霧の中の神使・シカとの出会い
びくりと肩を震わせ、俺は顔を上げた。
そこには、見慣れない漆黒の和服風の忍装束をまとい、頭にぴょこんと獣の耳のような布飾りをつけた少女が立っていた。
不機嫌そうに頬を膨らみを持ち、真っ赤な目でこちらを睨みつけている。その姿はまるで、気が強い野良猫のようだった。
「な、……誰だ、お前……?」
「誰って失礼ね。あたしはシカ。……まったく、アンタがさっきから『神様仏様』って耳元でギャーギャー喚くから、仕事の邪魔で仕方なかったんだけど」
シカはそう吐き捨てると、ふっと気だるそうにため息をつき、俺の目の前まで歩いてきた。
そして、ぐっと顔を近づけて、冷え切った俺の頬を乱暴に、けれどどこか優しく両手で挟み込む。
「泣き言はそこまで。……アンタ、本気でその運命をひっくり返すつもりがあるの?」
「っ……! 当たり前だ……! 姉上も、この諏訪の皆も、俺が絶対に……!」
シカは、怯えながらも必死に瞳の奥の炎を燃やす俺の顔をじっと見つめ、やがてふっと、勝ち誇ような、呆れたような笑みを浮かべた。
「……ま、いいわ。その目、嫌いじゃない。神様なんてあてにならないなら、あたしがアンタの『道具』になってあげる。その代わり、死ぬ気で働きなさいよ、マスター?」
その瞬間、シカの背後から霧がうねり、まるで空間が歪むような奇妙な気配が走った。
それは、この狭い諏訪の地から、一瞬にして全国の「諏訪神社」へと繋がる、運命の扉が開いた音だった。
「――いくわよ。アンタの絶望を、ひっくり返して開いてあげる」
シカの手を取った瞬間、俺の脳裏に「日本全土の諏訪神社を結ぶ回廊」のイメージが流れ込んできた。
これだ……これがあれば、戦国の常識を覆す超高速の情報網が作れる!




