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東京ランクマッチ ー三人で挑むeスポーツ青春譚ー  作者: Aramaki_mai
第11章 勝った後の行き先
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第77話 東京ゲームショウ三年目

挿絵(By みてみん)

幕張メッセの床から、遠くのステージ音が伝わってくる。


頭上には新作ゲームの巨大な広告が吊られ、通路の両側には試遊台を待つ列が伸びていた。光る看板とモニターの映像が、行き交う人々の顔を数秒ごとに違う色に染めている。


沢渡夕奈は、首から下げた出演者用の通行証に触れた。東京ゲームショウに関わるのは、今年で三度目だった。


一年目は、品川の会議室で短いコメント映像を収録した。会場の大型画面にYUNAが映っていた時間、夕奈は大学の講義を受けていた。


二年目は、NOVA-3として初めて東京ゲームショウの会場から公開生配信に出演した。大勢の観客が一斉にスマートフォンを向けた瞬間、用意していた言葉が止まった。航平と遥真が場をつなぎ、夕奈はどうにか自分の担当に戻った。


翌日には、止まった数秒だけが切り抜かれていた。


三年目の今年、会場内の案内モニターには、これまでになかった表示が流れている。


TEAM JAPAN。


TIERAX。


NOVA-3。


自分たちのチーム名の横に、日本代表と記されていた。


「写真、撮ってる人がいますね」


航平が歩きながら言った。


モニターにNOVA-3のロゴが映るたび、来場者が足を止めてスマートフォンを向けている。


「まだ俺たち、何も喋ってないんですけど」


「代表発表の画像ですから」


「俺の今日の仕事、もう終わったことにできませんかね。ロゴが十分働いてます」


「できません」


前を歩く玲奈が、振り返らずに答えた。


「音声確認まで十五分です。遅れないでください」


「三年目でも、そこは変わりませんね」


「三年目だから遅刻してよいという規定はありません」


遥真が、横から来た人の流れを避けて歩幅を狭めた。夕奈も自然に速度を落とす。


二年前は、この会場へ来ることさえなかった。去年は、玲奈の背中を見失わないように歩きながら、会場の大きさと向けられる視線に押されていた。


今年も人は多く、音も光も強い。遥真が急に止まり、背後の航平が通行証をぶつけた。


「止まるなら言ってください」


「人」


「それは見れば分かります」



出演用ブースへ入ると、返し用モニターにメインステージの様子が映っていた。


ステージ中央にはDWCの大会ロゴがあり、左右にTIERAXとNOVA-3のチーム名が並んでいる。客席はすでに埋まり始め、後方には立ったまま開始を待つ来場者もいた。


夕奈たちの姿は、客席からは見えない。画面に出るのは、YUNA、HAL、KOHEIのアバターだった。三人は指定された席に座り、ヘッドセットをつける。


「音声確認を始めます」


スタッフに促され、夕奈はマイクへ向かった。


「NOVA-3のYUNAです。本日はよろしくお願いします」


確認画面のYUNAが、夕奈の声に合わせて口を動かした。


栗色の髪も、白と青の衣装も、一年目から変わっていない。会社が用意した顔だった。


確認画面のYUNAの肩口には、日本代表の印が追加されていた。一年目の画面にはなかったものだ。


「HALです。よろしくお願いします」


「KOHEIです。ラスベガスへ行く前に、幕張で迷子にならないことを今日の目標にしています」


スタッフの一人が笑う。玲奈は進行表を見たまま言った。


「本番では、世界大会の目標も話してください」


「代表らしい話も用意してあります。睡眠時間が足りない以外は」


「それも代表らしくありません」


夕奈は返し用モニターへ目を向けた。観客が次々とスマートフォンを持ち上げている。去年も、同じ光景を見た。


あのときは、撮られていると思った。


去年、言葉に詰まった数秒は何度も切り抜かれた。今日もスマートフォンは向けられている。その中には、国内予選でNOVA-3が二枠目へ入る瞬間を見ていた人もいる。夕奈は客席を試験官の列ではなく、話を届ける相手として見た。


「間もなく始まります」


会場の照明が落ち、客席から歓声が上がった。司会者がTIERAXを紹介し、続いてNOVA-3の名前を呼ぶ。大型画面に、三人のアバターが並んだ。


「YUNA!」


「HAL、世界でも頼むぞ!」


「KOHEI、胃を守れ!」


航平がすぐにマイクへ近づく。


「ありがとうございます。俺の胃より、日本代表を応援してください」


会場に笑いが広がった。夕奈は、その笑いが収まるのを待ってから話し始めた。


「こんゆな。NOVA-3のYUNAです。世界大会へ行く前に、皆さんへ直接お話しできて嬉しいです」


スマートフォンがこちらを向いている。その四角い画面の一つ一つに、今の声が残っていく。夕奈は、それを怖いだけだとは思わなかった。


司会者から、世界大会での目標を聞かれる。


「世界でも、三人で最後まで判断をつなぎます。強い相手だからといって、誰か一人のプレイだけで勝とうとはしません」


続いて、遥真に対戦したい選手についての質問が向けられた。


「強い人とは、全員撃ち合いたいです」


客席から笑いと拍手が起こる。遥真はマイクへ少し近づいた。


「でも、一人で勝つつもりはないです。撃ったあとに二人が動ける形を作ります」


航平は海外チームの研究状況を聞かれた。


「対戦映像はかなり見ています。時差対策より先に、研究で睡眠時間がなくなりそうです」


「休んでください」


夕奈が言うと、航平が返す。


「代表の判断役から正式に休養指示が出ました」


「徹夜で判断が遅れたら困ります」


「そこまで言われたら寝るしかありませんね」


夕奈は二人のマイクが切れるのを待って、次の質問を受けた。


質疑が終わると、ステージの照明が落ちた。


『日本代表二チームの国内予選を、映像で振り返ります』


スクリーンに、デルタフィールドのマップが映る。


TIERAXが敵を一人倒し、デスボを見ずに次の場所へ走る。


続いてNOVA-3の名前が表示された。


遥真の射撃が敵を遮蔽へ押し込み、航平のスモークが三人の進路を作る。最終試合では、夕奈が前へ出て敵のシールドを割った。


『今』


銃声が重なり、最後の敵が倒れる。


画面中央にCHAMPIONの文字が現れ、その下に三人の名前が並んだ。


YUNA。


HAL。


KOHEI。


NOVA-3。


会場の拍手が、出演ブースの中まで届いた。夕奈は正面のモニターから顔を上げた。去年より多くの視線が、三人へ向けられている。今度は、言葉を失わなかった。



出演を終え、三人はヘッドセットを外した。航平が背もたれに体を預ける。


「代表としては、事故なしで終われましたね」


「胃の話はしました」


「挨拶みたいなものです」


玲奈が終了時刻を記録する。


「次の集合まで二十分です。関係者通路から移動してください」


ブースを出たところで、隣のホールから大きな音が響いた。ネクスフィアのメインステージで、新作発表が始まっている。


通路の右側にある大型画面には、まだNOVA-3とTIERAXの日本代表告知が残っていた。


左側のネクスフィアブースでは、黒い画面に一本の光が走る。


その光が複数の線に分かれ、立体的な都市と、武器を持った四人のキャラクターを形作っていく。


タイトルが表示された。


ARCLINE。


アークライン。世界初公開のティザー映像だった。社内テストで触れたステージの一部が映る。


二人のキャラクターが正面で敵と撃ち合い、その横を、目標物を持った一人が走る。火力役が一度下がり、後方にいた味方が能力を使って前へ出た。


敵を全員倒してはいない。


それなのに、目標物を運び切った側のゲージが伸びていく。夕奈は足を止めた。


「映像、豪華ですね」


航平もモニターを見上げる。


映像の中で、四人の一人が正面へ攻撃を仕掛けた。敵の視線がそちらに集まった隙に、別の二人が右の通路へ入る。


夕奈は、その先を考えていた。


正面の敵を倒し切る必要はない。


右の目標を先に取れる。


ただ、前へ出た一人を残せば孤立する。目標を取った二人のうち一人を中央へ戻し、退路を作った方がいい。


ティザー映像は別の場面に切り替わった。夕奈の頭には、さっきの続きが残っていた。デルタフィールドとは違う。


最後の一部隊になるゲームではない。敵を倒すより、役割を替えて目標を進める方が重要になる場面もある。


誰を前へ出すか。誰を待たせるか。どこを捨て、どこを取るか。


また触ってみたい。社内テストの続きではなく、もっと深く、このゲームの勝ち方を知りたい。夕奈は右側の画面へ目を移した。


そこにはまだ、NOVA-3の日本代表告知が表示されている。隣のティザーは冒頭へ戻り、黒い画面にまた一本目の光が走った。


「夕奈」


遥真に呼ばれた。


「はい」


遥真はアークラインの画面を見る。


「やりたい?」


社内テストの日にも、遥真から「夕奈は?」と聞かれた。そのときは「難しかったです」としか答えられなかった。


夕奈は、もう一度モニターを見た。


「面白いと思います」


声に出したあと、夕奈の目は右のNOVA-3へ戻った。


「もっとやってみたいです」


遥真は驚かなかった。


「なら、やればいい」


「NOVA-3が終わっても、ですか」


遥真はアークラインから夕奈へ目を戻した。


「終わるかどうかと、夕奈がやりたいかは別だろ」


夕奈は返事をせず、右のNOVA-3と左のアークラインをもう一度見た。


「二人とも、置いていきますよ」


数歩先から、航平が振り返った。


「俺だけ集合時間を守っても、チーム評価は上がりませんからね」


夕奈と遥真は同時に歩き出した。三人で関係者通路を進み、航平が曲がり角で通行証をかざす。認証音のあと、重い扉が三人の後ろで閉じた。



帰りの車内で、玲奈から新しい通知が届いた。夕奈は窓側の席でスマートフォンを開く。画面には、品川で行われる面談の日程が表示されていた。


『DWC終了後のアークライン活動について、正式な面談を行います』


以前のような候補者への確認ではない。宛名には、チーム名も活動名もなく、沢渡夕奈、とだけ記されていた。


「何の通知?」


「あとで話します」


「今、三人いますよ」


航平が言う。


「車を降りてからです。ちゃんと話せるところで」


二人はそれ以上聞かなかった。ほどなく車が停まり、運転席から到着を告げる声がした。


「面談の日が決まりました。アークラインの話です」


開いた後部ドアから外気が入ってきても、遥真も航平も席を立たなかった。


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