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第86話 TIERAXとNOVA-3

挿絵(By みてみん)

次の試合のロビーに、暫定10位、29ptと表示された。11位との差は、わずか1ptだった。


早坂航平は順位表を閉じ、次のマップを表示した。


「次、3ptだけ取っても、下が伸びたら落ちます」


久我遥真も順位表から視線を外し、ヘッドセットを直した。夕奈は次のマップを二人と開く。


「行きましょう」


「行ける」


「始まります」


航平が言い終えるより先に、ロビーが画面から消えた。



第9試合。


輸送機から降下すると、少し離れた区画へTIERAXの三人が入っていくのが見えた。直接争う距離ではない。


NOVA-3が倉庫街で武器と回復を集めている間に、東側から短い銃声が続いた。


キルログに、TIERAXの名前が二つ並ぶ。


「一部隊から二人落としてます」


夕奈は倉庫の東窓へ出て、道路を離れるTIERAX共通の競技スキンと、公開カードで確認した三人の識別帯を確かめた。


佐伯玲司の識別帯が先頭にあり、KYOは東へ射線を広げていた。最後尾のTOMAは路上のデスボックスを開き、回復だけを抜いて二人の戻り道へ入る。


「追いますか」


夕奈が尋ねると、航平はすぐに答えた。


「同じ経路は使いません。TIERAXが中央へ抜けたので、西の部隊がそっちを警戒しています。南は今なら薄いです」


夕奈が南側へ視点を向ける前に、遥真が言う。


「南の入口、一人見てる。俺が止める。戻りは手前の車両にする」


「倒せますか」


「詰めれば。でも戻るのが遅れる」


「車両で待ちます。航平さん、先にお願いします」


「行きます」


航平が倉庫を出る。


遥真は入口へ間隔を空けて弾を置いた。敵が下がり、夕奈も南へ走る。


航平が車両の陰へ滑り込む。夕奈もその隣へ入った。


敵が遮蔽の裏でブーストステップを使った。加速の出始めには撃てない代わりに、遥真の照準から外れたまま右側まで回れる。


「右へ回った。二人、入ったか」


「います。右は私が見ます」


夕奈は車両の端から銃を出した。右側に現れた敵へ弾を送り、倉庫を向いていた銃口を自分へ引く。遥真はその間に射撃を切り、倉庫を離れた。


遥真が車両の陰へ滑り込んだ。


直後、敵の弾が車両の後ろを削った。


「戻った」


遥真は残弾を確認してリロードに入り、引き金から右の人差し指を離した。


「はい。次を見ます」


西側から別部隊の銃声が聞こえ、先ほどまでいた倉庫へ敵が入った。


「次の収縮、東寄りです。回復は足りています。中央の建物へ急ぐ必要はありません」


航平が続ける。


「南東の崖下なら、二部隊が通過するまで待てます」


「そこへ行きます」


中央へ消えるTIERAXのタグを背に、三人は南東の崖下へ降りた。


ラウンド3、NOVA-3が崖下の排水管を通ろうとしたところで、上段から三人分の射撃を受けた。


航平が最後に管の陰へ入ろうとした瞬間、投げ物が足元で爆発する。シールドが割れ、続く弾でダウンした。


「俺、下です。上に二人。降りた足音、一人」


一人が崖を滑り降り、航平へ近づく。残る二人は上段から排水管の左右を見ていた。


「ハル、上じゃなく、降りた一人を見て」


「見える。夕奈が出たら撃つ」


夕奈が排水管の左から半身を出すと、降りた敵の銃口が向いた。


その一瞬に、遥真が右から撃った。敵のシールドが割れ、夕奈の次弾でダウンする。二人は上段へ詰めず、航平へ寄った。遥真が倒れた敵を確定させる間、夕奈が上からの射線を管の縁で受ける。


上段の二人は出口に弾を置き続けた。夕奈は射線が切れる側で航平を起こす。NOVA-3は1キルを得たが、デスボックスには触れられない。弾も回復も増えないまま排水管の奥へ進んだ。


終盤までに、別の戦闘で2キルを加えた。


残り八部隊。


別方向で部隊撃破の表示が流れた直後、高所を取っていた海外チームから射線が伸びた。


NOVA-3はその射線に追われ、7位で全滅する。


3キル。


順位3ptとキル3ptで、6pt。


合計35pt。大型画面では、NOVA-3の名前が11位に下がっていた。


10位とは1pt差。得点を取っても、下から伸びたチームに抜かれている。


「最後、戻せばいいです」


航平は順位表の35ptをメモへ移し、書いた数字の上でペンを止めた。


あと一試合。夕奈は必要な得点を口にしなかった。


航平はペンを離し、遥真が次のマップを開いた。



グループステージ最終試合。NOVA-3は収縮の外周から中央へ向かっていた。


航平が車両音と銃声を拾い、進路を絞る。


「北は二部隊が戦闘中。正面左なら入れます。ただ、検問小屋に一部隊。入口の銃口だけ見えます」


小屋の奥の人数までは分からない。


遥真が先に言った。


「入口を閉じる。倒しには行かない。三秒作る」


夕奈は小屋を見直さず、航平に聞いた。


「三秒で入れる場所は?」


「正面左です。三人で届きます」


遥真が窓枠に弾を置く。入口の銃口が消え、別窓の影も奥へ寄った。


「閉じた。三秒」


「行きます」


三人は敵が守っていた道を走った。


背後で敵が撃ち返したときには、NOVA-3は次の遮蔽へ滑り込んでいた。


「戻りました」


遥真が言う。


「はい」


夕奈は遥真のシールド残量を見た。


撃破表示はない。遥真の残弾が減り、移動時計では三秒が過ぎていた。三人は中央の遮蔽にいる。


ラウンド4。


NOVA-3は収縮中央に近い三階建ての建物へ入った。


一階には入れたが、上階にはすでに別部隊がいる。外にも二部隊が残り、入口を挟んで撃ち合っていた。


正面の敵へ仕掛ければ、キルを取れる可能性はある。


ただし、前へ出れば上階から撃たれる。


天井越しに、上階を移動する足音が聞こえた。


航平は上階の動きと外の銃声を聞きながら言う。


「上は俺たちを倒しに下りる気はないです。一階から追い出して、外の部隊とぶつけたいんだと思います」


「外が入ってきたら?」


「上はそっちへ撃つはずです。階段へ出れば、上も背中を見せます」


「推測ですよね」


夕奈が聞く。


「はい。下りてきたら外れです」


「上、一人は階段に近い」


遥真が足音を拾った。航平の言うとおり外を待っているのか、NOVA-3へ下りる準備なのかは分からない。


遥真は壊れた窓の隙間から、正面の敵を見ている。


「今は撃たない。外が来たら、一人止める」


夕奈は二人の判断を受け取り、一階で待つ場所だけを決める。


「奥の柱まで下がります。外が入口へ来たら、ハルが止める。上が外を撃ったら、階段脇を抜けます」


「了解です」


「合わせる」


三人は入口を直接見ない位置まで下がった。


夕奈は柱の奥へ入り切らず、階段にも撃てる角度を残した。航平の推測を使いながら、外れたときの銃口だけは自分で持つ。


外の銃声が近づく。


投げ物が建物内へ転がり、一階の手前で爆発した。


敵が入ってくる。


「来た。一人止める」


遥真が柱の右から撃つ。


先頭のシールドが割れ、敵は入口脇の壁へ戻った。


その瞬間、上階から射撃が始まる。


上の部隊はNOVA-3ではなく、入口に残った敵へ撃っていた。


「今です」


三人は階段脇の通路を抜け、建物の反対側へ出た。


途中、上階から一人が階段を二段下りた。夕奈の照準がそちらへ跳ねる。敵はNOVA-3ではなく入口の部隊を撃ち、また上へ戻った。航平の読みは当たった。ただ、夕奈が階段を見ていなければ、その一歩を敵の追撃だと思って足を止めていた。


背後では、上階と外の部隊が撃ち合っている。


NOVA-3を追える状態ではない。


「南の岩まで行けます。右は戦闘中です」


航平の報告が終わると、夕奈は南へピンを置いた。


「南へ行きます」


終盤、残り六部隊。南の岩場で戦闘が終わる。


勝った側の二人は削れ、もう一人は奥で回復している。


「正面、二人。奥は回復中です」


航平が言う。


「周りは?」


「右が遠距離で見ています。ただ、射線は岩で切れます。左は収縮で動けません」


遥真が武器を構える。


「前の二人は削れてる。今なら戻れる」


右から一発飛び、岩の上を削った。


「右、もう見てます」


夕奈が言う。


「岩までなら戻れる」


遥真は言い直した。倒しに行っても安全、ではない。戻る位置が一つ残っているだけだった。


「前の二人を短く倒します。デスボは見ません」


「行く」


三人で岩を回る。


遥真が一人目のシールドを割り、夕奈がダウンを取る。航平はもう一人が下がる経路へ射線を通した。


「奥、肉です」


「合わせる」


遥真が二人目をダウンさせる。


遮蔽の奥にいた最後の一人は回復を中断し、収縮の外側へ逃げようとした。


「追いません」


夕奈が言う。


「右の射線が来ます。岩へ戻ります」


「もう来てます。俺が先に下がります」


航平が、自分で岩へ走った。夕奈の指示を待たず、右から撃たれる角度へスモークを落とす。


三人が遮蔽へ戻った直後、右側から弾が飛んできた。


逃げた敵は、別部隊に倒された。


ダウンさせた二人のキルはNOVA-3に入り、逃げた一人のキルだけが別部隊へ渡る。


NOVA-3のキル表示が2に変わる。三人は岩の裏に残り、右から来た弾は外側を削った。


最後は狭い道路で三部隊に挟まれた。正面はガードレール、左はコンテナ列、上は建物の屋根だった。


「正面と左、別部隊です。上も三人」


「上、三人じゃない。一人、下りた」


夕奈の右側で足音が鳴った。航平が見ていた屋根の一人は、もう道路脇の階段へ降りている。


「すみません。右にも来ます」


「中央へ行きます」


言ってから、夕奈は正面の一人と、右の足音がする方を交互に見た。どちらを先に取るか決められない。


「正面、俺が撃つ」


遥真が夕奈を待たず、ガードレールから出た一人をダウンさせる。確定へ撃とうとしたところへ、右から弾が来た。


航平が振り向き、CARを一マガジン撃つ。


「右、半分。俺はリロードです」


夕奈は正面のダウンではなく右へ出た。一発受けながら敵を倒す。倒れた位置へ左の部隊からも弾が入り、どちらの確定か分からないままキル表示が一つ増えた。


「正面、起こされます」


今度は航平が先に言う。リロードを終えた弾をガードレールへ置き、夕奈が正面へ向き直るまで救助を止めた。遥真の残り数発がダウンした敵へ入り、確定になる。


高所の一人が夕奈と航平へ射線を振った。夕奈は屋根ではなく、左のコンテナから出た別の一人へ撃ってしまう。


「それ、左です。上は俺が見ます」


航平の言葉へ遥真が重ねた。


「上、もう落ちる」


遥真が屋根の縁を撃つ。敵はNOVA-3の弾ではなく、反対側から来た別部隊の射線を受けて転落した。地上へ落ちた敵が、階段へ走ろうとする。航平がその背中を撃ち、ダウンから確定まで取り切った。


三つのキル表示のうち、右で倒した敵と屋根から落ちた敵には同じ部隊タグがついた。夕奈が最後に撃ったのは左の敵で、高所から落ちた敵には照準さえ合っていない。正面の部隊に二人、屋根の部隊に一人、左には三人が残っている。


三方向の弾が重なり、NOVA-3は4位で全滅した。


5キル。


順位5ptとキル5ptで、10pt。


合計45pt。結果画面が切り替わるまで、夕奈は順位を予想しなかった。ヘッドセットの向こうでも、誰も話さない。


大型画面に、グループステージの最終順位が表示される。上から順に、チーム名が並んでいく。3位にTIERAX。


日本代表の一チーム目が進出を決めた。夕奈はさらに下を見る。6位。


7位。そして8位。NOVA-3、45pt。


10位の下に引かれた進出線より上に、三人の名前があった。


「通りました」


航平は「通りました」のあとで咳払いをした。遥真は残弾表示から目を上げ、右手をマウスから離した。


「次、行ける」


夕奈は8位という数字を見た。国内予選では2位だった。世界のグループステージでは8位。


「国内2位が、世界では8位ですか」


航平が言う。


「まだグループです」


夕奈が答えると、航平が笑った。TIERAXとNOVA-3の右に、同じ進出表示が点灯している。


遥真は画面の二つの名前を見比べた。NOVA-3の表示から目を離し、席を立った。



選手ブースから控室へ戻る通路で、NOVA-3はTIERAXの三人と重なった。


佐伯玲司は夕奈と航平へ軽く手を上げた。隣のKYOは設定同期画面から「HAL_trial」を消し、空いた枠に「KYO_DWC_B」を入れていた。


KYOは遥真を見て、先に言う。


「体験のときより、待てるようになったな」


「KYOは、戻るの速くなった」


「見てたのかよ」


「同じ試合だから」


少し後ろにいたTOMAは、航平へ端末の第9試合を示した。


「南を使ったの、俺たちが中央へ抜けたのを見てからだろ」


「西の視線を借りました」


「次は閉じる」


「その前に使います」


TOMAは第9試合の画面を閉じた。佐伯が三人へ言う。


「突破、おめでとう」


「そちらも」


夕奈が返す。佐伯は遥真へ向き直った。


「国内で見たときより、判断が速くなったな」


遥真はKYOの設定同期画面を見てから答えた。


「間違うのも速かった」


佐伯の眉がわずかに動いた。


「航平の場所を外した。夕奈も違う敵を見た。俺の六秒は二秒だった」


「それで八位まで戻した」


「俺だけで決めてないから」


遥真が言った。


「それができるようになったって話だ」


佐伯は笑わず、声を落とした。


「DWCが終わったら、もう一度話そう」


夕奈は自分の端末にあるNOVA-3と、佐伯の胸のTIERAXロゴを見た。遥真が先に答えた。


「終わってから話す」


佐伯は返事を受け取り、KYOとTOMAの後を追った。


「玲司、レビュー室、もう開いてる」


先へ進んでいたKYOが呼んだ。TOMAは第9試合の画面へ戻り、佐伯も二人を追った。


夕奈は端末に届いたセミファイナルの集合予定を開いた。


「ハル、次の試合があります」


「分かってる」


遥真は佐伯の隣には残らなかった。


夕奈と航平の方へ歩いてくる。三人が横に並ぶと、佐伯はそれ以上呼び止めなかった。


三人はセミファイナルのレビュー室へ向かった。




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