第74話 二枠目
国内予選第10試合。開始前、夕奈は机の端に置かれた缶を見た。
最終試合前の休憩中、遥真が買ってきたお茶だった。もう熱くはない。缶を離しても、指には温度が残っていた。
カウントがゼロになる。二十チームを乗せた輸送機が、湾岸貨物区の上空へ入った。
沢渡夕奈は、南側の整備施設に降下地点を合わせる。
降下マーカーは昨日と同じ南側に置いた。夕奈は整備施設を選択中のまま二人へ見せ、確定する。
航平の降下マーカーが、夕奈の隣ではなく西側の建物へ先に折れた。東の屋根へ、別部隊の降下軌道が三本重なっている。
「東に一部隊。重なりませんが、俺は西を先に取ります」
夕奈も東を見るのをやめ、自分の建物へ降下角度を深くした。
三人はそれぞれの建物で武器を拾った。夕奈はミディアムシールドも確保したが、回復は少ない。
三人の装備が揃う前に、キルログが動いた。
AURAVEXの名前が一つ流れる。続けて二つ目、三つ目。
「AURAVEX、初動で3キルです」
航平の声は落ち着いていた。最終試合前の差は5pt。すでに、その差は広がっている。
夕奈はマップの北西側を見た。AURAVEXの降下地点は遠く、間には複数の部隊がいる。
「向こうへは行きません」
遥真はAURAVEXのキルログを閉じた。
「分かった」
夕奈はキルログを閉じ、整備棟の出口を開けた。
「西側を拾ったら移動します。東の部隊とは戦いません」
「向こうも、まだ物資を探しています。今なら離れられます」
航平が先に外へ出た。
三人は敵のいる建物へ近づかず、整備施設の西側を抜けた。
ラウンド1の収縮は北東寄りだった。
通常の道路へ向かうと、すでに複数の銃声が重なっている。高架脇の交差点では、移動を始めた部隊同士がぶつかっていた。
「正面、少なくとも二部隊です。道路は止められます」
夕奈はマップの端にある細い斜面を見た。
高架下の保守柵を回り、斜面を下って、北側の建物裏へ入る。入口は狭く、高所から見られていれば通れない。
合同説明会へ行かず、この三人でスクリムに出た日に覚えた道だ。夕奈は保守柵の切れ目と、強化スクリムの日に置いたピンの位置を重ねた。
だが、同じ場所には小型のパルスセンサーが刺さっていた。
第一波が走り、柵の手前にいた三人の輪郭が一瞬だけ浮く。高架上の銃口が、東の戦闘からこちらへ向いた。
「知られてます。前と同じには通れません」
航平の報告と同時に、柵の切れ目へ弾が落ちた。
夕奈が引き返す側を見たとき、遥真はもう斜面の途中へ片足を掛けていた。以前使ったまっすぐな線ではなく、排水溝に沿って二メートルほど西へずれる。
「こっちなら高架の真下に入る」
「足元、滑ります」
「分かってる。先に行く」
遥真が銃を背へ回し、斜面を滑った。高架から次の弾が追い、肩の横で砂が弾ける。
「ハルを見ている一人、私が止めます」
夕奈は保守柵からScout-56を二発返した。倒すためではなく、敵の照準を斜面から外す射撃だった。
航平もセンサーを撃ち壊したが、後ろを確認してはいない。Lancer-56を高架へ向け、夕奈の次弾が切れた間を埋める。
「一人下げました。夕奈さん、今です」
夕奈は航平より先に斜面へ入った。足元の砂利が崩れ、前にいた遥真の背中へぶつかりかける。遥真が排水溝の内側にピンを打ち、夕奈はそちらへ進路をずらした。
「ここ、浅い」
「見れば分かります」
航平が最後に滑り込み、三人は高架の真下を走った。以前のピンからは西へ外れ、建物裏へ入る入口も違っていた。追撃の弾がコンクリートの角を削ったが、高架上の敵は斜面までは降りてこない。
「三人、建物裏へ入りました。追ってくる部隊はいません」
航平がようやく後ろを見る。NOVA-3のキル欄は空白のまま、交差点の銃声が遠ざかった。覚えていた道は入口までしか役に立たず、その先は遥真が選んだ溝だった。
ラウンド2の内側へ入り、北へ進もうとしたところで、航平が足音を拾った。
「建物の裏、一人だけ離れています。残り二人は中です」
敵の一人が、味方より先に隣の倉庫へ移ろうとしている。
遮蔽物は低い資材箱だけだった。
遥真が照準を合わせる。
「落とせる。残り二人は、すぐには出られない」
夕奈は敵の後ろにある道路を見た。
倒したあと、東へ抜ける道が残っている。
「一人だけ落とします。物資を取ったら東へ移ります」
「了解」
夕奈がScout-56で最初の一発を当てる。
敵が資材箱の裏へ入ろうとしたところへ、遥真の弾が重なった。
「割った」
「右から行きます」
夕奈はMP9に持ち替え、資材箱の右側へ回った。
敵は遥真のいる左側を見ている。夕奈が出たときには、照準が間に合っていなかった。
短い連射でダウンさせる。
「一人ダウン。建物内、動いてます」
航平は残り二人がいる出口を見張り、夕奈と遥真がダウンした敵へ短く撃ち込んで確定を取る時間を作った。
「北口に一人。もう一人は二階です。今なら取れます」
夕奈と遥真は、デスボックスからシールドパックと弾だけを拾った。
「取れました。東へ行きます」
建物内の敵が出口へ出たときには、NOVA-3は道路の反対側へ渡っていた。
◇
ラウンド4。
残り十一部隊。
NOVA-3は収縮南側の低いコンテナ群へ入っていた。
北東には二階建ての建物があり、その奥に大きな岩場がある。次の収縮が北へ寄れば、建物から岩場へ移れる部隊が有利になる。
二階から射撃が飛んできた。窓に見えた競技スキンはAURAVEX共通のもので、射手の腕には紗月の識別帯があった。
夕奈はコンテナの陰へ戻る。
キルログにAURAVEXの名前が出た。
さらに、もう一つ。
「AURAVEX、5キルです」
紗月たちは強い建物を取り、近づく部隊を退けている。
右側には二人生存と思われる部隊がいた。遥真が一人を削っている。
「右の一人、追えば落とせる」
しかし、その先は収縮の外側だった。
「追いません」
夕奈は即答した。
「AURAVEXの建物も、今は触りません」
「ここで待つ?」
「収縮が始まるまでです」
航平が後方を見る。
「南から一部隊来ています。待てるのは、次の収縮までですね」
「そこで動きます」
二階で紗月の銃が何度も鳴る。
別部隊を下げ、岩場へ進む道を作っている。
夕奈の照準が二階の窓へ吸われ、引き金に置いた指へ力が入った。
「まだ行きません」
遥真の照準も窓まで上がったが、発砲せず岩場へ戻った。
「分かった」
ラウンド4の収縮が始まった。
白い境界線が、建物の南側へ近づいてくる。
AURAVEXで先に北東の岩場へ向かったのは、紗月だった。赤い識別帯が壊れた壁へ触れ、振り返って建物の二階へ撃つ。
撃たれた敵を窓から退かせたのは、進路を作っている側の紗月だった。MAKIの黄色い識別帯は二階に残り、RENKAは一階と外階段を往復している。三人が一つずつ役目を持って並んでいるようには見えない。
RENKAが北側入口から半身を出し、紗月のいる壁ではなく西の低地を確認した。直後にMAKIが二階から飛び降り、紗月を追い越して壊れた壁へ入る。建物の南側から、三人の視線がようやく消えた。
「今です」
夕奈はコンテナの陰から出た。
「航平さん、二階を撃てますか。私は後ろを切ります」
夕奈は自分で南側へスモークを投げた。後ろから近づいていた部隊とNOVA-3の間に白い煙が広がるが、コンテナの端までは届かない。
「短いです。俺が二階を止めたら、夕奈さんが後ろを見てください」
航平のLancer-56が二階の窓へ伸びる。残っていたAURAVEXではなく、追いついた別部隊の一人が部屋の奥へ下がった。
遥真は命令を待たず、壊れた壁のMAKIへ一発を入れる。
「岩手前、MAKI割った。紗月は壁の右、RENKAはまだ建物」
夕奈はAURAVEXの建物へ直進せず、西側の低い壁を使って岩場の左へ向かった。
先行していた紗月が壁の右から撃ち返した。MAKIは割れたまま、壁の左へ位置を変える。二人の射線が交差し、夕奈は狙っていた低い岩まで一度では届かなかった。
夕奈は西側の低い壁に身を寄せた。
「左を取ります。航平さん、そのまま二階を。ハルは――」
「右から行く」
遥真は夕奈の言葉を待たず、紗月が撃っていた壁の右へ走った。紗月の銃口が遥真へ向く。
建物一階からRENKAが出た。航平のLancer-56は二階を向いたままで、入口へ間に合わない。夕奈は左の岩を諦め、RENKAへScout-56を撃った。
RENKAは夕奈へ撃ち返すより先に、割れているMAKIの前へスモークを落とした。白煙の中へ入り、自分の体でMAKIの退路を作ろうとする。
「MAKI、煙の左です」
情報を出した航平が、そのまま入口へ走った。Lancer-56を近距離で撃ち、RENKAを建物内へ押し返す。
遥真は紗月を追わず、煙の左へ照準を変えた。MAKIが壁から出たところへ一発を当てる。
夕奈も低い壁の陰から出た。
Scout-56の一発が敵の体力に入った。
「そこです」
先に撃ったのは航平だった。入口から届いた一発でMAKIの足が止まり、遥真と夕奈の弾が続いた。
敵がダウンする。
二つ目のダウン。キルにはまだ変わっていない。
直後、壊れた壁の右にいた紗月が身を乗り出し、岩場へ向かう夕奈を撃つ。夕奈のシールドが割れ、体力まで削られた。
「夕奈、戻って」
遥真が撃ち返す。
航平も一階の敵を止めながら、夕奈の戻る道にスモークを追加した。
「左壁まで戻れます。こっちです」
夕奈は低い壁の裏へ滑り込んだ。紗月は倒れたMAKIを起こしには来なかった。RENKAと合流し、二人生存のまま北側へ向かう。
RENKAは一度、MAKIの方へ戻ろうとした。だが、航平が入口まで出ている。紗月が北側からRENKAの前へ撃ち、追撃路を切った。
RENKAはその射線を受け取るように建物を離れた。今度は紗月より前へ出て、二人で北側へ消える。倒れたMAKIとの距離だけが開いていった。
「追いません」
夕奈はシールドパックを使いながら言った。
「私たちも岩場へ入ります。後ろを迎えます」
「了解」
◇
NOVA-3は岩場へ入った直後、後方から来た部隊とぶつかった。
遥真が先頭の一人を割る。
「右、一人割った。奥に二人」
「倒したら、岩の北へ抜けます」
航平が左から来る敵を止め、遥真が割った一人をダウンさせる。夕奈が短く確定を取った。
2つ目のキル。
残り二人のうち、一人が投げ物を避けて岩の外へ出た。夕奈がMP9で削り、航平のCARがダウンを取る。夕奈が確定し、最後の一人は別方向へ逃げた。
3つ目のキル。
「北へ移ります」
三人は弾とシールドパックだけを拾い、すぐに岩場を離れた。
残り六部隊。キルログにAURAVEXの名前は出ない。部隊撃破の表示にも出ていない。紗月たちは二人で残っている。
五部隊。
北側から銃声が重なった。
キルログに、紗月とRENKAの名前が流れた。
置き去りにされたダウンが完全脱落となり、NOVA-3の4つ目のキルに変わった。
「AURAVEX、5位。5キルです」
航平が言う。9pt。総合100pt。
NOVA-3は現在4キルだった。
4位でも、3位でも届かない。
「勝ちに行きます」
夕奈は言った。
「目の前を見ます」
残り四部隊。別方向のキルログに、TIERAXの撃破が一つ増えた。
その直後、佐伯たち三人のプレイヤーIDが倒された側に続き、部隊撃破の表示が出る。4位で敗退。
ここまでのキルログで2キル。順位5ptと合わせて、総合106pt。
残り三部隊。NOVA-3は三人生存していた。だが、物資には余裕がない。
遥真のRaptor-5は残弾が少ない。航平のスモークは一つ。夕奈のシールドは、パックを使っても完全には戻らなかった。夕奈の移動ウルトだけは、使わずに残っている。
正面の高所に一部隊。右の車両群には、銃を構える二人と、車輪の裏を這う一人がいる。高所と車両群が撃ち合っている。
高所の部隊が有利だった。
待ちすぎれば、車両群を倒したあとも上を維持される。早く入れば、二部隊から撃たれる。
「高所、一人が前。残り二人は奥です」
遥真が報告する。
「車両側、立っている一人が割れています。もう一人も、車輪の裏の味方を起こしに行けてません」
航平が続けた。
高所の前へ出ていた敵が、車両側から撃ち返されて遮蔽へ下がる。
別の敵が回復に入った。
高所から小型のパルスセンサーが飛び、NOVA-3の低い遮蔽に刺さった。第一波が三人の輪郭を浮かべる。直後、高所の銃口が一斉にこちらへ向いた。
「センサー壊します」
航平が装置を撃ち抜く。第二波は来ない。敵の弾は、最初の走査で見えた遮蔽の左右に集中した。
「今は出ません。見えた場所を撃たせます」
夕奈は足を止めた。高所の弾が、最初の走査で露出した遮蔽の左右を削る。その間に、車両側の一人が撃ち返した。
回復中の一人は撃てず、前へ出た一人は遮蔽へ戻った。最後の一人も、車両側を向いている。
「右へ出ます。ハルは高所を止めて。航平さん、中央にスモーク。煙が広がったら、移動ウルトを合わせます」
「了解」
「撃つ」
遥真が高所へ射撃する。
弾を使い切らないよう、短く区切って撃つ。高所の敵が顔を出せなくなる。
航平の最後のスモークが、NOVA-3と車両群の間へ広がった。白煙が端まで届く前に、高所から投げ物が一つ転がってくる。
夕奈は予告範囲を見て移動ウルトを起動した。加速の光が三人の足元へ走ってから、声を出す。
「先に出ます」
「もう出てます」
航平は投擲動作を終えた分だけ半拍遅れた。遥真が高所への最後の弾を切り、航平の横へ下がる。白煙の外へ伸びた軌跡を、遅れて敵弾が追った。
だが、索敵の第二波を消し、遥真が高所を下げ、航平が車両側を煙で切った今、加速する三人へ照準を揃えられる敵はいない。
夕奈は中央の低い遮蔽まで走る。
弾が足元を削る。シールドが残りわずかになる。
「中央、入りました。ハル、来られますか」
「行ける」
「俺も移ります。後ろは切れてます」
三人が同じ遮蔽へ入った。
高所の部隊と車両群が、もう一度撃ち合う。
ダウン表示が一つ出た。
車両側の一人が、高所の敵を倒した。
高所の奥から弾が返る。撃ち終えた車両側の一人も、車輪の手前でダウンした。
直後、遥真が別の一人を割る。
「高所右、割った。行ける」
「高所を先に落とします」
夕奈がScout-56で、回復に入ろうとした敵を止める。
遥真が撃ち抜いた。
高所、二人目のダウン。
高所に残った一人が、岩の裏から逃げようとする。
航平が進路へ射撃した。
「右へ逃がしません」
敵が足を止める。
夕奈はMP9に持ち替え、坂を上がった。
敵の弾が夕奈の体力を削る。
シールド表示が赤く点滅する。夕奈は照準を外さなかった。
敵が倒れる。
部隊撃破。先ほどのダウンも完全脱落に変わり、5つ目と6つ目のキルが続いた。
「車両側、立っているのは最後一人です。二人はダウン中」
スモークが薄くなり始めている。
最後の敵が車両の陰から出た。
夕奈を狙っている。
遥真には撃てる角度があった。夕奈が車両の左へ踏み出そうとすると、その足元へ遥真のピンが刺さった。
「夕奈、出るな。もうシールドない」
「でも、相手は私を見ています」
「見せたままでいい」
遥真は遮蔽の端に片足を残し、自分の射線を切った。敵から見れば、夕奈しか残っていないように見える。
航平が車両の右へ危険ピンを置く。だが、言葉は逆だった。
「右、俺が行きます。ハルさんは左へ。夕奈さん、二人が出るまでそこにいてください」
「航平さんが行くんですか」
「最後くらい、数える側をやめます」
航平はLancer-56を持ったまま、薄くなった煙の右へ走った。敵が足音に振り向く。夕奈はその一瞬だけ遮蔽から上体を出し、Scout-56を撃った。
一発目が肩へ入り、敵が夕奈へ戻る。二発目でシールドが割れた。
「今」
声を出したのは遥真だった。車両の左からRaptor-5が伸び、同時に航平のLancer-56が右から入る。
敵は夕奈、遥真、航平のどこへも照準を戻し切れなかった。
最後の敵が倒れる。
7つ目のキル。
画面中央に文字が表示された。
CHAMPION
夕奈は、コントローラーを握ったまま、その文字を見ていた。
最終試合を、三人で勝った。けれど、代表になったかどうかは、まだ確定していない。
通話の中で、航平が息を整える音が聞こえた。
「1位、7キル。19ptです」
遥真が言う。
「届いた?」
「計算上は。でも、公式集計を待ちましょう」
夕奈は画面から目を離せなかった。
会場の大型モニターには、集計中の表示が続いている。歓声が聞こえている。誰へ向けられたものなのか、夕奈には分からなかった。
やがて画面が切り替わる。最終総合順位。1位 TIERAX 106pt。
2位 NOVA-3 105pt。3位 AURAVEX 100pt。NOVA-3の横に、出場権獲得を示す印がついた。
航平が椅子の背に体を預けた。
「……2位です」
遥真は順位表を見たまま言う。
「世界、行ける」
夕奈の喉が閉じた。NOVA-3が生まれた春、会社の会議室で初めて見た名前が、世界大会への出場枠に並んでいる。
夕奈は深く息を吸った。
「行けます」
「三人で、世界へ行けます」
◇
選手席を出ると、廊下の先にAURAVEXの三人がいた。
紗月は壁際に立ち、総合順位が表示された端末を持っている。画面の縁をつかむ指先が白く、手のひらにはケースの跡が赤く残っていた。
夕奈は足を止めた。何を言えばいいのか分からなかった。お疲れさまでしたでは足りない。ありがとうございましたでも、違う気がした。
紗月の方から、夕奈へ歩いてきた。
「チャンピオン、見てた」
「はい」
「最後まで三人生きてたね」
夕奈は端末の赤い5ptを見た。AURAVEXに初めて勝った夜、紗月から届いた言葉を思い出す。
「私たちは、5位まで残ったんだけどね」
紗月は、五、という音で奥歯を噛むように口を閉じた。
「はい。最後まで、落ちてくれませんでした」
「落ちるのを待たなかったんでしょ」
夕奈は答えた。
「待ちませんでした。自分たちで取りました」
紗月は端末を下ろし、夕奈の後ろにいる遥真と航平を見た。
「行ってきなさい」
紗月は笑わずに言った。
「今回は、あなたたちが勝ったんだから」
夕奈が振り返ると、遥真は隣へ一歩寄り、航平も軽口を挟まずに立っていた。
夕奈は紗月へ向き直った。
「はい」
「三人で行ってきます」
紗月は端末を抱え直し、夕奈をまっすぐ見た。
「次は、取り返すから」
MAKIが紗月のデバイスケースを受け取り、RENKAが廊下の扉を開けた。紗月が先に歩き出した。




