↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春の世界  作者: こだわりパセリ
第一章.人工雪は何処に?
PR
24/29

24.開戦

 冒険者ギルドを出てから、しばらく。聖都の大通りを抜けた一行は、迷いの森へと続く道を進んでいた。


 普段ならば、森へ向かう冒険者の姿は珍しくない。だが今日は違った。道のあちこちに冒険者がいる。


 革鎧に身を包んだ者、重そうな大剣を背負った者、杖を手にした魔術師。所属する班によって集団は分かれているものの、目的地は皆同じだった。


 迷いの森。


 そこへ、二百人を超える冒険者たちが向かっている。


「なんか、改めて見るとすごい人数だねー」


 隣を歩くリーセレンが、周囲を見渡しながら言った。


「これだけいれば、さすがに大丈夫……だと思いたいけどな」


「シュンセイ、今の間なに?」


「いや……」


 俺は苦笑した。作戦の内容そのものに不満はない。気候魔獣を森の端まで追い込み、そこで待ち構えるカラドさんが気候魔獣を仕留める。


 カラドさんは何度も気候魔獣を討伐した経験があるそうで、一対一(タイマン)だとしても彼が負けることはないそうだ。


 それを聞いた上なら、無茶な作戦ではない。


 むしろ、これだけの人数を動員するのなら、成功する可能性の方が高いように思える。


 ただ、一つだけ気になることがあった。


「昨日からずっと、嫌な感じがするんだよな」


「嫌な感じ?」


「ああ。うまく言えないけど」


 俺がそう言うと、リーセレンは少しだけ首を傾げた。


「考えすぎじゃない?」


「そうかもな」


「なら気にしない、気にしない。今日のシュンセイは私の補佐なんだから、余計なこと考えてる暇ないよー」


「補佐っていうか、俺も冒険者なんだけど」


「細かいことは気にしない!」


 いつも通りの調子で笑うリーセレンを見て、俺も少しだけ肩の力を抜いた。


 その時だった。


「おーい!」


 後方から声が飛んできた。


 二人が振り向く。


 見覚えのある冒険者が、こちらへ向かって歩いてきていた。


「あれは……ヴァレンさんかな?」


 リーセレンが目を細めて、手で日差しを遮るように見つめる。


「ヴァレンだ。リーセレンも知ってるのか?」


「うん。聖都に来てから、何回かギルドで話したことあって」


 ヴァレンは俺たちのところまで来ると、軽く手を上げた。


「よう。お前らも第四班だったのか」


「そういうあなたも?」


「ああ。昨日確認したら同じ所に入ってた」


 ヴァレンは笑った。


 聖都に来た時期がほとんど同じだったこともあり、冒険者ギルドで何度か顔を合わせていた。その時に冒険者を始めたらしく、今のランクはE。ただ、もともと戦闘の心得はある方なのか、戦闘の技術は俺より上だ。


 依頼の帰りに会えば軽く言葉を交わす。酒場で隣になれば、最近受けた依頼の話をする。特別に親しいわけではない。けれど、顔を見れば自然に声をかける。同期のようなものだし。


「シュンセイたち、結構有名になったよな」


「俺たちが?」


「そうそう。南支部に来たばっかりなのに、気候魔獣の作戦に参加するんだろ?」


「たまたまだよ。というか、それに関してはお互いさまじゃないか?」


「あはは。そうだな。でも、俺には地元での経験がある。だからあんたらの方がすごいよ」


「えへへ、それほどでも~……あるかな?」


 リーセレンが鼻高々に答える。それをやれやれと受け流した。


「少しは謙遜しろよ……」


 三人の間に笑みがこぼれる。ほんの短い時間だった。


 だが、それは初の大規模な作戦に参加する者たちにとって、少しだけ気持ちを楽にしてくれる時間だった。


「そういや、作戦前に聞いたんだけどさ」


 男が少し声を落とした。


「今回、Aランクの冒険者はいないらしいな」


「ああ」


 俺も頷く。


「教官も、それが一番の不安材料だって言ってた」


「そりゃそうだよな。気候魔獣相手だろ?」


「まあ、俺たちは追い込むのが役目だから。心配しなくても、倒すのはカラドさんがいるし」


「そうだな、副団長がいるもんな」


 ヴァレンは森の方を見る。


 遠くに見える木々は、風に揺れることもなく静かに立っていた。


「……迷いの森か」


 その声だけが、ほんの少し低かった。


「怖い?」


 リーセレンが尋ねる。


「そりゃ怖いだろ」


「意外」


「おい」


「だって、いつも余裕そうじゃん」


「余裕そうに見せてるだけだよ」


 ヴァレンは笑った。


「死にたくないからな」


「それは私も」


 リーセレンが即答する。


「シュンセイも死なないでよ?」


「そっちこそ」


 ヴァレンは二人を見て、少し悲しそうに笑った。


「じゃあ、終わったらまたギルドで会おうぜ」


「ああ」


「その時は奢ってよねー」


 男は呆れたように肩をすくめると、自分のチームへと戻っていく。


「戻ってきたらいくらでも奢ってやるよー」


 俺たちはその背中をしばらく見送った。


「……いい人だね」


「まあ、そうだな」


 リーセレンの言葉に、俺は頷いた。それ以上、気にすることはなかった。


 やがて一行は迷いの森の入り口へ到着した。ここから先は、全員が同じ場所へ向かうわけではない。今回の作戦では、冒険者たちは森の広い範囲に分かれて配置される。


 気候魔獣を見つけた時点で、近くにいる班だけで対応するのではない。発見した班が合図を送り、それを受けた他の班が順次動き始める。森全体を使って、少しずつ気候魔獣の進路を限定していく。


 そのためには、各班が勝手に動いてはいけない。


 合図を見逃さないこと。決められた位置を離れないこと。そして、決して単独で気候魔獣に挑まないこと。


 それが今回の作戦で何度も繰り返し説明された注意事項だった。


「第四班はこっちだ!」


 ラヴィの声が響く。


「配置につくぞ!」


 熊の半獣人であるラヴィさんの声に、第四班の冒険者たちが動き始める。俺とリーセレンも、その後についていく。


 森の中へ足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。外ではまだ夏の暑さが残っているというのに、森の中にはひんやりとした風が流れている。


 見上げれば、木々の葉は赤や橙、黄色へと色づいていた。まだ夏の盛りだというのに、そこだけ季節を飛び越えたような紅葉が広がっている。


 地面には色づいた葉が幾重にも積もり、踏みしめるたびに乾いた音が響いた。木々が陽光を遮っているせいもあって、昼間だというのに森の中は薄暗い。


 そして何より――静かだった。


「……静かすぎない?」


 リーセレンが小さな声で言った。


「そうか?」


「うん。森って、もっと鳥とか虫とかいるイメージなんだけど」


 俺も耳を澄ます。確かに、妙だった。音がない。


 木々のざわめきすら、どこか遠くに感じる。


「違和感はあるけど、迷いの森だからこんなもんなんじゃないか?」


「そうかなぁ」


 リーセレンは納得していないようだった。


 だが、ラヴィさんから配置につくよう指示が飛び、二人もそれ以上考える余裕はなくなった。第四班は森の端へ続く経路の一つに配置された。


 周囲には別の班の姿もない。少し離れた場所にいるはずだ。


 ただ、互いの位置を完全に把握しているわけではない。この広い森の中では、それが普通だった。


「合図が来るまでは待機」


 ラヴィさんが告げる。


「絶対に勝手に動くな。今回の作戦は数が多い分、一つの班が勝手に動けば他の班の動きまで狂う」


 冒険者たちは頷いた。


 俺も腰の笛を確認する。リーセレンも準備を整えた。あとは待つだけだ。


 時間が過ぎていく。


 森の中で、ただ静かに。


 しばらくして――。


 遠くから、短い笛の音が聞こえた。


 ピィッ。


 全員が顔を上げる。


 もう一度。


 ピィッ、ピィッ。


 ラヴィさんが立ち上がった。


「……来たか」


 その直後。


 森のさらに奥から、複数の笛が連鎖するように鳴り響いた。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 離れた場所から次々と音が返ってくる。


 発見した班から、周囲へ。


 さらにその周囲へ。


 合図が森を走っていく。


 冒険者たちの表情が変わった。


「気候魔獣だ」


 誰かが呟く。


 ラヴィさんが大きく息を吸った。


「第四班、行くぞ!」


 静寂に包まれていた森が、一瞬で動き始めた。


 俺とリーセレンも班の後方で走り出す。


 先頭にはラヴィさん。


 そして、森の奥から聞こえてくるのは――。


 大地を震わせるような、巨大な咆哮だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。