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第85話 正面が空くまで

挿絵(By みてみん)

二日目の朝、三人は初日の録画の確認を、進路が埋まった場面、部隊撃破後の離脱、航平の回復を待たずに始めた戦闘に絞った。


夕奈は三時間ほどしか眠れなかった。画面を見ていると、赤い予告範囲の輪郭がまだ目の奥に残る。航平は紙コップのコーヒーを一口飲んで顔をしかめ、遥真は朝食のパンを袋から半分だけ出したまま録画を見ていた。


第一試合では、遥真が「前、まだいない。渡れる」と言ったあと、夕奈は人数、窓、道路を順に見ていた。三人が倉庫を出た直後、サービス路をNEXORAが横切っている。


「報告が足りなかったわけじゃありません」


航平は、サービス路がまだ空いていたフレームまで映像を戻した。


「俺が北のキルログを読んで、ハルが前を見てました。夕奈さんは、そのあとで人数も窓も確かめています」


「自分で見ないまま動かして、間違えるのが怖いです」


夕奈の喉が狭くなり、声が硬くなった。


「見ないで決めてください、とは言ってません」


航平は続ける。


「俺が見たものを、夕奈さんがもう一度見なくていいようにします。周辺部隊と物資をまとめて、いつ動くべきかまで言います」


夕奈はペンを止めた。


「いつ動くかまで、航平さんが決めるんですか」


「決める、ではありません。俺がそう思った時刻も言います」


「それを聞いたら、私は採用するか断るかをすぐ決めることになります」


「今もそうです。俺が人数だけ言ったあと、夕奈さんが同じ窓を見る時間が増えてるだけで」


航平はそこで言葉を切り、冷めたコーヒーをもう一度飲んだ。


「ただ、俺の『今』が外れたら、昨日より早く全滅します」


久我遥真は、第四試合の映像を見ていた。


航平の『回復が――』に返事をしないまま、夕奈と遥真が防砂壁へ出ている。敵を一人倒した直後には、観測小屋の二つの窓から撃たれていた。


「回復を待たなくても、落とせると思った」


「ハルが落とせるのは、俺たちも疑ってません」


航平が答える。


「撃ったあと、何秒こっちが動けるのかまで分かると助かります」


遥真は倒した敵から退路まで、録画の再生位置を送った。


「止められる時間を言う。戻れるかも見る」


「毎回、秒数で言えますか」


夕奈に聞かれ、遥真は画面の防砂壁を見た。


「昨日は十二発って言って、途中でリロードになった」


「では、分からないときは?」


「分からないって言う」


「それだと、私がまた見ます」


「見た方がいいときもある」


遥真は、昨日の橋で一人だけ残った自分の映像を止めた。


「全部、見なくていいとは言ってない」


夕奈は二人の名前の横に書き足そうとして、ペンを止めた。


「間違ったら、どうしますか」


「俺の『今』が?」


「選んだ私がです」


航平は紙コップの縁を潰した。


「間違わないとは言えません。世界大会で根拠のない安心まで担当すると、仕事が多すぎます」


「では、私がもう一度」


「それで昨日、同じ窓を見ました」


「俺は待たない」


遥真は画面を見たままパンをかじった。


「外しても次も言います。夕奈さんも先に言ってください。全部を見直すより三人の方が速い」


夕奈はノートの余白へペンを移した。


「私の指示も、違うと思ったら止めてください」


「止めても行ったら?」


「もう一度言ってください」


夕奈が詰まると、航平は潰れた縁を戻そうとした。直らなかった。


「その先は、試合になってから決めます」


「やっと決めない話になりましたね」


「すみません」


「今のは謝られると困るやつです」


遥真が録画を再生した。橋に一人で残った自分が、また動き始める。


「違ったら途中で変える。昨日は、止まるのが遅かった」


開始前の音が鳴り、夕奈はノートを閉じた。



二日目の第一試合。航平が「西は二部隊、南は今なら使える」と報告したとき、夕奈は西の窓へ視点を向けた。航平の言った二部隊が見えただけだった。


「西は航平が見てる。前の部隊、動いた」


遥真はもう正面の遮蔽へ向かっていた。夕奈と航平も続いたが、最後尾の夕奈は西から数発もらい、シールドを一目盛り失った。


「分かりました」


終盤、別部隊の移動ウルトが谷を横切った。光の軌跡は三本とも同じ終点へ伸びていたが、航平は着地音のずれを聞いた。


「先頭だけ一秒半早いです。最後は右へ外れます」


夕奈は着地点を見直さず、中央だけを指定した。ただ、声が出るまでに半拍かかり、先頭には低い壁まで入られた。


「一秒半じゃない。もう着いてる」


遥真が回り込む。航平は返事をせず、右へ外れるはずの最後の一人を見た。敵は右ではなく、着地直前に軌道を切って中央へ寄っている。


「訂正、最後も中央です」


報告は間に合わなかった。遥真が最初の一人を止め、夕奈が続く二人目に射線を重ねる。最後の一人は二人を起こせる位置まで入ったが、後ろから来た別部隊の弾を受けて右へ逃げた。NOVA-3はその背中を追わず、二つの確定だけを取った。


別部隊の弾は、右へ逃げた最後の一人を追っていた。夕奈は二つの確定が入るとすぐ離脱を指示し、遥真も低い壁を離れた。光の軌跡をたどって近づく足音を航平が告げたときには、三人とも次の遮蔽へ向かっていた。


七位、2キル。5pt。


結果画面が閉じると、航平が言った。


「途中、三回くらい俺の方を見ようとしてましたね」


「数えてたんですか」


「担当方向なので」


「最後は見なかった」


「はい」


「次も、それでいい」


遥真が言うと、航平がボトルへ口をつけたまま首を横へ振った。


「最後は外しましたよ」


「でも二人取った」


「そこは二人に助けられました」


航平がボトルを置いた。夕奈は二つの確定が入った時刻に印をつける。遥真の射撃と自分の射撃が、短い間隔で重なっていた。


次の接続音が鳴り、夕奈は待機画面へ切り替えた。



二日目の第二試合。同じ区画へ降りた部隊が、NOVA-3より先に三人で一棟へ集まった。


夕奈は一階でSMG、航平は隣棟でマークスマン、遥真だけが二階でショットガンを拾う。敵の足音が二つ、夕奈と遥真の間へ入った。


「俺の方、一人来る」


遥真が言う。


「違います。夕奈さんとの間に二人です」


航平は窓越しの影を数えていた。


「ハル、下りてください。航平さんは――」


「下りる階段、見られてる」


夕奈は自分でも廊下を見た。見直しているあいだに、敵の三人目が航平側の出口へ回る。


「東も一人。合流できません」


誰が間違えたというより、三人が別の場所から別の二人を数えていた。夕奈が行き先を決めたときには、使える合流路がなかった。遥真が一人を割ったが、夕奈はSMGの弾を拾い切る前に倒れ、航平も窓から出られない。降下から三分で終わった。


十八位、0キル。0pt。


待機画面へ戻ったとき、次の試合まで二分を切っていた。航平は何か言いかけて、水のボトルを開けた。遥真が降下地点の候補へピンを置く。


「今の、早く言っても同じだったかもしれない」


遥真が言う。


「同じにしないために朝から話したんでしょう」


航平の語尾は強かった。夕奈が二人を見るより先に、遥真はピンを同じ区画へ戻した。


「同じ区画でいいですか」


「同じ場所にします」


開始のカウントダウンが入った。航平はボトルを置き、入力確認へ戻った。



二日目の第三試合。NOVA-3は南東の研究施設へ降りた。


三人が武器を揃えると、航平がシールドパックを一組、夕奈の足元へ落とした。


「夕奈さん、持ってください」


「航平さんの分は?」


「足りてます。最後に動く人が持ってた方がいいです」


夕奈はパックを拾った。


「使わなかったら返します」


「余ったらで大丈夫です」


ラウンド2までは、大きな戦闘を避けられた。


次の収縮が表示される。現在の建物は外れる。


収縮内へ入るには、右側の通路を抜けて中央の管理棟へ向かうか、正面の広い道路を横切る必要があった。


右では、少し前から二部隊が撃ち合っている。


正面の道路は開けており、奥の建物には一部隊がいた。


早く出れば、右側の通路を先に抜けられるかもしれない。


「右へ出ます。管理棟の内側まで――」


「今は出ません」


航平の声が、夕奈の指示を遮った。試合中、航平が夕奈の移動指示を正面から止めることは、ほとんどなかった。今なら通れる。自分はそう判断した。


それを試す前に否定されたことが、面白くなかった。


「理由をください」


「右の二部隊、まだ落ちてません。両方とも回復と弾を使ってます」


右側では、短い射撃と投げ物の音が交互に続いている。


キルログにはダウン表示が流れたが、部隊撃破にはなっていない。


「収縮が動けば、二部隊とも管理棟へ寄ります。今出ると、その間に入ります」


「正面は?」


「奥の部隊が右を見始めてます。二部隊がぶつかれば、正面の射線が薄くなると思います」


待ちすぎれば、収縮に追われる。夕奈は右側の窓へ移動しかけた。


「右、俺も見える」


遥真が言った。


「撃ち合ってる。今出ると見られる」


夕奈は窓へ向けかけた視点を止める。外れたら航平のせいにしたくなるかもしれない。その考えが浮かんだこと自体が嫌だった。


「待ちます」


夕奈は息を整えた。


「正面が空いたら、私が動かします」


「了解です」


収縮開始まで、あと十二秒。


右側の銃声が一度止まった。


夕奈の胸が強く鳴る。


戦闘が終わったのか。移動を始めたのか。


「右、動きます」


航平の声が入った。


航平は右通路へパルスセンサーを射出していた。一度目の走査が、別々に管理棟へ寄る二部隊を一瞬だけ縁取る。片方が警告に気づいて本体を撃ち、二度目の走査は消えた。


「二部隊とも管理棟方向。まだ接触してません」


一度目の走査には、低い排水路の内側が入っていなかった。航平も、その死角を口にしなかった。


あと八秒。夕奈は正面の道路を見る。


奥の建物の窓には、まだ敵の影がある。


あと五秒。


右側で投げ物が爆発した。


続けて複数の銃声が重なる。キルログに一人目のダウンが流れた。


「右、再接触。正面の一人が寄りました」


正面の窓から、一つの影が消えた。


道路を通っていた射線が減る。


「今です」


「正面を抜けます」


三人が長い道路へ飛び出す。奥の建物には、まだ敵が二人いる可能性がある。


道路の半分まで来たところで、右下から弾が上がった。排水路に一人残っている。初弾が航平へ入り、シールドを半分近く削った。


「一人、下にいました。俺の見落としです」


夕奈は正面へ出る指示を取り消しかけた。戻れば右側の二部隊が合流する。進めば、排水路の一人に航平の背中を撃たせる。


その敵が二発目を撃つ前に、右側の戦闘から外れた投げ物が排水路へ落ちた。爆発を避けて敵が奥へ下がる。夕奈は戻りかけた視点を正面へ向け直した。敵が身を隠した今を逃せば、道路の途中に取り残される。


遥真が夕奈たちより少し右へ出た。ブレイクショットを起動し、次の数発を右の遮蔽へ向ける。


「右、五秒止める。戻れる」


管理棟へ向かっていた敵の銃口が、道路へ出たNOVA-3へ向く。


遥真のRaptor-5が先に火を噴いた。


「下、奥へ引きました。今だけ通れます」


航平が走りながら報告する。


「ハル、あと二秒」


「まだ止められる」


夕奈と航平が、道路の先にある壊れた防壁へ滑り込む。


遥真も射撃を切り、最後に道路を渡った。


敵の弾が背後を通り、数発だけ遥真のシールドを削る。


「戻った」


「全員います。俺はパック使います」


航平は走り終えてから回復に入った。完了までの二秒、三人は壊れた防壁の裏から動けない。右側では、排水路へ投げ物を落とした部隊がキルログを増やしていた。夕奈は二人の生存表示を確かめ、正面へ銃口を戻した。


夕奈は管理棟の左入口を見た。


「このまま入ります」


三人は、誰もいない左側の部屋へ入った。



管理棟を取った直後、右側の戦闘を勝った部隊が攻撃ウルトを撃ち込んだ。予告範囲が左室から廊下に並び、正面入口には三人分の足音が届いた。


「左、一発目が終われば安全です」


航平は予告線の順だけを見て言った。夕奈は自分で爆発位置を数え直さなかった。


「一発目の跡へ移ります。ハルは入口を見たまま」


最初の爆発が左室を焼く。夕奈は航平と爆発済みの床へ入った。遥真だけが正面に残る。


床へ入った直後、壁際に残っていた二発目の爆圧が夕奈のシールドを二十五削った。


「安全じゃないです」


「表示より広い。すみません」


航平が止まる。入口の足音はもう近い。


「そのまま奥へ。戻ると正面に出る」


今度は遥真が二人の移動先を決めた。夕奈と航平は焼け跡の奥へ滑る。


敵の先頭二人が爆発の終わった左室へ踏み込む。夕奈が一人を割り、航平がダウンを取る。二人目は、入口を見ていた遥真が背後から撃ち倒した。夕奈と航平が確定まで撃ち切る。


三人目は攻撃ウルトの向こうで足を止めた。二つの確定表示が出たあとも左室へ入らず、外へ離れた。


航平は爆発の届かないデスボックスから弾と回復だけを拾った。


「次の収縮、管理棟は端です。まだ動きません」


夕奈は左室の爆発跡から、航平の銃口へ目を移した。「まだ」が何秒か、聞きかけてやめた。



ラウンド5。


残り六部隊。


NOVA-3は管理棟を離れ、コンクリート製の低い防壁へ入っていた。


ここへ移る途中、検査小屋の角で一部隊と撃ち合った。航平は先頭のシールドを割るまでCARを撃ち切り、空になったことを隠さなかった。


「ゼロ。リロード入ります」


長い交換音の最中、敵が小屋の角を越えてきた。遥真はすぐには撃たず、二人目まで細い通路へ入るのを待った。


「二人、重なった」


一発目で先頭をダウンさせ、続く連射で後ろの敵を小屋の壁へ押しつける。夕奈が反対の窓から射線を通し、二人目も倒した。航平のリロードが終わったときには、最後の一人は収縮と逆方向へ離れている。


二つの確定表示を確認してもデスボへ寄らず、三人で防壁へ入った。


左の高所に一部隊。右の車両裏にも一部隊。正面では二部隊が、小さな建物を挟んで撃ち合っている。


航平は防壁へ入る直前、背後の収縮際で低いくぼみへ滑り込む三人を直接見ていた。今、その方向から銃声はしない。


左の高所から一発飛び、防壁の外縁が削れた。航平は着弾元に赤いピンを刺す。その脇を、敵影が一人、二人、三人と横切った。


「左は三人。回復音は、さっき一度だけです」


「右、六秒くらい止められる」


遥真が続けた。次の収縮は正面へ寄っている。右を下げても、左の高所がこちらを見ている間は動けない。


「左が正面を見るまで待ちます。ハルは右。航平さん、左が動いたらお願いします」


正面で銃声が重なる。


一人がダウンした。


左の高所が、倒れた敵に射線を移す。


「左、正面を見ました」


「行きます。防壁を二つ進みます」


「右、止める」


遥真が撃ち始めた。


夕奈と航平が前へ走る。


右側の敵が遮蔽へ下がる。六秒あるはずだった。


二秒目で、別の一人がブーストステップを使い、遥真の弾を横へ抜けた。


「六秒ない。右、出る」


夕奈は走りながら右へ撃った。弾は当たらなかったが、敵の照準が一度だけ夕奈へ向く。


「私も見ます。航平さん、先へ」


「もう入ってます。二人とも来てください」


航平が、今度は移動先から二人を呼んだ。遥真は射撃を切り、夕奈も右を見たまま後ろへ走る。


三人が次の防壁へ入った直後、左の高所から射線が戻ってくる。


遥真のシールドが割れた。


「ハル、内側へ」


「右も来る」


遥真が戻りながら撃ち返し、一人のシールドを割る。


しかし左からも弾を受け、その場でダウンした。


「ハル、倒れました。右、詰めます」


航平がスモークを投げ、煙の端から先頭を押し戻した。


「夕奈さん、四秒作ります」


夕奈は低い遮蔽へ滑り込み、遥真を起こし始める。煙の左から敵が寄り、投げ物も越えてきた。航平のシールドが割れたが、射撃は止まらない。


「そのまま。切らなくていいです」


夕奈は動作を続け、遥真を起こしきった。


「起きた。パック一つ、弾は少ない」


夕奈は序盤に受け取ったシールドパックを、シールドを失った航平へ返した。


「航平さん、使ってください」


「借ります」


右側の部隊が、もう一度煙の端へ出た。


「三秒、撃つ」


残弾は敵を倒せなくても、先頭を防壁の裏へ戻すには足りた。夕奈と航平が正面左へ走り、遥真も続いた。


正面の戦闘で弱っていた一人が、壊れた壁の裏にいる。


「正面、一人」


航平が言う。


「取ります」


夕奈がシールドを割り、航平がダウンを取った。


部隊撃破の表示。5キル目。


右の車両裏と収縮際でも部隊撃破が続き、残り三部隊。


NOVA-3は壊れた壁の内側へ入った。


遥真は弾が少ない。航平の回復も足りていない。夕奈のシールドも最大ではない。


最後の収縮は開けた道路へ寄り、左と正面の二部隊がNOVA-3を挟んだ。


遥真のRaptor-5が、夕奈の指示より先に正面へ伸びた。先頭を遮蔽へ戻し、自分は道路側へ一歩出る。


「二人、左を切って。正面は先に下げる」


戻る遮蔽がないことは、夕奈にも見えていた。


夕奈は正面の敵と、左側の射線を見た。


「一人にはしません」


航平が残ったスモークを構える。


「左は切れます」


「分かりました。航平さんが左を切る。私とハルで正面。一人倒したら、三人で道路へ出ます」


「了解です」


「合わせる」


航平のスモークが左側の射線を遮る。


夕奈と遥真が正面へ撃つ。


一人のシールドが割れ、そのまま遥真がダウンを取った。


「今です」


三人で道路へ出る。


正面の残り二人も、遮蔽から出てくる。


左の部隊もスモークを抜け、同時に動き始めた。


夕奈は正面の一人に弾を当てる。


航平が隣から撃つ。


相手の体力を削り切る前に、左から射線が通った。


航平がダウンする。


夕奈も続けて倒れる。


遥真は道路の中央で一人を割ったが、二方向から撃たれ、最後にダウンした。


三位、5キル。


順位7ptとキル5ptで、12pt。


チャンピオンには届かなかった。



結果画面が消えても、夕奈の呼吸はヘッドセットの内側で浅いままだった。


「航平さん」


「はい」


夕奈は航平へ顔を向けた。


「止めてくれて、ありがとうございます」


航平はイヤーカップを片方ずらした。


「右へ行くところですか」


「はい。それと、ハルを起こす四秒も」


「あれは欲しかった」


遥真が口を挟んだ。航平は二人を見て、ずらしたイヤーカップを戻した。


「パック、返してもらって助かりました」


夕奈はそこでようやく笑えた。途中で渡したパックが、航平をもう一度撃てる状態に戻した。最後の道路には三人とも出て、十二ポイントを持ち帰った。


「次も、必要なら止めてください」


「止めます。俺が外したときは、二人で変えてください」


航平は朝のメモを引き寄せた。排水路から受けた一発と、左室の爆発。録画には二つとも印が残っている。航平はそれぞれの再生位置を書き留め、ペンを置いた。


「次は、もう少し弾を残す」


遥真は空の弾薬欄を見ていた。


「そこはお願いします」


「六秒も外した。でも、夕奈が右を撃った」


「航平さんが、先で呼んでくれました」


防壁の先から聞こえた声を思い出す。あのときは、戻る場所を探さずに走れた。


大型画面では、十位のNOVA-3が29pt、その下の十一位が28pt。進出線は二つの数字の間にある。


夕奈が水を差し出すと、遥真の震える指がボトルを一度はじいた。航平が転がる前に押さえ、今度は机に立ててから遥真の方へ滑らせる。遥真は両手で取った。


「一ポイントですか」


航平が大型画面を見上げる。夕奈も十位の欄を見た。そこにはもう、NOVA-3の名前があった。


隣の卓から録画を戻す音がした。遥真がそちらを見てから、次のマップへ向き直る。


「もう見られてる。次は先に行きたい」


夕奈はマップを開いた。右へ出ようとしたとき、航平に止められて腹が立ったことも覚えている。次に同じ声が聞こえたら、まず理由を聞く。開始前の表示を確かめ、二人を待った。


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