姉の言葉と、覚醒の瞬間
「泣かないで、寅王丸」
静かで、しかし透き通るような美しい声が、轟音の響く城内に響いた。
俺はハッとして顔を上げる。そこには、これから数奇な運命に翻弄されるはずの姉が、少しも怯えることなく、ただ慈愛に満ちた瞳で俺を見つめていた。
「……姉上……俺は、何も守れなかった……。俺のせいで、父上も、この諏訪も……」
「違うわ」
姉上は優しく、しかし強い意志を宿した瞳で、俺の両頬をそっと包み込んだ。
冷え切った俺の顔に、彼女の温もりだけが優しく染み渡る。
「あなたのその『誰かを救いたい』という優しさは、間違いなんかじゃない。私にとって、何よりも愛おしかった。この暗くて冷たい世界に、本当の光をもたらすのは、きっとあなたのその力なのですから」
その言葉は、俺の胸の奥底に、深く、強く突き刺さった。
――そうだ。
歴史は変えられない。圧倒的な暴力と死の前では、個人の甘い足掻きなど無力かもしれない。
けれど、この絶望の中で、あの人が自分を肯定してくれた。この温もりだけは、絶対に本物だ。
ならば、個人的な「復讐」や「自己満足の平和」に走るのではない。
戦国の世の圧倒的な暴力と死を、ただ甘んじて受け入れるのでもない。
「人の死は、平和への対価だ」
この理不尽な死に満ちた世界で、無駄に散っていく命をゼロにするため、俺はすべての敗者と技術者を拾い上げ、裏のネットワークを構築する。
人間全体(神)のために奉仕する、影の組織――「大祝」を創り上げる。




