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第十五話 クラウン

「ハンター用のスマートフォンとなりますと、三十万円となります」


「そんなにか?」


提示された金額に、櫻田はわずかに眉をひそめた。

これまで使っていた端末は協会支給だったため、値段など意識したこともない。――あれを叩き折ったのは、少しばかり勿体なかったかもしれない。


「はい。ゲート内でも通信が可能なよう、特殊な魔力機構が組み込まれておりますので……」


「まあ、仕方ねえな。分かった、買う」


「承知いたしました」


手続きを進める店員を見ながら、ふと疑問が浮かぶ。


「そういえば、どうしてこれは現金なんだ?」


ブルー・アーセナル内は基本的にポイント決済のはずだ。


「ハンター用スマートフォンは、救難信号の発信などにも用いられる必需品です。命に関わる装備に関しては、現金でも購入可能となっております」


「へえ……じゃあ、ポイントでも払えるのか?」


「はい。三百ポイントとなります。こちらにハンター証をおかざりください」


端末にハンター証をかざす。

ポイントは、クレジットカードのように決済に使用できる。


「確認できました。またのご来店をお待ちしております」


***


「櫻田さ~ん、用事は済みましたか?」


「ああ、新しいスマホを買ってた」


「へえ~……それより今日はどんなものを買ってくれるんですか!?」


期待に満ちた目で見上げてくる。


「……十万ポイントまでなら何でもいい」


それだけやればAランク武器、いやSランク武器でも買えるはずだ。


「えー! 十万ポイント!?」


周囲の視線が一斉に集まった。


「しっ、声がでけえ!」


「じ、十万ポイント……へへ、へへへ……」


麗奈の頬が緩みきる。


――分かりやすいやつだな。


「とりあえず武器だろ。行くぞ」


***


それから一時間後。


「……はあ、やっと見つけた」


案内板を何度も確認しながら歩き回った末、ようやく武器エリアへ辿り着いた。


「櫻田さん、顔色悪いですよ?」


「お前が寄り道しまくるからだろうが……」


道中、麗奈は目につくものすべてに興味を示し、そのたびに足を止めた。

結果、武器屋に着くまで無駄に遠回りする羽目になった。


それに加えて――分身による魔力消費。


想像以上にきつい。


「さっさと選べ。時間は十分だ」


「えー!? 短すぎます! 二十分!」


「……分かった。決まったら呼べ」


「はい!」


麗奈は即座に武器の列へと駆け出していく。


櫻田は近くのソファへ腰を落とし、そのまま背を預けた。

周囲の視線が刺さるが、気にしている余裕はない。


――このまま続いたら、先に俺が潰れるな


和田を逃した代償。

それを埋めるための分身運用。


そして、未だ導入されていない探査機。


「……早くどうにかしねえと」


小さく呟いた、そのとき。


「おや、これは櫻田君ではありませんか」


聞き覚えのある、軽薄な声。


「……誰だ、俺の眠りを妨げるのは」


右腕で目元を覆ったまま応じる。


「相変わらずお辛そうですねえ」


腕をどける。


「……クソ、お前かよ」


予想通りの顔に、遠慮のない暴言が漏れる。


「クソとは心外! 私はあなた様と良き友人でありたいだけなのに!」


「奇遇だな。俺もそう思ってるよ」


心のこもらない返答。


目の前の男――足立東司。

ギルド〈クラウン〉の長であり、Aランクハンター。


「今日は何を? 赤い鼻でもお探しで?」


「ハッハッハ! ご冗談を。この場所に来る理由など、武具の新調に決まっているでしょう」


「俺はスマホ買いに来ただけだがな」


「おや? では先ほどのお連れ様は?」


「見てたのかよ」


「ええ、偶然に。お邪魔にならぬよう、お一人のタイミングでお声がけした次第です」


「それが一番邪魔だ」


ため息混じりに言う。


「……あいつの武器を買いに来た」


「ほう、私と同じですな。私も新人への贈り物でして」


「へえ、お前がか。相当気に入ってるらしいな」


「おや、それはそちらも同じでは?」


視線が交錯する。


言葉は軽いが、その奥にある緊張は明らかだった。


一触即発――まではいかないが、火種は十分。


***


「うわ、なんかバチバチしてるね」


少し離れた位置で、麗奈が小声で呟く。


「それも当然です。片や協会のSランク、片やギルド長ですから」


隣に立つのは、クラウンの新人――飯村健也。


「ギルドってそんなに対立してるの?」


「ええ。元は協会に不満を持ったハンターたちの集まりですから」


淡々と説明する。


「収入源は主にゲート攻略によるポイント。そのため、案件の取り合いになるんです」


「でもハンターって人手不足じゃないの?」


「それは高ランクの話です。Cランク帯は逆に供給過多でして……効率がいい分、競争が激しい」


「なるほどねえ……」


「協会は安定、ギルドは自由。どちらを取るか、という話です」


「家とかもあるもんね、協会って」


「ええ。ただしCランク以下の待遇はそれほど良くありません。年収も一千万程度。なら自由を選ぶ者も出てきます」


飯村は少しだけ声を強める。


「いずれはギルドの立場を押し上げるつもりです」


「ハンターの民営化、か」


背後から声が割り込んだ。


「さ、櫻田ハンター!」


「だが、それには法律の壁がある」


視線は足立へ。


「Sランクがいない限り、話にならない」


「私では不足ですか?」


「ああ、なんたって協会にはSランクハンターが5人もいるんだ。そこを変えなきゃギルドが台頭することはない。だからどうにか法律を変えてくれ、そうでもしないと俺が死ぬ」


そう、それは足立がAランクだから許されているわけでSランクである櫻田は協会を抜けることはできない。


「それは、法律が無かったら協会をやめるってことかい?」


「……」


「手っ取り早く成績を落として、Aランクに落ちたらどうだい?」


「そんなことしたら、何人死ぬか分からない」


空気が一段、重くなる。


「――そういえば」


足立が話題を変える。


「最近、侵出が増えているとか。何かご存じで?」


「……麗奈、武器は決まったか」


露骨な話題逸らしだった。


「えっ!? あ、まだです! もう少しだけ!」


「チッ……いつ帰れるんだか」


櫻田は小さく吐き捨てた。

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