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第76話 声が戻るまで

挿絵(By みてみん)

――SONELIA/RIO


最初の接敵で、MAHOのシールドが割れた。


「私、二秒」


RIOの照準の先では、AURAVEXの一人が壊れた壁に触れている。今押せば、戻る出口を閉じられる。


一秒目、RIOの指が攻撃入力にかかった。



――AURAVEX/RENKA


――同じ朝、合同カスタム開始前


代表発表配信の翌朝、AURAVEXの練習室には八時半に三人分の朝食が並んだ。MAKIの鮭おにぎりは、封を切られないままデバイスの横にある。DWC渡航の予定も、壁のカレンダーには増えていなかった。


三人は最終試合と同じ区画を開いていた。総合三位、最後は五位。MAKIが壊れた壁で倒れ、RENKAと紗月は北へ抜けた。


一回目の再現では、RENKAのパルスセンサーが西の低い壁に刺さる前に、MAKIが壊れた壁に触れた。


「遅い」


MAKIは動きを止めず、壊れた壁のさらに先に自分の印を置いた。RENKAはそこへ帰路を引かず、西の低い壁にパルスセンサーの印を置く。


「置いていった判断は変えない」


「倒れたあとの話を、先にしないで」


紗月は二つの印をどちらも消さず、開始地点に三つ目を置いた。


「MAKIがそこへ行くなら、私も同じところまで出る。RENKAは西を見て。相手を入れてやろう」


練習相手の一覧を開いていた紗月が言う。


「今日、SONELIAが空いてる」


MAKIは開始位置へ戻りながら答えた。


「相手がいても、私は先へ行く」


RENKAは返事をせず、SONELIAへ招待を送った。MAKIの鮭おにぎりは、まだ開いていない。



――SONELIA/RIO


同じ朝、SONELIAの収録机には空の紙コップが六つ残っていた。昨夜、代表発表配信を見ながらスタッフと飲んだものだった。中央には、国内予選のインタビューで言葉が出なかったときにMAHOが置いた、未開封の水が一本ある。


国内予選の競技PCの電源を落としたあとも、『私、二秒』というMAHOの声だけがRIOの耳に残っていた。


録画画面では、MAHOの「二秒」が終わる前にRIOの攻撃ピンが出口へ刺さっていた。MAHOは欠けたシールドのまま入口で倒れ、TSUMUGIも同じ射線に押し戻される。


RIOは録画を止め、次の配信の進行表を開いた。冒頭の「明るく」には、昨夜MAHOが引いた線が残っている。商品告知の担当はTSUMUGIに移され、大会振り返りだけが空欄だった。


「こんばんは、SONELIAです。今日は、国内予選の――」


いつもの高さで出した声が、「予選」のあとに続かなかった。RIOは進行表へ目を落とした。


「私、それに笑って返せないよ」


MAHOは進行表を見たまま言った。


「……最後も勝てなかった、って言ったら、その次が出ない」


RIOは止めた録画へ視線を戻した。


「世界へ行けないって分かったあと、せめて最後は勝ちたくて、二秒を一秒にした」


「次は二秒って言ったら、二秒ちょうだい」


MAHOは未開封の水を指で転がし、空欄に自分の名前を書かない。


「でも、待たせてまた負けたら、今度は私が遅らせたって思う。そうなるのも、怖い」


RIOは「明るく」の横に自分の名前を書いた。


「私、次の声を出す役はやめられない。試合でも配信でも……止まったら、どうしていいか分かんないから」


TSUMUGIは商品告知の紙を横へよけ、大会振り返りの欄に自分の名前を入れた。


「そこ、私から聞く。RIOが止まっても、次の話へ行かない」


RIOはペンを置いた。TSUMUGIは先を促さず、RIOの方を向いていた。


そのとき、AURAVEXから練習の招待が届いた。


RIOは承諾を押しかけ、二人を見る。


「受けたい」


「私もやる。戻れなかったら、もう一度呼ぶから」


MAHOが水から手を離した。RIOは承諾を送り、配信予約の公開チェックを外した。最初の一本は、三人の端末にだけ残す。


MAHOが中央の水をRIOへ押した。


「明るくできる?」


RIOは蓋を開け、一口飲んだ。


「声は出す。戻ってるかどうかは……一本やってから聞いて」


TSUMUGIが録画を開始した。赤い灯が点く。


カスタムロビーにAURAVEXとSONELIAの名前が並び、双方の準備完了が点灯した。



――SONELIA/RIO


――合同カスタム、最初の接敵


赤い灯の向こうで、一秒目が過ぎる。


「まだ」


RIOは入口へ出なかった。攻撃入力から指を離し、照準だけを残す。TSUMUGIのコンカッション弾が角から出たAURAVEXの一人に当たり、その足を短く鈍らせた。


二秒目。


窓へ戻ろうとしたMAHOの前に、AURAVEXの弾が続けて飛んだ。


「戻れない。窓、取られた」


二秒目が過ぎても、MAHOの窓には二本の弾道が残った。RIOの指が、もう一度攻撃入力に触れる。


「じゃあ入口を押す。MAHOは奥――」


「入口は私が受ける」


TSUMUGIがRIOの言葉を遮った。


「RIOは奥の場所を言って。MAHOは、戻れなくても声だけ返して」


「右奥、箱一つ。そこまで行けば切れる」


RIOは配信の冒頭と同じ高い声で位置を言った。MAHOが窓を捨て、右奥へ走る。


「行く。今は二秒じゃ足りない」


RIOが入口に短く弾を置き、TSUMUGIが退路に射線を残した。三人は最初に狙っていた窓ではなく、一つ奥の箱で揃った。


正面のAURAVEXも追撃には来なかった。西の低い壁にパルスセンサーが刺さる。水色のRENKAは一波目で壁の向こうへ消えた。紗月は中央で止まり、黄色のMAKIは入口へもう一発だけ返してから、別々の間隔で同じ壁を越えた。


キルログは動かず、六人の生存表示が残った。SONELIAは奥の箱、AURAVEXは西の低い壁にいる。


「遅かった? 私、まだ窓へ戻れると思ってた」


MAHOが聞いた。


「私も入口しか見てなかった。TSUMUGI、止めてくれてありがと」


「右へ移って。二人とも」


TSUMUGIの声で、RIOは箱の右へ照準を振った。


「次、何秒って言えばいいか……窓も取られて、怖かった」


MAHOの声が高くなる。


「見えてからでいい。聞いてる」


RIOが答えた。


次の遮蔽でMAHOが「三秒」と叫んだ。RIOは一拍遅れて「聞いた」と返し、TSUMUGIの足音が二人に追いつく。


「さっきの二秒、私は――」


「その話は後。左、来る」


MAHOに切られ、RIOは言いかけた答えを呑み込んだ。三人が左を向いた瞬間、AURAVEXの銃声がまた近づいた。


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