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第一部おまけ① アケルナーの子ども達

二部を始める前に……

自分で読み直し、足りないと思う部分を短編の「おまけ」として追加することにしました


数話のみ、不定期更新です

(ツィーナ視点はありません)


楽しんでいただければ何よりです


Side カウス

※11部以降の出来事です※



ツィーナは昔から分かりやすい。

もちろん、あの大暴露大会の後から、という意味だが。


あの、「サイコロトーク」とかいう謎の話法は、ある意味画期的だった。テーマが決められているからこそ、なかなかに無視し難い。周りの3人がやる気に満ちていたから尚更だ。


「っ! ……おっ、おはよぅっ、カゥ、カウスっ、くんっ!」


その非常にわかりやすいツィーナは、ここ数日、わかりやすく挙動不審だ。

なんなのだろう……可愛い過ぎて反応に困る。僕を意識していることが丸わかりじゃないか、これ。


正直な心境として、そもそも、愛を告げて絶望されるとは思わなかった。彼女が僕を義息子として遇しようと努力してきたのは知っているが、ショックだった。

好きだと、だから母親とは思えないのだと──血を吐くような想いの吐露の結果が、あの晩の涙であり、このぎこちなさだ。少しは甘い雰囲気に流されてくれてもイイのではないかと、残酷な現実に打ちのめされた。が……。


(そういえば、あの卵ボーロとかいう菓子、なかなかに楽しめた)


「ツィーナ、明日は何か予定はありますか?」


「え!? ええぇ、えと……」


一言でも多く声を聞きたい。そんな気持ちから、朝食の途中で問いかけた。


「明日の午後なのですが」


気まずいらしいツィーナが、早く食べ終わろうと考えているのに気付いてしまった。だからこそ、言葉を重ねる。


「明日の!? 午後……っ!?」


恐らく、質問の意図を読もうとしているのだろう。

あちらこちらと彷徨う落ち着きのない春色の瞳が、かち合った瞬間にまぁるく開かれキラリと揺れた。なめらかな頬は華やかな薄桃色をサッとはく。


「特に、は……っ!?」


極めつけ、ふんわりと愛らしい声が所々、高く裏返ってしまっている。春爛漫といった風情が、僕の心臓を撃ち抜いた。


(可愛い過ぎる…………っ)


いったいどうしてくれようか。というか、僕をどうしたいのか。

これで「母親だ」と言い張るのは無理があると、いい加減に気付いて欲しい。どこの世界に、息子と目が合うだけで天使のごとくはにかむ母親が居るというのか。


「先日の、卵ボーロのことで」


「ぇ? 卵ボーロ……?」


「ツィーナが作ってくれたでしょう?」


「……〜〜〜っ!!」


「その卵ボーロのことで、商工会長と連絡を取りました」


「あ! ああっ、あ、商工会長さんね!」


横を向いた桜桃のような唇から、コホコホと空咳が繰り返される。


「うんっ、話したいって言ったわ、わたしっ! 七色ボーロのことでしょう!?」


真っ先に何を思い出したのか、問い詰めるまでもない。白い肌を真っ赤に染めて慌てる様子に、つい、悪戯心が顔を出した。


「そうです。『新名物について、夫人から提案がある』と」


「夫人て……っ!!」


「どうかしましたか?」


「だって……! わたしはカウスくんの義母ははで…………」


「アケルナー公爵夫人で間違っていませんよね?」


「〜〜〜っ!! っ!! そうですねっ!!!」


可愛い。そして楽しい。


頑なに母親であることにこだわるツィーナは、たぶん、自分がどんな反応をしていて、周りからどう思われているのか、理解していないのだと思う。あの夜の傷心こそが幻だったのだと我ながら笑ってしまうほどに、わかりやすいのに……知らぬは本人ばかりなり、だ。


それほどまでに、ツィーナの心は僕の方へと向いている。


できることなら、このまま彼女の心がゆっくりと僕に堕ちるまで眺めていたい。僕以上にツィーナを想う人間も、ツィーナを知る人間も居ないと自信を持って断言できる。ツィーナに信用され、特別に思われている人間も、だ。


後から湧いて出たケネス殿下となど、比べられるのも不快。もちろん、記憶の彼方に存在していた騎士団長など論外だ。ツィーナをツィーナのまま、幸せにできるのは、僕しか居ない。


だが、その厄介極まりない、「恋敵」とすら呼べない存在達のせいで、描いていた未来図の完成が遅れているのも、また事実。


「失礼致しますお兄様。王弟殿下からこのようなお手紙をいただいたのですが……」


今日も今日とて可愛らしいツィーナを眼裏まなうらに焼き付けて仕事に勤しんでいた、とある午後。顔を強ばらせたシャウラが執務室へとやって来た。

最低限しか交流のない彼女が敢えてやって来たのだからツィーナ絡みだとは思ったが、まさか王弟ともあろう者がこうも次から次へと問題を起こしてくれるとは。王族だからこそ無下にもできず、本当に厄介だ。


「落ち着いて考えてみれば、現状下手に借りを作るのはよろしくないのでは、と思い至りまして……」


渡された便箋にはお手本のような文字が並んでいた。


「状況がよくわからない。そもそもの話をしてくれ」


「っ! すみません! てっきりお義母様から伝わっているかと……っ」


ケネス殿下の用件は、シャウラの友人を魔法研究所の所員に推薦するための手続きを、というものだった。

話を聞いてゆけば、どうやらシャウラには闇属性持ちだと思われる知人がいるらしい。平民だが、殿下とツィーナに相談したところ魔法研究所での保護と教育を勧められた……のだそうだ。


(……あの日か。ならばツィーナが話せなかったのもわかる)


可愛らしいツィーナのことだ。殿下絡みの話をすれば僕の機嫌が悪くなると怯えたのだろう。それに何より、あの日のことを話そうとすれば芋づる式に夜のことも思い出して……。

こと恋愛となると不器用で鈍感な彼女は、必死にあの日のことを意識しないように、義息子の単なる反抗期の一種だと思い込もうと努力している。しかし、日が経つにつれて「母親だと思えない」と言われた涙よりも告白された動揺の方が大きくなって来ているだろうことは明白で。


(ツィーナは知れば知るほど愛らしいが、ただ居るだけでも人目を惹く。それは誰の目から見て間違いない。社交界にデビューしてしまった以上、今後は殿下のみならず多くの人間が彼女に微笑みかけて欲しいと願うようになるだろう。……ふむ)


「闇属性であることはほぼ間違いないと思うのです。お義母様が仰る通り、魔法研究所で学ばせていただくのが一番良いのでしょうが……わたくしの独断では、このお手紙にお返事致しかねます」


(できることなら社交界になど出さず、アケルナーの深くに隠しておきたかった。だが、夜会に連れ出さなければ、僕はまだ、ツィーナと正しく結ばれる方法があるのだと気付けていなかったかもしれない)


「ワイトは……あ、あのっ、その知人の名なのですが……っ」


(今更制限したところで、噂が加熱するだけだ。幻の美姫などと呼ばれれば、人々は余計、ツィーナに会いたがる)


「彼自身も、魔法研究所に興味を惹かれているようで、可能ならば通いたいと言っていて」


(ならばやはり……)


「ですがやはり、畏れ多くも思うため、むしろ自分が飛び込みで門戸を開いて貰えないものかと」


(そうなると、年若いリーベルト殿下よりも臣籍降下がまことしやかに囁かれるケネス殿下の方が信憑性が高いな)


「それはそれで王族の面目を潰しかねないような気がして、なんとか止めている現状でして……」


「それは止めて正解だ」


「っ! ……やはり、そうですか……」


シャウラにしては要領を得ない長い話を聞きながら、こちらもようやく考えがまとまった。


ケネス殿下は十中八九、恩を売ることでシャウラを自身の陣営に靡かせようとしているのだと思われる。

聞く限りそのワイトとかいう少年はシャウラのかなり親しい存在に違いない。搦手としては定石だ。


「王族の顔を潰して良いことなど一つもない。魔法研究所は王立ではないが、限りなく王立に近い管理がなされていると聞く」


「……平民が入るには、王族の紹介があった方が良い、ということですね」


「希少な闇属性持ちであれば身分に関わらず所員になることは可能だろう。だが、周りは貴族ばかりだ。王族の後ろ盾があるとないとでは本人の過ごしやすさに雲泥の差が出る」


ケネス殿下、王妃陛下、それから魔法研究所長。その三人が闇属性持ちとして知られているが、彼らは元を辿れば血縁だ。高位の貴族以外に、ましてや平民に闇属性持ちが生まれるなど、突然変異としか考えられない。

貴重なサンプルとして遇されるのは間違いないが、それが人道的なものになるかどうかは、取扱う側の気持ち一つ。そこまで懇切丁寧に説明してやる必要も、いずれシャウラが受けただろう衝撃の緩和をしてやる必要も感じないが、きっとツィーナは激しく気に病む。それは許容できないことだった。


「では……殿下にお願いする方向でお返事させていただき、ワイトにもそう連絡致します。……ただ」


「なんだ?」


これみよがしな溜息に、眉を顰めてシャウラを睨んだ。

社交の場でこうして男性の気を惹こうとする令嬢は多い。最近子どもの茶会にデビューしたせいで、余計な知恵を身につけたのだろうか。


(……いや、だが、シャウラが親しくしている令嬢達はツィーナに近付けても問題のない娘ばかりのはずだが)


リーベン伯爵令嬢をはじめ、無粋な兄姉がいない穏やかな令嬢との付き合いが多いはずだ。元々はこちらから指示した方向性だが、シャウラ自身もそういった相手を好んでいる。


「王弟殿下ご自身が本当に手強くていらして。わたくしではまだ、太刀打ちできないのが非常に歯痒いのですわ」


そぶりではなく、深刻な溜息を再び吐いたシャウラを促せば、言いづらそうに瞬きを増やした。


「わたくしがお兄様を応援しているということは既に、言わずもがななのですが……」


何度も言われても不快ではないと思える物事は世の中に多くない。


(しかし、これは許せるな)


「お義母様は驚いたことに、これもまたご存知の通り、王弟殿下がわたくしの義父の立場にあろうとなさることを容認してしまわれました」


(こちらはただ一回だとて許し難い)


繰り返され、ここまで不快極まる言葉も世の中にそう多くはない。


「お義母様のお優しさが不思議な方向に暴走してしまった結果だとは思いますが……殿下はわたくしに『お義父様』と呼ぶことを強制なさいますので、正直関わりを控えたいのです……」


つまり、この手紙の誘いに乗るのであれば、返事をしたためるうえで父親扱いしなくてはならないということか。


(姑息な)


それが立場有る大人のすることか。


「……この手紙はこちらで預かる。おまえはその少年にだけ連絡をして準備をさせておけ」


春の妖精にたかる害虫避けに、ケネス殿下を利用する──。


不敬かもしれないが、粉をかけてきたのはあちらだ。ならば存分に活用させていただこう。

次期公爵ぼくが婚姻申請を出し、さらに王弟殿下が横恋慕していると知れ渡れば、ツィーナに降り掛かる火の粉はかなり減る。


「あぁ……それから」


退出しようとするシャウラを呼び止め、言葉を継いだ。


「アケルナーの跡取りはいずれツィーナが産む。おまえは家のことは気にしなくてイイ」


場合によっては追い出すつもりの妹だ。だが。


「その少年と添い遂げるつもりならば研究所で成果をあげ、爵位を授かるようにさせろ」


「っ!? な……何を突然……っ!!」


ツィーナに比べればわかりにくいが、子どもの腹芸などたかが知れる。隠し事の下手なシャウラに、ツィーナが振り回されては困るのだ。


(ツィーナは僕のことだけ考えていればイイ。……今のように)


「わっ、わたくしはっ、別に……っ」


「ツィーナに連なる者として恥ずかしくない相手ならば、誰であろうが構わない。好きにしろ」


「…………かしこまりました」


ぐっ、と何かを飲み込んだそぶりで去っていくシャウラの背中に、社交の勉強を増やさなければならないなと胸の中で息を吐く。僕には入れない女性の社交場での戦力として、一刻も早く仕上げなければ。


(さて……)


手の中に残る上質の紙をくしゃりと握った。


(虫除けの香が強過ぎては鼻が曲がる)


有象無象を退けるだけでイイのだ。「義父」などとかたられては支障が出る。

別に世間からツィーナが悪女と思われようが、それで家名が傷つこうが、僕が真実を知っているのだからどうでもイイ。とはいえ、それで彼女自身がツラい想いをすることがあってはならない。


机の引き出しから取り出した便箋にペンを走らせる。

シャウラ個人からでも、騙られた家族からでもなく。次期アケルナー公爵として。


正式に王族に、闇属性の疑いのある子どもの保護を願い出よう。借しは自らの手で作るものだ。


誤字脱字報告ありがとうございました

致命的なものが多くて、我ながら驚きました

「カウス」「ケネス」……「ツィーナ」「ラナ」「シャウラ」……間違えたらダメなヤツですね……


尚、多くの方にブクマをいただき、PV数も鰻登りで……目を疑いました

本当にありがとうございます


評価、「いいね」もとても励みになり、「おまけと第二部頑張らなくちゃ!!」と思っております


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