第二十四話 少し早い到着
――カンッ、カンッ、カンッ!!
金属同士がぶつかり合う、鋭い音が連続して響く。
火花が散り、足元の砂が弾ける。
「こんなとこで会えるとは思ってなかったぜ、和田!」
「こっちもだよ! 会いたくもなかったがな!!」
――ガンッ!
櫻田の刀が、和田の刃を押し込む。
一瞬だけ、力の拮抗が崩れた。
和田の武器はブルー・アーセナルから奪った遺物。
触れた相手の動きを止める――厄介な能力だが、致命的な欠点がある。
リーチが短い。
だからこそ、こうして刀で押し合う間合いでは不利になる。
「なんで分身のくせして、いつもより速いんだよ!」
「はははっ! いつものクソだるい体より、思いのまま動かせる分身の方が動きやすいんだ!」
「そうかよっ!」
和田は強引に体勢を崩し、分身の腹へ蹴りを叩き込む。
――ドンッ!
「ん? なんで吹っ飛んでんだ?」
「遠隔じゃ、なにが起こってるかいまいち分かんねえだろ」
和田は軽く足を振りながら続ける。
「だが相変わらず固てえな。鉄蹴ってるみてえだよ」
「なんだ蹴られたのか。ついでに一太刀入れときゃ、動き止められたんじゃねえの?」
「俺もどんくさくてよお、そんな器用じゃねえんだ」
「そういやそれ、分身にも効くのか?」
「さあな――試させてくれよ」
「いやだっての。てか前にもこんな会話したわ」
軽口を叩きながらも、間合いは詰まる。
次の瞬間――
「チェストォォ!!」
分身が跳ぶ。
真上から、一直線。
「チェストとか言いながら頭狙ってくるんじゃねえ!!」
「チェストって頭じゃなかったのか?」
落下しながら、分身が笑う。
「俺は剣道なんてクソくらえのハチャメチャ我流でやってきたから、そういうの知らねえんだよ」
「お前のは素人に毛が生えたレベルだよ! 我流って言うのも恥ずかしい、っよ!」
再び蹴り。
――ドンッ!
「チッ、お前それズルいよ!」
分身が地面を滑りながら叫ぶ。
「こっちは良く見えないんだ! 少しは手加減しろ!」
「ふざけたこと抜かしやがる」
和田は鼻で笑う。
「ここにいねえのに俺らを足止めできてる。そっちの方がよっぽどズリィよ」
一瞬の静止。
そして――
「……メーン!」
再び突っ込む。
「その攻撃はもう見たよっ!」
和田が迎え撃つ。
だが――
――スカッ
蹴りが、空を切る。
「へっ! そう何度も同じ手に騙されるか?」
分身が笑った、その瞬間――
「……ボヘェ!?」
情けない声。
体勢が崩れる。
「なんだあ?」
「イテテテテ……クソ、走ってる途中で車にはねられちまったよ」
「ぷっ……だせえ」
和田が吹き出す。
「俺らじゃなくて、もっと周りに気を付けるんだな」
だが、その裏で――
(もう五キロ……!?)
和田の視線が鋭くなる。
魔力探知。
櫻田本体が、すぐそこまで来ている。
五分もかからない距離。
「ダラダラしてる暇はねえな」
声が低くなる。
「さっさと決めるぞ――やれ、中野!」
次の瞬間。
「あれ?」
分身の動きが、完全に止まる。
「……動かねえ?」
この感覚に櫻田は覚えがある。
そう、ブルー・アーセナルで体を止められた時と同じ感覚だ。
だが、分身はあの刀に触れていない。
「どういうことだ?」
「はあ、はあ……どうっすか……!」
中野が膝に手をつきながら笑う。
「俺、Sランク相手に通用しましたよ……!」
「よくやった」
和田は即答する。
「だがまだ“止めただけ”だ」
一歩、近づく。
「さっさと終わらせる」
――ガン!
遺物の刃が振り下ろされる。
だが――弾かれる。
「チッ……分身のくせしてクソ固え」
「へっ……そんな錆びた刀じゃ、いくら切ったって倒せねえよ」
「まだ磨いてねえからな」
和田は肩をすくめる。
「まあ、倒せなくてもいい」
動かない分身を見下ろす。
「動けないなら――それで十分だ」
分身を和田達がどこに向かうか分からないようにし、ポケットから丸い、無機質な物体を取り出す。
「ついでのプレゼントだ」
無理やり握らせる。
「ちゃんと死ねよ」
背を向ける。
車へ走る。
エンジンが唸る。
「「待てよ!!」」
同時に、二つの声。
前と――後ろ。
「……は?」
次の瞬間。
――ドゴォォン!!
車のボンネットが、上から叩き潰される。
かかと落とし。
鉄が歪み、爆ぜ、炎が上がる。
だが――
和田たちの姿は、そこにない。
「瞬間移動かよ……」
炎の向こう。
一人の男が、ゆっくりと立ち上がる。
刀を握ったまま。
呼吸は荒い。
それでも――
笑っている。
「随分早いご到着じゃねえか」
和田が吐き捨てる。
「どんなチート使ったんだ?」
櫻田は息を整えながら答える。
「はあ……はあ……」
一歩、踏み出し――
「なーに……」
抜身の刀が和田を捉える。
「また少し、寿命削っただけさ」
炎が揺れるその奥せ男の目がまっすぐ和田を見据えていた。




