第十七話 再会
「止まれ! この先は立ち入り禁止だ」
爆発音のした方向へ進んでいた櫻田たちは、通路の手前で武装した警備員に制止された。
「その先で爆発音が聞こえた気がするんだが?」
櫻田は足を止めないまま、淡々と問い返す。
「そうだが……何か関係が?」
警備員の視線が鋭くなる。
「関係あるかって……私たちは――」
「待て」
麗奈の言葉を遮り、櫻田が一歩前に出る。
「手伝いは不要だ。戻って大人しくしてろ」
そう言いながら、懐からハンター証を取り出す。
「俺はSランクハンターだ」
その一言で、空気が変わった。
「さっき攻略の要請が来た。どこから出られる?」
視線をまっすぐぶつける。
「で、出入口はすべて塞がれている!犯人が捕まるまでは誰も出られない」
「爆発で穴とか開いてるんじゃないか?」
「そ、それは……」
「対応が遅れれば侵出が起きるぞ」
一歩、距離を詰める。
「その責任、お前が取れるのか?」
「……いや…………」
言葉に詰まる警備員。
「責任が取れないなら、さっさとどけ」
わずかな沈黙。
やがて警備員は歯を食いしばりながら道を開けた。
「……通行を許可します」
「最初からそうしとけ」
櫻田はそう言い捨て、そのまま通り抜ける。
数歩進んだところで、
「攻略の要請なんていつ来てたんですか?」
後ろから麗奈が小声で問いかける。
「は?」
振り返りもせず答える。
「そんな要請、来てるわけないだろ」
「えっ?」
「帰るために言っただけだ」
あまりにもあっさりとした口調だった。
「えええー!? じゃあ泥棒はどうするんですか!?」
「どうでもいい」
「じゃあここに来たのって……」
「ああ」
ようやく少しだけ振り返る。
「帰るためだ」
「最低すぎません!?」
「効率的って言え」
それだけ言って、再び前を向く。
***
通路の先。
爆発の痕跡はすぐに見つかった。外壁が、大きく抉れている。
「やはり、あの爆発はこれを抜くためか」
櫻田が低く呟く。
「この施設の強度は相当なはずですが……」
足立が断面を覗き込み、指先で軽くなぞる。
「こうも容易く破られるとは。すでに逃走済み、という可能性もありますね」
「だが、あそこで警備員が見張ってたってことは、逃げ道だけを作って、まだ中にいる可能性もあるな」
櫻田は穴の向こうへ視線を投げる。
「……まあ、そんなことはどうでもいい」
一歩、外へ踏み出そうとした――そのとき。
――タタタタタ
複数の足音が、一直線にこちらへ近づいてくる。
反射的に振り向く。
「げ、なんでお前が!?」
聞き慣れた声。
「……和田」
通路の奥から現れたのは、袋を抱えた三人組。その先頭に立つ男の顔を見て、櫻田の目が細くなる。
両手の袋はパンパンに膨れ上がっていた。
「クソ、櫻田以外も強そうなのがいるじゃねえか」
視線が走る。
配置、距離、逃走経路――瞬時に再計算しているのが分かる。
「えっ、櫻田さんってあの泥棒と知り合いなんですか?」
「彼は和田誠也。Sランクハンターですよ」
足立が淡々と答える。
「ええー!? Sランク!?」
「チッ……今日はもう帰れると思ったのによ」
櫻田が舌打ちする。
――面倒くせえな。
ここで戦うのは手間だ。だが逃せば、もっと面倒になる。
「ど、どうしてSランクハンターが泥棒なんか……?」
「さあ。私は協会の人間ではありませんので。ただ――」
足立がわずかに笑う。
「櫻田君なら事情をご存じなのでは?」
「話は後だ」
短く切る。
「まずは捕まえる」
「ええ、同意します」
足立が軽く頷く。
「では飯村君は見学で」
「えー!? ボクも戦えるんですけど!」
「では、隙を見て動いてください。相手もそれなりですから」
軽い調子とは裏腹に、空気は完全に戦闘へ移っていた。
「とりあえず、和田を捕まえることに集中しろ。他は後回しだ」
――和田さえ捕まえられれば、この苦痛も終わる。
「だ、ダメですよ!盗まれたものも取り返さないと!」
「俺には関係ない」
「じゃあ、私がやります!」
麗奈が息を整える。
「じゃあ、俺が和田をやる」
宣言と同時に、櫻田が踏み込んだ。
一瞬で間合いを潰す。
「おいおい、ずいぶん魔力減ってんじゃねえか」
和田の目が細くなる。
一目で見抜いていた。
「ああ」
踏み込みながら答える。
「お前の代わりを、俺の分身がやってるんだ」
さらに加速。
「さっさと戻って、俺の負担減らせ!」
「やなこった」
即答だった。
和田の足がわずかに下がる。
「だったら――」
櫻田は拳を勢いよく振りかぶる。
「力ずくだな!!」




