諏訪大社での絶望と祈り
「――軍議を続ける! 全軍、南方からの敵に対応せよ!」
俺は父・頼重や家臣たちを鼓舞し、夜を徹して迎撃の指揮を執った。
しかし、戦況は絶望的だった。武田軍はすでに我が方の背後の要衝をすべて押さえており、通信も補給も完全に分断されていた。
(勝てない……このままでは、全滅する)
数日後、戦線が完全に崩壊し、本拠地である上原城の目前まで敵が迫ったその夜。
俺は居ても立ってもいられず、城を抜け出し、厳寒の空気が漂う「諏訪大社」の境内に駆け込んでいた。
足元がおぼつかない。泥と血にまみれた和服の裾が、夜露に濡れて重い。
ご宝殿の前に崩れ落ちるように膝をつき、俺は冷え切った石畳に手を突いた。
(ふざけるな……ふざけるなよ、くそっ……!)
前世の記憶を思い出し、必死に富国強兵に励み、誰も死なせないための未来を設計しようとした。
なのに、何だこの結末は。圧倒的な暴力の前には、個人の足掻きなどただの道化芝居ではないか。
「神様でも仏でもいい……! この理不尽な暴力を止める奇跡をくれよ……! 父上を、諏訪の民を、そして姉上を助けてくれ……!!」
泥にまみれ、声を枯らして叫ぶ。
静まり返った神域の深い霧の中に、俺の絶望的な祈りだけが空しく吸い込まれていった。
奇跡など起きない。神も仏もいない。
冷酷な現実が、俺の首筋にひたひた迫っている。
その時だった。
「――うるさいわね。少しは静かにしなさいよ、ガキが」
冷たく、けれどどこか透き通るような少女の声が、境内の張り詰めた空気を揺らした。




