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第十九話 入院中

真っ白な天井。

背もたれを起こせるだけの簡素なベッド。

鼻を刺す、消毒用アルコールの匂い。


――病院だ。


櫻田がここにいる理由は単純だ。

魔力切れで気絶。麗奈に運ばれ、病院で三日過ごしている。


「……一日中寝てたのに」


小さく呟く。


これだけ眠ったというのに、体はいまだに絶不調だ。

原因は分かりきっている。


――分身。


今もなお、維持し続けているそれが、魔力を削り続けている。


「それであなたは仕事に戻らなくていいんですか? 会長」


ベッドに寝たまま、横目で見る。


「俺だって少し休憩が必要なんだ」


椅子に座ったまま、荻野会長は肩をすくめた。


「お見舞いと称して休憩時間を確保してるんですね」


「言うな」


ぶっきらぼうな返し。


目覚めてたのが二日前。

そして会長は毎日お見舞いに来ている。

今回に至っては、三時間も一緒にいる。


退屈はしないが――少しだけ、息が詰まる。


「分身、解除していいですか?」


「だめに決まってるだろ」


即答だった。


「魔力切れで倒れて、入院までしてるんですよ?」


「分かってる。だが状況が状況だ。諦めてくれ」


短く、だが重い声音。


和田が協会を離れて、二週間近く。

その間、侵出は増え続けている。


人的被害も、じわじわと拡大していた。


ハンターたちが食い止めてはいるが――それも限界が見え始めている。


「……すみません」


「何を謝っている?」


「全部です」


視線を天井に戻す。


「和田を逃したことも。今こうなってるのに、俺は何も出来てないことも」


麗奈も、他のSランクも、休みなく動いている。

ゲート、侵出、その対処。


麗奈でさえAランクだ。現場に出ている。


それに比べて、自分は――


「お前は十分やってる」


会長が言い切る。


「分身は役に立ってる。特にゲート発見だ。今まで足りてなかった部分を、お前一人で補ってる」


「……そうですか。会長に褒められるとなんか変な気分ですね」


「ふんっ、俺だって変な気分だよ」


会長はあからさまに顔をしかめる。


「あと、お前たちが言っていたゲート探査機だがな」


会長が続ける。


「上と話は通した。前向きに検討するらしい」


「前向きに検討するのはいいですが、ホントできるだけ早く作ってください。人が死にますよ」


「それはお前のことを言っているのか、一般人のことを言っているのか知らんが、出来るまでに最短で三か月だ」


「……三か月」


思わず復唱する。


「それでも最短だ。下手すりゃ半年だな」


沈黙が落ちた。


長すぎる。

なんとか持ちこたえているが、この状況が続くとは限らない。

櫻田は分身をゲート探しに使っているため、必然的に戦闘用の分身が少なくなる。


しかも櫻田が全ての分身を消し、三日ほど分身が出せない日々が続いたため、かなりゲートが溜まっている。

あと一週間もすれば攻略しきれないゲートが現れ始めるだろう。


「……ほんと、今までよく回ってましたね」


ぽつりと漏れる。


会長は何も言わない。


「失ってみて分かる、か」


会長はそう小さく呟く。


確かにそうだ。


和田がやっていたこと。

その重要性。


それを理解していた人間が、どれだけいたか。


少なくとも――多くはなかった。


「……絶対に連れ戻さないと」


「そうだな」


短い同意。


和田の気持ちは分かる。

不満も、理由も。


だが――


それとこれとは、別だ。


連れ戻さないと、人が死ぬ

だから連れ戻す。

今は、それでいい。


「和田の居場所に見当はついてるんですか?」


「いや、まったくだ」


「結局現れるのを待つしかないのか……

和田ももうあまり人前に出ることはないんじゃないですか?」


「いや、それならブルー・アーセナルを襲ったわけが分からない。ただ自由を貪っていたいだけなら、捕まるリスクを冒して武器なんかを奪うはずがない」


「確かに日常生活で武器なんか必要ないですからね。そういえば何が奪われたんですか?」


「遺物一つとSランク武器二つ、バリアが五個。そして、爆弾が約百個だ」


「爆弾か……確かに、ブルー・アーセナルの壁を破るのに結構使っていたな、だが百個はいくらなんでも多すやしないか?」


「分からない」


「テロでも起こすつもりなのか?」


「さあな。でもそうだったら日本は簡単に崩れるだろうな」


だがそんなことはありえないだろう。

テロなんて頭のおかしい連中がすることだ。


和田は疲れただけで頭がおかしいわけではない。


――犯罪はただの手段だよ。夢のための、な。


その言葉が脳裏につっかえる。

和田が言っていた夢とはなんのことだったのか……

次あった時に教えてくれると言っていたが、もう一度会う機会なんてあるのか?


「さて、俺はもうそろそろ行くとする。やらなきゃいけないことがまだ残ってるからな」


「俺も回復したら――」


――プルルルル


電話が鳴った。


「……なんだ?」


会長が通話に出る。


数秒。


「――おい、テレビをつけろ!!」


怒鳴るような声。


「え?」


「いいから早く!!」


ただ事じゃない。


櫻田はリモコンを掴み、電源を入れる。


映し出されたのは――


崩れた建物。

立ち上る煙。


見慣れたはずの場所。


「……は?」


思考が止まる。


「協会……本部……?」


『先ほど爆発した日本ハンター協会本部――』


レポーターの声が、遠く聞こえる。


『犯人の情報はいまだ――失礼しました、新しい情報が入りました』


紙を受け取り、読み上げる。


『犯人はSランクハンターとして名をはせている……』


『和田 誠也ハンターです』

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