醒を強制しなきゃならんのさ」
「……だがそのために協会の人間を殺し、議員も殺すんだろ」
「協会の爆破は、機材を壊して追跡を免れるためにやったことだ。ハンターがあんな爆発ごときで死なねえよ」
「そうか……それは……良かった」
聞けば聞くほど、決断が鈍る。
このまま和田に流されれば楽になれる。
迷い苦しみながら和田と戦うこともなく、今後自分の仕事も減る。
たった数百人が死ぬことを許容すれば……
「ふんっ!」
櫻田は自分の頬を叩き、気持ちを切り替える。
「やっぱ人が死ぬのは許せねえ!どうせなら人を殺さず有名になってくれよ!」
「だったら代替案を出せってんだ。人も殺さず、世界も救えるな!」
――ドーーンッ!
次の瞬間、後ろから爆発音が響く。
「ガッ!?」
そして櫻田の胸に痛みが走る。
これは分身が破壊された時の痛みだ。
「あれは時限爆弾でな。ようやく爆発したらしい」
和田は櫻田から目を離さずに言う。
「さあ、人殺しが嫌なら止めてみな!特別に受けて立ってやるよ!」




