新年の抱負。予想外の事実に驚きました。
この国の新年は、日本同様冬場に迎える。そして、昔の日本のように、元日を持って国民全員の年齢が一つ、増える。
つまり、わたしとカウスくんは新年をもって無事に20歳。この世界ではとっくに成人していたけれど、心情的にはこれにて立派な大人入りだ。
日本でもわたしは20歳で成人した世代だったし、何より、「ハタチ」という響きがイイ。一層しっかり頑張らなければ、と気合いが入った。
(やっぱり初志貫徹が大切よね)
ということで、今年の抱負。
我が子2人の幸せへの切符を掴む──。
ゲームのシナリオ通りには動かないと知った今、シャウラちゃんの未来もカウスくんの未来も明るい。……いや、わたしが過剰に心配していただけで、元より2人は大丈夫だったのかもしれないけれど。
それでも、やっぱり一抹の不安は残る。だから、わたしの具体的な目標としては、「ゲーム時代の不安要素を無くす」こと、だ。
(ヒロインちゃんには会っておきたいよね。あとは他のヒーローも念の為)
この世界には多くのヒトが居るのだから、将来的に万が一、我が子に害を及ぼしてくるとしたら、ゲームに無関係なヒトである可能性の方が高い。ゲームのモブ。わたしの知らない、この世界の一般的な住人達だ。
逆に考えれば、ゲームキャラはわたしが見た目やバックボーンなんかを知るヒト達。
(わかる範囲で縁を繋いでおいて、味方に出来ると一番イイかな)
知らないヒトばかりの世界だと気付いたからこそ、最低限、ゲームで知っている範囲は把握しておきたい。ゲーム知識を、我が子のより良い暮らしに活かさず、他にいつ使うというのか。前世の推し云々抜きにしても、カウスくんとシャウラちゃんが今生のわたしの生き甲斐なのだ。
……と、いうことで。
わたし、頑張りました。頑張って、外出の許可を獲得しました。
ちょっとだけ……椎田さんを巻き込むっていう裏技を使っちゃったりしたけど……。だってカウスくん、わたしの外出イコールトラブルみたいな目で見るんだもん。
「良く来たな、チーニャ」
「うん、久しぶり、ぽにぃちゃ。今回は面倒かけてごめんね?」
既に面識のある攻略対象で、よくわからないのが騎士見習いのマーカスくんだ。騎士団長であるぽにぃちゃなら、彼のことを良く知っているだろうし、加えて、ぽにぃちゃはリーブ様とケネス様の様子にも詳しい。
今更わたしが何かやらかしたとしてもドンと構えて何とかしてくれるだろうと思えるから、
(情報収集にうってつけよね!)
申し訳ないが、利用させてもらうことにした。
「いや、俺もチーニャとはゆっくり話したいと思ってたんだ」
「ふふ、なんだかんだで、2人きりで話す機会なかったもんねぇ」
新年明けて早々、抱負を実現すべくわたしは王都にあるぽにぃちゃの私邸を訪れていた。
「忘れないうちに渡しとく。ルシータ陛下からの預かり物な」
「ありがと!」
椎田さんの手紙にあった、「お裾分けしたい他国からの輸入品」。それを、表向きはたまたま、実情はわざと、ぽにぃちゃに預けてもらうことで、今回の外出は成立している。回りくどいけれど、過保護なカウスくんを納得させるためには仕方ない。
通された応接室で手渡された紙袋をゴソゴソ確かめ、
「そう! これ!」
わたしはウキウキと、乾燥した緑色を取り出した。
「なんだそりゃ。草か?」
「ワカメー!! ……んー、『海藻』って言ってぽにぃちゃ、わかる?」
「わからん」
「うん、だよね。とりあえず……イイもの、かな。椎田さんにお礼のお手紙書かなくっちゃ!」
「シータさんって……」
北方の海に面した国では海藻を食べる習慣があるらしい。そう聞いた時から、二人で手紙で「海苔!」「昆布出汁!」と盛り上がっていたのだが、やはりというかなんと言うか、1番に取り寄せが実現したのは乾燥ワカメだった。
サラダかな、酢の物かな、天ぷらかな、とワクワクしながら一応ぽにぃちゃにも欲しいか訊けば、
「いらん。そもそも陛下から賜った物をヒトにやろうとすんな」
軽くお説教を食らってしまった。その言い分もわかるけど……気分としては微妙に解せない。
「で、今日はただ遊びに来たってわけじゃないんだろ? どした?」
キリリとした雰囲気のメイドさん達がお茶を淹れて出ていくのを待って、ぽにぃちゃがおもむろに口を開く。熊みたいに大きな彼が座ると、2人がけのソファーが1人がけに見えるから不思議だ。
温かい色の瞳を心配そうに下げた表情に、ふと、昔を思い出す。
「ふふっ。逃げて来たわけじゃないから大丈夫」
小さい頃、何回かぽにぃちゃの元に逃げ込んだことがある。怒られた時。両親との関係に苦しくなった時。ぽにぃちゃはいつも、「助けてやれなくてごめんな」と言いながら、迎えが来るまで匿ってくれた。
「そんなこともあったよなぁ……。いっつも俺んとこ来るから居場所バレちゃってて可哀想でさ、何回か、チーニャ連れて逃げたりしたよな。結局ソッコー見つかって怒られたけど。あん時は悪かった」
「なんでぽにぃちゃはすぐ謝るかなぁ? 昔っからだよね。むしろ巻き込んだわたしが悪かったんだよ、ごめんね。たぶん、一緒に悩んでくれるのがわかって、嬉しかったんだと思うの。ぽにぃちゃぐらいだったからね、わたしの気持ちを考えてくれてたのって」
「……ホント、チーニャは良く頑張った」
懐かしいなぁと思っただけなのに、なぜかぽにぃちゃの空気が重い。もしかして、わたしの相手をするのはトラウマ級の苦痛だったのだろうか。だとしたら……気付かずに能天気に会いに来てしまって申し訳なかったと思う。
「ぽにぃちゃ?」
さっさと帰った方がイイだろうか。情報収集はしたいけれど、トラウマをほじくり返してまで強行することじゃない。
「いや、すまん。俺さ、突然養子縁組が決まって、チーニャと挨拶もできなかっただろ? から……その後、大丈夫だったのかとか考えちまってな」
「あー……」
確かに、あれはショックだった。ある日突然、「もう居ない」と知らされたのだ。信じられなくて突撃して……ガランと冷えた部屋に大泣きした。
(「ポールはもう居ない」って……今思えば、「ポールは死んだ」じゃなくて、「ポールはローバーになった」って意味だったんだね)
「他のお兄ちゃん達も会えばそれなりに優しくしてくれたし、まぁ……なんだかんだでわたしもあの後、別邸に移されたりとかあったから……。
ね、ぽにぃちゃこそ大変だったでしょ?」
「まぁ、な。俺さ、ずっとチーニャをあの家から助け出してやりたいって思ってたんだよ。なのに養子先でいろいろあってさ……自分のことに手一杯で、気付いた時にはもう、おまえは結婚してた」
悔恨を強く感じさせる姿は、昔から変わらない。正義感の強いぽにぃちゃはそうやってすぐ、抱え込んでしまうのだ。
誰かを守る騎士という仕事に、彼ほど相応しいヒトはいない。
(実の妹でもないんだから放っておいたってバチは当たらないのに……ホント、優しい)
わたしは、ポカポカと温かなものを感じながら、辛そうな赤い瞳を覗き込んだ。
「騎士団長になってるくらいだもん、いろんなことがあったんだろうなってわたしでもわかるよ。気にかけてくれてありがとう」
(……こういうのを、実家に帰ってきた気分って言うのかな)
なんだかくすぐったい気持ちになる。
自分の幼い頃を笑い話に変えられて、今も見守ってくれるヒト。ぽにぃちゃが昔のままの優しいお兄ちゃんで居てくれて、心底「嬉しい」と思った。
「俺の自己満足だってのはわかってるんだ。それでも……謝りたい。すまなかった」
ソファーから立ち上がって律儀に頭を下げる姿に、わたしの方こそ申し訳なくなる。でも、先に自己満足と言われてしまったから……わたしにできるのは受け止めることだけ。
「……うん、わかった。わたしのこと、覚えてくれててありがとう」
「チーニャ……」
はっきり言って、子どもの頃のことは思い出してもあまり愉快な気分にはなれない。こうしてぽにぃちゃに再会できたことは嬉しいが、昔語りも……することが大してない。
「ね、ところでなんでぽにぃちゃが騎士団長なの? もっと年上の騎士さん、たくさん居るよね?」
だから、どうせ話すなら今のことや未来のこと。楽しいことを話したい。
「あー……それな」
ゆっくりとソファーに戻りながら、太い眉を八の字に下げる。苦笑する姿はどこか吹っ切れたようにすっきり見えて、さっきの謝罪が彼の中の大切な一区切りだったことを伝えてきた。
「そもそも俺が騎士団に入ったのは……」
なんで名前が変わったのか。どうして今、騎士団に居るのか。
ぽにぃちゃの話す紆余曲折は、悲しい程に献身的なものだった。本人は昔のことだし普通のことだ、と言うけれど……
(「ポール」じゃなくなった時から、ぽにぃちゃは新しいお母さんのために生きてきたんだ……)
「んで、まぁ、ありがたいことに向いてたんだな。つっても、未だに副団長先輩に頭上がんねぇけどさ」
ちょうど、騎士人口の多かった上の世代がごっそり引退した空白世代。
年長者ほど一団員であることに居心地の良さを覚えていて、次の団長候補に立候補する者はいなかった。仕方なく推挙された候補者の中、一番能力値の均整がとれていたのがローバー・バックス。ぽにぃちゃは、「バランスがイイってだけでおハチが回って来た」……と言うけれど。
(騎士さん達の信頼が厚いの、わかるなぁ)
自己評価が低いとか、謙遜しているとかじゃなく。ぽにぃちゃは周りをとても尊重している。
噂に聞くローバー・バックス騎士団長は鬼のように強い。天才的な剣さばきと圧倒的な存在感で騎士団を牽引するカリスマ……なのだそうだ。
きっとぽにぃちゃに言えば「噂の1人歩き」だと否定することだろう。でも、それが驕らない彼の真実で、同時に、その嫌味なく否定する姿勢が魅力。
力に溺れることなく周囲を認め、信頼する彼だからこそ、騎士さん達も信頼するのだ。
一芸に秀でた騎士は他にも居る。けれど、すべての能力値が高く、安定しているのがきっと、ぽにぃちゃ。
「すごく責任重大そうだからちょっと心配だったんだけど……ぽにぃちゃ、楽しそう」
有事の際には先頭に立たなくてはならない。しかも、ほんの少しの失策も部下のミスも、全部がぽにぃちゃの責任になる。
領主とはまた違う、命懸けの現場責任者ならではの重責を、わたしはわたしで心配していた。
(良かった……)
部下との信頼関係は言わずもがな。先達にも可愛がられているらしいぽにぃちゃの様子にホッと安堵の息を吐いた。
仄かに脳筋臭はするけれど、楽天的、前向きと捉えることもできる範囲だ。
「ま、ありがたいことに大規模な戦闘なんぞここ数十年起こってないからな。騎士団は治安維持に励みつつの自分磨き集団ってとこで済んでる」
豪快に笑う笑顔が眩しい。ハードな騎士団の訓練を「自分磨き」で済ませられる体力と運動神経は羨ましいものがあるが、何より、日々充実していると言いきれる姿が眩しかった。
「んで? チーニャはどうなんだ? アケルナー公との……その、随分若いうちに嫁がされただろ……?」
あぁ、まだ心配性は続いてたか。
情に厚いぽにぃちゃが、未だにわたしへの後悔を引きずっていることに気付いて苦笑する。さっきの懺悔で「はい終わり!」とはならなかったらしい。
「嫁いだって言っても別居してたから。旦那様が亡くなるまで、わたしずっと領地に居たの。アケルナーって、王都から近いわりに長閑で、すごくイイ所なんだよ?」
努めて明るい声を出す。実際、アルギさん達の居るアケルナーの屋敷がわたしのホームだと思っている。それに、仲の良い領民達もたくさん居る。
地元に帰れば、カウスくんには負けるけど、亡夫よりはわたしの方が顔が効くはず。
「別居? ……あぁ、跡取りは居るもんな」
「うん。だから、むしろ実家に居る頃よりのびのびできたよ。旦那様はこっちには無関心だったからね」
「……チーニャを蔑ろにするのは許し難いが……まぁ、なんつーか……変態オヤジに執着されたんじゃなくて良かったよ」
「あはは、旦那様はむしろお色気熟女好きだったからね。わたしなんて見向きもされなかったよ。良かった良かった」
「は?」
「ん? 何?」
ギョッとした表情のぽにぃちゃにわたしの方が驚いた。今、何かびっくりするような部分あった?
「おまえ…………いや、なんでもない。しかし……結婚したからにはさ、子ども産まねぇと肩身狭いもんじゃないのか?」
(まぁ、貴族的にはそう思うよねぇ。あ、そういう心配があって驚いてたのか)
コクリとお茶をいただきつつ考える。
ケネス様が知っていた、わたし達の白い結婚。もはや公然の秘密である夫婦の内情をぶっちゃけるのは簡単だが、ぽにぃちゃにそういう話をするのはなんだかやけに気恥しい。
「……肩身は別に。そもそも、わたしはお金のなる木だから、居るっていうのが大事だったんじゃない? それに、カウスくん……あ、跡取りのね? カウスくんとわたし同い年なんだけど、すごくよくできた子なの。おかげで、カントリーハウスのヒト達も優しかったよ」
「おまえ……。…………不幸じゃ、なかったんだな?」
「もっちろーん!」
「なら……良かった」
オレンジの短髪に彩られた厳つい顔に優しい微笑みを浮かべたぽにぃちゃは、心底安堵しているように見えた。
「今もねぇ、カウスくんとシャウラちゃん……あ、義息子と義娘ね? 二人に囲まれて幸せだよ」
一番長く心配をかけ続けたぽにぃちゃを安心させることができたのなら、何よりだ。
「……そういや、この間も……義娘と仲良さそうだったな」
「うん。あ、あの時はお仕事ご苦労様でした」
ケネス様の護衛でウチに来た時のことを思い出す。日常的に王族と接さなければならないなんて、騎士団長も大変だ。
「あぁ。……あの時、さ」
「?」
きっぱりさっぱりしたぽにぃちゃには珍しく言い淀む様子に首を傾げた。
「おまえ……殿下と、さ……」
「殿下? あ、ケネス様?」
さすがにこの流れでリーブ様のことではないはずだ。
「……そうだ。チーニャ、おまえ…………ケネス殿下と結婚するのか……?」
……………………へ???
「ぷはっ」
(真面目な顔で何言うかと思ったら!)
「何それ、どこから来た発想?」
なかなかに想像力と発想力が豊かだ。ケネス様が? わたしと?
失笑しつつ訊けば、
「真面目に聞け!」
怒られた。
え、なんで???
いくらぽにぃちゃ相手とは言え、騎士団長の眼光で射抜かれるとちょっと怖い。
「殿下のこと……父親とか、家長とか呼んだよな……?」
「あぁ、そういう」
まだ心配モードが続いているのだろうか。ありがたいけど、「大丈夫だよ」と声を大にして言いたい。
「つまり、殿下を再婚相手に決めたってことだろ?」
「え、違うよ。ケネス様はシャウラちゃんのお父さんになりたいの」
「あ? だからおまえの旦那だろうが」
「ちが……あー、そういう言い方もしてたけど」
そういえば、照れ隠しに「あなたの夫」とか言ってたから、否定するのも変かもしれない。
「……おまえの言うこと、わからん」
「えー? ケネス様は複雑なお立場だから、心休まる新しい家族が必要なの。それで、わたしのことを妹と思ってもらおうと思ったんだけど、そしたら夫とか言い出して……でもそれって、シャウラちゃんのお父さんになりたいって希望を回りくどく表現しただけなんだよね」
「…………チーニャ……おまえ、大丈夫か? 何拗らせてんだ?」
「ん?」
あれ、難しかったかな? と首を捻れば、ぽにぃちゃはなんだかやけに険しい表情でわたしを見ている。眉間のシワがなかなかの迫力だ。
「おまえ、自分の状況わかってるか?」
(何なの、改まって)
「まず、チーニャは現状未亡人だ」
「そだね?」
だからなんだ。そんな思いが声に乗った。
「つまり、再婚ができる。しかも、ただの男爵家の娘じゃない。公爵家出身者としてだ」
何が言いたいのかよくわからない。
「ピンと来てない顔だな。金持ちのハダルと、高位貴族のアケルナー、おまえの再婚相手になればそのどちらとも縁ができる、って言ってんだよ。客観的に考えてみろ、魅力的だろ?」
「…………めんどくさい」
「だから言ってるだろうが。状況を理解しろよ」
「ねぇ……わたし、絶対に再婚しなきゃダメなのかなぁ? そういえばリーブ様にもそれっぽいこと言われたような」
「……リーブ様?」
「あ、リーベルト殿下」
「おまえな……」
再婚なんてしたくない。わたしの「幸せ家族計画」では、カウスくんとシャウラちゃんの結婚で嫁と婿が増えて、いずれ孫も……。
どうして色恋に無関係でいちゃいけないのだろう。
「……政略結婚で、色も恋も枯れ果てたおじいちゃん相手なら考えてもイイ」
妻の務め云々言われるくらいなら介護に徹した方が余程マシだ。
「なんじゃそりゃ。おまえそういう趣味なのか……?」
「趣味も何も、わたしを女として見るような変態には近づきたくないって言ってるの」
「変態…………?」
いや、さすがに言い過ぎか。淡い初恋を抱いてくれているリーブ様に失礼だった。
「おまえやっぱり……よっぽど前アケルナー公との結婚生活でハレンチな目に……?」
「何言ってんの!? 旦那様は熟女専門だから! わたしなんて見向きもされなかったから! 指一本触れてないから!」
「は……?」
(なんてことを力説させるの!?)
ぽにぃちゃ、いい加減デリカシーというものを覚えて欲しい。
「とにかく! わたしは今に満足してるから!」
どうせなら一緒に、再婚を逃れる道を探してください!
「…………だが、おまえは今、ケネス殿下の妻として内定している」
「………………はぃ?」
「殿下が臣籍降下する際に、おまえは殿下の……大公婦人として公表される」
「え……なんで???」
ケネス様の精神的な家族には立候補したけれど。
「なんでって……おまえ家族って……普通に受け入れてたよな? 『家長』だって」
「まぁ。わたし達は家族になったからね」
「……結婚大前提だろソレ」
「なんで?」
「おまえ……マジでヤバいぞ? 殿下を家族として扱うってことはそのままの意味だ。チーニャが何考えてるのかよくわからんが、殿下は戸籍上でもおまえを家族にしようとしてる。そう言えばわかるか? 殿下はもう、両陛下にも手を回しておまえとの婚姻の準備を整えてる。おまえが、夫とすることを認めた、ってな」
「…………」
夫とすることを認めた……と言えば、認めた……けど、それは意味合いが違う話しで。え? なんでそんなことに???
あれ? じゃあさっきのぽにぃちゃの確認は、空想でも妄想でもなく、根拠がちゃんとあったってこと? 噂の出元は……ケネス様本人……?
「…………それ、冗談だよね?」
まさか……。
あ、でも、本当の家族になりたかったなら有りうるか……? 妻っていうか、家族として……。
「本気でそう思ってんの?」
心の声はつぶやきとなって漏れていたらしい。呆れたような視線が痛い。
「あの女好きで名を馳せた殿下が、他の女を一切切った。あの方は本気だ」
ぽにぃちゃの言葉にクラクラした。
なんで……。
「カウスくんに……リーブ様に……ケネス様まで……?」
「……あんまりツッコミたくないが、おまえそれ……三股かけてるってことか?」
「な!? 違うよ! カウスくんには『息子としか見れない』って伝えたし、リーブ様には何も返事とかしてないし!」
「……三人から求婚されたのは間違いないってことか。ハァ」
ぽにぃちゃ、人聞き悪過ぎる。そんな、ヒトを悪女みたいに……。
「……どうやったら逃げられると思う?」
ケネス様に本気になられたら、わたしごときじゃ太刀打ちできない。持っている権力も影響力も何もかも、大違いだ。
「贅沢な悩みだな。王弟に王子、次期公爵だろ? 普通に考えて、令嬢達の夢見る立場だ。本当に三人とも嫌なのか?」
「だって……今はわかんないけど、三人とも若いし……恋愛感情みたいなの、求める可能性ゼロじゃないし……」
プラトニックを貫いてくれるなら最悪、結婚してもイイ。
「俺は……昔チーニャを助けられなかった。だから、今度こそ何かあったら助けたいと思ってる」
ふいに、こちらを見るぽにぃちゃの顔が引き締まった。
「……何か、アイディア有るの……?」
藁にもすがる思いとはこのことか。ついさっき、ぽにぃちゃは昔も今も悪くないと思ったばかりなのに、舌の根も乾かぬうちにその贖罪をアテにしている。
なんて嫌なヤツ。思うけれど、こればかりは背に腹はかえられらかった。迷惑をかけるぽにぃちゃには後で本気で謝るとして……
「……俺は騎士団長として幾つか功績を上げた」
「うん」
「褒賞をくださるという陛下に、俺は『望みはない』と保留してもらってきた」
あ。もしかして、その褒賞を、わたしとケネス様の破談のために使ってくれようというのだろうか。
ありがたいけど……それはさすがに申し訳ない。
「ぽにぃちゃ……」
「だからな、チーニャ。おまえ、俺の嫁になるか?」
……ん?
「それなら……三人のうち、誰の妻にならなくても済む」
今、わたしは、ぽかーんと音のする間抜け面になっている。間違いなく。
だって、ぽにぃちゃ、いったい何を言い出したのやら……?
「ケネス殿下、リーベルト殿下、アケルナー公爵、誰とも結婚したくないんなら俺が助ける。チーニャ、俺の妻になれ」
…………えっと……??? だから、結婚したくないんだってば。




