第9話 三人で、おつNOVA
合同お披露目配信の開始十五分前、夕奈は品川の会議室で、自分以外の二人のアバターが動くところを初めて見た。
三台の活動用PCが横一列に並び、正面の大型モニターにはNOVA-3のロゴと三人のアバターが映っていた。
航平が首を傾けると、画面のKOHEIも同じ方向へ動いた。
「自分が動いたあとで、自分じゃない顔がついてくるの、何度見ても変な感じですね」
「航平さん、さっきからずっと首を動かしてません?」
「どこまで追ってくるか試してます。これ、やりすぎたら酔いますね」
「視聴者がですか」
「俺がです」
夕奈が笑うと、YUNAも口元を上げた。今日は隣にも二人いる。安心より先に、NOVA-3として見られる重さが胸に乗った。
画面のコメント欄には、開始前から言葉が増えていた。
『三人揃うの待ってた』
『NOVA-3初配信』
『どんなチームなんだろ』
視聴者は、三人がどんなチームなのかを見に来ている。その答えは夕奈にもまだ分からない。
「開始五分前です」
操作席にいる配信スタッフが声をかけた。
三好玲奈は離れた机で、進行表と配信時間を確認している。戦い方には口を出さない。
「最初の進行はYUNAさんです。三名の挨拶が終わったあと、自己紹介と事前質問へ進みます。その後、パーティーランクを一試合行います」
「分かりました」
普段のランク配信は三時間が最低で、予定と体調が許せば五時間、六時間まで続く。長い日には十数試合を重ね、十五試合前後になることも珍しくない。今日はランク配信そのものではなく、三人の名前と役割を初めて見せる合同お披露目番組だ。自己紹介と質問を含む進行の一コーナーとして、一試合だけを行う。
夕奈は手元の進行表を見た。
名前、役割、好きな武器、目標、質問。順に進めればいいが、夕奈が止まれば二人も止まる。
隣を見ると、航平がマイクの位置を直していた。
「ユウナさん、緊張してます?」
「してます。航平さんはしてないんですか」
「してますよ。俺の場合、緊張すると普段より余計なことを言うので、今日は発言の九割くらいが危険です」
「ほとんどじゃないですか」
「残り一割に期待してください」
遥真は画面を見たまま言った。
「普段と同じに見える」
「ハルさん、それは俺が普段から危険って意味ですか」
「違うの?」
「配信前に味方から刺されると思わなかったな」
航平の軽さに夕奈の肩から力が抜けた。開始まで十秒。スタッフが指で合図する。
待機画面が消え、三人のアバターが大きく映し出される。コメントの速度が一気に上がった。
夕奈は背筋を伸ばす。
「こんゆな。NOVA-3のYUNAです。今日も一試合ずつ、ちゃんと勝ちにいきます」
個人初配信より、声は震えなかった。続いて、遥真がマイクへ向く。
「こんばんは、HALです。見てくれてありがとうございます。今日も勝ちにいきます」
「こんばんは、KOHEIです。今日も事故らず、できれば勝って、できれば胃を痛めずにいきます」
『最初から胃が心配されてる』
『KOHEIだけ目標が違う』
『チーム大丈夫か』
航平がコメントを見て、わざとらしく息を吐いた。
「まだ何もしてないのに、もう心配されてますね」
「挨拶のせいだと思います」
夕奈が返すと、画面の向こうが会話に入ってきたように、コメントの速度がまた上がった。
進行表に従い、夕奈は判断と立て直し、遥真は火力、航平は情報共有と調整を担当すると紹介した。
「次は、好きな武器です。私は前回も話したMP9とScout-56をよく使います。近距離と中距離で持ち替える形です」
夕奈は遥真へ視線を向けた。
「ハルさんは?」
「AKとTwin Fang」
「理由もお願いします」
「短い時間で倒せるから」
高い火力の代わりに、扱いを誤れば大きな隙ができる。二つとも遥真らしい武器だった。
「航平さんは?」
「Lancer-56です。弾が多くて、二人が動く間、敵を止められるので」
「武器でも役割が違うんですね」
「ハルさんが倒しに行くなら、俺は二人が動く時間を作ります」
『武器に性格出るな』
『HALは火力、KOHEIは支える感じか』
「能力の選び方にも、同じくらい性格が出ます」
夕奈は続けた。
「私は索敵と判断補助。ハルさんは攻撃と短距離移動。航平さんは回復や移動補助を選ぶことが多いです。ただ、試合ごとに相手と場所を見て変えます」
『武器だけじゃなく能力構成もあるのか』
『三人の役割が分かりやすい』
「では、事前にいただいた質問を読みます」
夕奈は質問カードを切り替えた。
「三人は、NOVA-3を結成する前から仲が良かったんですか」
仲が良かったと言えば話はきれいだが、嘘になる。夕奈が答え方を考えていると、航平が先に口を開いた。
「会ってからは、まだそんなに経ってません。だから今、ゲームしながら互いの扱い方を覚えてるところです」
「扱い方って、物みたいじゃないですか」
「大事ですよ。ハルさんは撃てる敵を見つけると速い。ユウナさんは考え始めると声が硬くなる。俺は二人が前を見るぶん、後ろを見ます」
夕奈は思わず遥真を見た。
「否定してください」
「撃てる敵がいたら撃ちたい」
「そこじゃなくて、扱い方の方です」
「間違ってないと思う」
遥真は真面目に答えた。
『本当に知り合ったばかりなんだ』
『正直でいいな』
『これからのチームか』
夕奈の目が、最後の一文で止まった。
「最初から息が合っていたわけではありません。今も、動きがずれることはあります」
夕奈はマイクへ向き直った。
「でも、勝ちたいのは三人とも同じです」
「それは同じ」
遥真がすぐに答えた。その一言で十分だった。
質問コーナーを終え、パーティーランクへ移る。
ゲームへ切り替わると、夕奈の緊張が薄れた。ここからは敵と、二人の声を見ればいい。
「入ります」
「お願いします。できれば配信一試合目で十七位は避けたいですね」
航平が言う。
「最初の試合のこと、言わなくていいです」
「過去の失敗を笑えるようになったら、成長した証拠です」
「まだ数日前ですよ」
「成長速度に期待してください」
マッチングが成立した。
輸送機の進路を見ながら、夕奈は外周寄りの物流区画へピンを刺す。
「西の配送センターに降ります。近くに一部隊。建物は分けず、同じ区画で取ります」
「了解」
「後ろは俺が見ます」
三人は近い位置へ降り、夕奈はScout-56とMP9、遥真はAKとAuto-8、航平はLancer-56と近距離用の武器を揃えた。理想の装備が毎回手に入るわけではない。
「正面の建物、一部隊入ってます」
航平が報告する。
「二人とも、武器はありますか」
「ある」
「俺も大丈夫です」
夕奈は敵との距離を見た。間には広い道路がある。武器が揃っていても、ここで撃ち合えば長引く可能性が高い。
「今は撃ちません。北へ移動します」
「分かった」
遥真が窓から照準を外す。
ラウンド2の移動中、三人は川沿いの商業区へ入った。
壊れた歩道橋の上に一人。下の店舗内に二人。最初に見つけたのは遥真だった。
「歩道橋、一枚。撃てる」
夕奈は店舗の入口脇へパルスセンサーを射出した。一度目の走査で、店内に二つの輪郭が浮く。二人とも歩道橋から離れている。
「下二人、まだ店内です」
遥真は、初ランクで決めたとおり場所と人数を先に伝えた。夕奈は一呼吸以内に返す。
歩道橋の敵は孤立している。ただし遥真が一人で詰めれば、店舗内の二人と挟まれる。配信で待たせれば、HALを止める新人に見えるかもしれない。夕奈はその迷いごと切った。
「先に削ります。まだ詰めないで。航平さん、後ろをお願いします」
「後ろ見る。今は来てない」
「分かった」
遥真は敵を照準に入れたまま、夕奈を待った。
夕奈は道路脇の車から体を出し、Scout-56を撃った。一発目がシールドへ入り、敵がこちらを向く。続けた二発目でシールドを割った。
「割りました。今、ハルさん」
「合わせる」
遥真はコンカッション弾を先に入れた。威力は低いが、歩道橋を逃げる敵の足が一瞬だけ鈍る。続くAKが、物陰へ戻る前に捉えた。
ダウン表示が出た。
「一枚落とした」
「店舗の二人、出ます」
航平の声がすぐに続いた。
店舗の入口から一人が歩道橋へ向かい、もう一人が窓から射線を作ろうとしている。
「右の入口から行きます。ハルさんは手前。私は窓を見ます」
「了解」
「後ろは大丈夫。左から回れます」
三人が同時に動いた。
遥真は入口へ走るが、夕奈を追い越さない。窓から敵が顔を出すと、夕奈がScout-56を当てて引かせた。
「窓、下がりました」
「手前割った」
「行きます」
遥真は建物へ入る直前にAKからAuto-8へ持ち替えた。続けて撃てるショットガンで、一発目に敵を止め、二発目で落とした。
最後の一人が店の裏口へ逃げる。そこには航平が投げたスモークが広がっていたが、煙は壁ではない。敵は止まらず白い幕へ入り、姿を隠したまま裏口の左へ投げ物を転がした。
航平が爆発を避けて壁へ下がる。その一秒で、敵は煙の中を右へ切り返した。
「裏、右へ出ます。投げ物、使わせました」
「見えました」
三人の射撃が重なり、部隊撃破の表示が出た。
「必要な分だけ取って移動します」
「別パ、南の道路。まだ距離あるけど、こっち見てます」
航平は戦利品より周囲を見ていた。三人は回復と弾を補充し、南の部隊が近づく前に商業区を離れた。
安全な建物へ入ったところで、夕奈は一度だけコメント欄へ視線を動かした。
『HALがちゃんと待った』
『YUNAの判断早かった』
『センサーからコンカッションまできれい』
『KOHEIずっと後ろ見てるな』
「ユウナさん、次どうします?」
航平の声で、夕奈はゲームへ意識を戻した。
「次のエリアは東寄りです。中央を避けて、北から入ります」
「了解」
試合は終盤まで続いた。
残り三部隊。
NOVA-3は壊れた駅舎の一階に入り、上階には別の部隊がいる。道路を挟んだ向かいの建物にも、最後の部隊がいた。
上へ仕掛ければ向かいから撃たれ、待ち続ければ次のエリアから外れる。
「上、右に一枚。落としに行ける」
遥真が言った。
夕奈はミニマップと向かいの窓を見た。
「上は削るだけにします。向かいが動いたら、階段から詰めます」
「分かった」
遥真が上階へ牽制を入れる。
敵が奥へ下がった直後、向かいの部隊が道路を渡り始めた。
「向かい、三枚出た」
「今、上へ行きます」
三人は階段を上がった。
先頭の遥真がAKで一人を割る。夕奈が横から来た敵をScout-56で止め、航平は下の階段へスモークを入れたあと、Lancer-56を断続的に撃った。下の部隊が一気に上がれない時間を作る。
遥真が一人を落とした。
だが、向かいの部隊が別の階段から上がってくる。
「右、下がれない」
「こっちも来た。二枚。ランサー、残り六発」
航平が止めたぶん下の部隊は遅れたが、二方向から射線を重ねられた。
「ハルさん、左の一人だけ落とせますか」
「やる」
遥真が一人を倒す。
その直後、航平がダウンした。夕奈がカバーへ入るが、背後からも弾が来る。
最後まで撃ち返したものの、画面に敗北表示が出た。
部隊順位、三位。
夕奈は悔しさに唇を結んだ。上へ行く判断が、あと少し早ければ。
「三位ですね。お披露目で即落ちは避けましたけど、惜しかったです」
航平が息を吐く。
「私は悔しいです」
「うん」
遥真が言った。
「勝てたと思う」
夕奈も同じだと思い、頷いた。
「次は、向かいが動く前に上を取ります」
「次もやる?」
「今日は進行時間があります」
玲奈を見ると、終了へ進む合図が出ていた。航平が残念そうな声を出す。
「会社の予定には勝てませんでした」
「今日はお披露目配信なので」
「次はゲーム内の敵と会社の予定、両方に勝ちましょう」
「予定には従ってください」
玲奈の声が、配信に入らない位置から飛んできた。夕奈は笑いをこらえながらゲーム画面を閉じた。終了前の画面に三人のアバターが並ぶ。
『三位おしい』
『HAL強いけどちゃんと戻るんだな』
『まだずれるけど面白い』
『NOVA-3、思ったよりチームだった』
「思ったより」に夕奈は笑った。三人で戦っていることは伝わったらしい。
「本日は、NOVA-3合同お披露目配信を見に来てくださって、ありがとうございました」
夕奈は進行表の最後を確認した。
「これからは、それぞれの個人配信に加えて、三人でのランク配信や公式番組にも出ていきます。まだうまく合わないところもありますが、次はもっといい試合を見せます」
「次は勝ちます」
遥真が言う。
「最後の挨拶も、今度こそ三人で合わせます」
航平が続けた。
「そこは今日、合わせましょう」
夕奈は二人を見た。
「では、最後は三人で締めます。せーの」
「おつNOVAでした」
「おつNOVAでした」
「おつNOVAでした」
航平がわずかに早く、遥真が半拍遅れた。三つの声は、きれいには重ならなかった。
『ずれた』
『初おつNOVA』
『次は合わせて』
夕奈も笑ってしまった。
「次は合わせます」
「そこも練習ですね」
「分かった」
画面が終了表示へ切り替わった。
「配信終了しました。お疲れさまでした」
スタッフの声を聞き、夕奈は息を吐いて椅子の背にもたれた。個人初配信のあとと違い、今日は配信が終わっても隣に二人がいる。
「最後、ずれましたね」
夕奈が言うと、航平が首を傾けた。
「初回は少しくらいずれた方が、覚えてもらえますよ」
「わざとだったんですか」
「俺はわざとです」
遥真が航平を見る。
「早かっただけだと思う」
「ハルさん、配信が終わった瞬間に正確な攻撃してくるな」
夕奈はまた笑った。玲奈が三人の前へ来て、タブレットを確認した。
「大きな進行上の問題はありませんでした。アーカイブは確認後、公式チャンネルに残します。それから、先ほど運営側の登録作業が完了しました」
玲奈が三人のゲーム画面を示す。
「各アカウントへ、公式契約プレイヤー表示が反映されています」
夕奈はもう一度、デルタフィールドを開いた。
ロビーに並ぶYUNA、HAL、KOHEI。その横に、ネクスフィアプロモーションの公式契約プレイヤーを示す小さなマークがついていた。
「ついた」
夕奈は思わず声に出した。
会社の資料で何度も見た言葉が、ゲーム画面の自分の名前についた印を見て、初めて自分のものになった気がした。
「これで、正式に公式ですね」
航平が言った。遥真は自分の名前の横にあるマークを見たまま、短く答えた。
「うん」
三つ並んだ印はうれしく、同じだけ怖かった。公式になっても急に強くはならず、三人の声も勝手には揃わない。
夕奈はマークから顔を上げた。
「次は、合わせたいです。ゲームでも、挨拶でも」
「練習項目、また増えましたね」
航平が笑い、遥真は「分かった」と答えた。
本作をお読みいただき、ありがとうございます。
☆ゲームについての豆知識をご紹介☆
ゲーム市場は、家庭用ゲーム機、スマートフォン、PCなど、さまざまなプラットフォームを通じて世界中へ広がる大きなエンターテインメント産業です。
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今後も、通信技術の進歩やVR・AR、AIなどの活用によって、新しいゲーム体験やサービスが生まれていくと考えられています。
※掲載内容は、一般的なゲーム市場の特徴を分かりやすくまとめたものです。市場規模や構成比などの数値は、調査年、調査会社、対象地域、集計方法によって異なります。本イラストは、2023年調査の情報を元にしたものです。




