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第71話 同じ場所を取りに行く

挿絵(By みてみん)

第7試合のロビーが開くと、遥真の赤いピンがマップの中央北東へ刺さった。


二階建ての管理棟。


夕奈が前の試合で候補に残したのは、その南にある資材置き場だった。管理棟は周囲よりわずかに高く、二階の窓から北側の道路と西の搬送路を見渡せる。欲しくないはずがない。だからこそ、先に入れる保証もなかった。


「ハル。降下場所を変えるんですか」


「ここにKYOが来る」


「KYOを追う試合ではありません」


「追ってない。同じ場所が見えただけ」


航平が参加チームの降下地点を確かめ、二人の間へ青いピンを置いた。管理棟ではなく、南西の高架下だった。


「TIERAXも来られます。でも、最初の円が反対なら、両方とも来ないかもしれません」


遥真は赤いピンを消さなかった。夕奈も、自分の資材置き場へ黄色を残した。


第6試合を終えた時点で、NOVA-3は48pt。2位のAURAVEXとは11pt差がある。


残り四試合。代表圏に届くには、誰かが失敗するのを待つだけでは足りない。だからといって、TIERAXの名前へ向かって降りれば、初戦の焦りと変わらない。


「南の整備施設へ降ります」


夕奈は三人のピンから離れた場所を選んだ。


遥真が顔を上げる。


「管理棟は」


「円と周りを見てからです。先に約束しません」


「消さなくていい?」


「目印としては」


航平の青いピンだけが先に消えた。


「俺は高架下を覚えておきます。二人の印は、必要になったときに見ます」


三人の見ている場所は揃わないまま、試合開始の音が鳴った。


試合開始のカウントがゼロになる。


二十チームを乗せた輸送機が、湾岸貨物区の上空へ進み始めた。



NOVA-3は南側の整備施設へ降りた。


三人は武器と防具を揃えた。回復は十分ではないが、移動を遅らせるほど不足してはいない。最初の収縮位置が表示された。


白い円は、予想どおり北東へ寄っている。管理棟は円の中央に近かった。


「行けます」


夕奈は建物の外へ出た。


高架下を抜け、資材置き場の細い通路を北へ進む。正面の道路では二部隊が撃ち合っていたが、管理棟へ向かう経路からは外れている。


銃声に釣られて戦えば、建物は取れない。


三人は足を止めなかった。


管理棟まで二百メートルを切ったところで、北側から銃声が響いた。


キルログに、TIERAXの名前が二つ続けて流れる。


「北の部隊、TIERAXです。降下位置からそのまま南へ来ています」


航平が道路脇の監視塔へ上がり、北から西へ照準を振った。


「三人ともいます。向こうの方が近い」


夕奈にも、北側の倉庫群から出てくる三つの影が見えた。


TIERAXは、すでに北側の部隊との戦闘を切り上げている。デスボを長く見なかったのだろう。三人の動きに遅れがなく、そのまま管理棟へ向かっている。


正面入口までの距離は、向こうの方が短い。


こちらがそのまま走れば、先に建物へ入られる。入口を見られた状態で近づけば、撃ち合う前から不利になる。


「西へ回りますか」


航平が聞いた。西側の高架を大きく回れば、TIERAXとの接触は避けられる。ただし、管理棟には入れない。


夕奈はマップを見た。管理棟の周辺には三つの入口がある。北側の正面入口。西側の大きな搬入口。そして南側、外階段の陰に隠れた小さなサービス口。


TIERAXは北から来ている。NOVA-3は南西側。同じ入口へ向かえば負ける。


それなら、向かう入口を変えればいい。


「回りません。ハル、西の資材から窓を見られますか」


「見られる」


「建物には入らなくていいです。西の窓だけ使わせないでください」


「分かった」


遥真が進路を西へ変えた。


「航平さん、北と西の間の道路にスモークをお願いします。南側が見えないように長く置いてください」


「二つ使います。俺は夕奈さんと入りますか」


「はい。サービス口から二人で入ります。ハルは最後に合流してください」


夕奈が指示を終えるより早く、遥真はブレイクショットを起動した。Raptor-5の次の数発だけが、敵のシールドに強く通る。


西側の窓へ入ろうとしたのは、前衛KYOを示す識別帯の選手だった。青い装甲を大きく削られ、遮蔽へ戻る。


「西、KYO下げた。もう一人――南見た」


遥真の射撃が早かったせいで、TIERAXの二人目がサービス口側へ照準を振った。KYOは窓へ入り直さず正面入口へ寄ったが、残る二人は同じ方向へは動いていない。


「スモーク入れます」


航平の一投目は、南を見た敵とサービス口の間へ落ちた。予定より短い。二投目で北西の道路まで白くつないだ。


「一本目、短いです」


「見れば分かります。二本目も、南端までは届いてません」


白煙は一本の壁にはならず、濃い場所と薄い場所が斜めに重なっていた。北からは夕奈たちが見えにくい代わりに、夕奈からもTIERAXの足が消える。計画した線ではなく、航平が落とした二つの白い塊の隙間を使うしかなかった。


北側から見れば、遥真が西にいることは分かる。残り二人がどこへ動いたかまでは見えない。


「南、まだ一人見てます」


航平の報告を聞きながら、夕奈は先に煙の端を横切った。一発が背中に入り、シールドが一目盛り減る。


「見られました。そのまま入ります」


航平も南へ角度を変えた。


「俺は一度、止まります」


煙の薄い部分へTIERAXの弾が続いていた。航平が夕奈を追えば、二人とも同じ線を通る。航平は搬入口側へ二歩ずれ、わざと一発返した。北の銃口がそちらへ向く。


「航平さん?」


「同じ入口へは行きません。中で合流します」


夕奈が決めた二人での侵入は、入口へ届く前に崩れた。


サービス口は建物の外階段に隠れ、北からは直接見えない。夕奈が扉を開け、一階の短い廊下へ滑り込む。


敵はいない。


「一階クリア。航平さん、搬入口をお願いします」


「もう搬入口側です。入るまで見ます」


航平が西側の通路に残る。夕奈は階段を駆け上がった。二階へ出る直前、北側の正面入口が開く音がした。TIERAXが到着した。


「入られます」


「二階、取ります」


夕奈は階段を上がり切り、北側の吹き抜けへScout-56を構えた。


正面入口から一人が建物へ入ろうとする。夕奈はScout-56の一発目を当て、二発目にクラックチャージを乗せた。敷居の内側で小さな爆発が起き、壁へ寄ろうとした相手を扉の外へ押し戻す。反撃の弾が階段横の壁に当たり、白い粉が散った。


「北、一人。入ってません」


「西から寄る」


遥真の声が近づいた。


外からもう一度射撃が入り、北側の敵が入口から離れる。


数秒後、遥真がサービス口から建物へ入った。夕奈のシールドは欠け、航平は侵入のためにスモークを二つ使っていた。それでも三人は揃った。


航平は搬入口から入り、予定と違う側にいた。遥真も、夕奈が先に入ってからの合流である。三人で同じ道を通せたわけではない。


夕奈は二階の北階段。航平は一階の搬入口。遥真は西側の窓と、必要ならどちらにも寄れる中央。


TIERAXが正面入口へ着いたときには、NOVA-3は建物内で三つの入口を見られる形を作っていた。


北側から投げ物が入る。


「二階、グレネード」


航平の声と同時に、夕奈は隣の部屋へ下がった。爆発が階段横で弾け、シールドを少し削られる。


「パック使います。二秒半」


「北、見る」


遥真が夕奈の代わりに階段へ射線を通した。


TIERAXはすぐには入ってこない。


窓と入口へ短い射撃が続く。NOVA-3の配置を確認しているのだろう。


夕奈のシールドが戻る。


「回復終わりました」


北側の足音が、一度近づいた。


遥真が撃つ。


「一人、七十。入れない」


その報告のあと、足音が離れ始めた。


「東へ動いてます」


航平が一階の窓から外を見る。


「三人とも。高架側へ向かいました」


最初に東へ出たのはKYOだった。会場入口で言ったことと反対に、撃ち合いへ残らず、最初に建物を捨てた。


代わって北側の入口に残ったのはTOMAだった。管理棟の二階へ長い連射を入れ、KYOと佐伯が車両まで離れる時間を作る。弾倉が空になる寸前まで撃ったせいで、最後に走り出したTOMAの背中へ夕奈の一発が当たった。


「割れてはいません」


航平が見えた損傷を告げる。その間にKYOが車両から撃ち返した。戻る二人と待つ一人は何度も入れ替わり、三人の距離が東側でようやく縮まった。


今朝の短いやり取りだけでは、誰が誰を置いていくのか、夕奈には分からなかった。


夕奈は階段を一段下り、すぐに戻った。


追えば背中を撃てるかもしれない。TIERAXの一人は遥真に大きく削られている。


外へ追えば、取ったばかりの管理棟が空く。銃声に寄った別部隊の足音も、北側へ近づいていた。


「追いません。入口へ戻ってください」


「了解です」


遥真も窓から離れた。


TIERAXは建物に固執せず、東へ離れた。夕奈は管理棟の窓から、三つの背中が次の遮蔽へ移るのを見た。


取った、という実感はあった。ただし、TIERAXを倒したわけではない。向こうは二人を倒した分の物資を持ち、こちらは煙を二つ使い、夕奈の回復も一つ減っている。強い建物に入った時点の余裕は、TIERAXの方に残っているかもしれなかった。



夕奈は二階の窓から周囲へ視線を移した。取った場所を、次へつなげなければならない。


「次の収縮、南西か西が濃いです」


「西に一部隊。北東にもいます」


遥真が別の窓から報告する。


「背後は空いてます。スモークは残り三つ。パックは俺が六、夕奈さん三、ハルさん三です」


航平が物資を数えた。


「ハル、パック一つ渡します」


「航平も必要だろ」


「俺はフルが一つあります。そっちは前で削られますから」


床を滑ってきたシールドパックを、遥真が拾う。


ラウンド3の収縮が始まった。


管理棟へ近づいた部隊が西側の車両裏へ入る。遥真が窓から撃ち、先頭のシールドを削った。


「六十。もう一人、後ろ」


「倒し切らなくていいです。西の窓から離してください」


「分かった」


遥真は同じ敵を追わず、隣の車両に照準を移した。弾を受けた二人が、それぞれ別の遮蔽へ下がる。


航平は北側の足音を確認し続けている。三人の誰も、目の前の一人だけを見ていなかった。次の収縮が表示される。


白い円は管理棟から西へ外れた。


「出ます」


夕奈はすぐに言った。


航平はマップ上の収縮時計を開いた。


「まだ一分あります」


「管理棟を取りに来る部隊が増える前に、車両群へ移ります。近くの敵は、追えない状態を作るだけでいいです」


「西の二人、まだ回復中」


遥真が言う。


「ハルが右の車両を止めてください。私が左を割ります。航平さんは移動先へスモークを一つ」


「了解です」


夕奈はScout-56で左側の敵を撃った。


一発目がシールドに入り、二発目で青い光が砕ける。敵は車体の裏へ下がった。


「左、割りました」


「右も下げた」


「スモーク入れます」


白煙が西側の道路へ広がる。


「今、出ます」


三人は管理棟を離れた。


夕奈と航平が先にスモークへ入り、遥真が最後まで窓から射線を残す。二人が道路を渡り切ると、遥真も二階から飛び降りた。


スモークを抜けたところで、割った敵が車両裏から顔を出した。逃げるためではない。管理棟の窓へ銃口を向け、三人のすぐ横で撃ち始めた。


「左、近――」


夕奈が言い切る前に、その敵の流れ弾でシールドを削られた。MP9へ持ち替えて撃ち返す。遥真の弾も横から入り、敵がダウンした。


「管理棟、もう入られてます」


航平の声と同時に、背後の二階窓から射撃が来た。倒れた敵を確定しようとした夕奈は車体の外へ半歩出ており、もう一度シールドを失う。


「夕奈、先に中」


遥真に押し戻され、夕奈は車両の陰でフルシールドパックを使った。航平のスモークが車体と管理棟の間を切る。予定していた奥の車両までは、煙が届かない。


三人は一つ手前の車両裏へ入った。ダウンした敵は味方の方へ這ったが、収縮に触れたところで撃破表示へ変わった。1キル。物資は敵の側に残り、夕奈のフルシールドパックと航平のスモークだけが減っていた。



残り五部隊。


NOVA-3は三人生存で、1キル。


車両群の北側と西側で、二部隊がぶつかった。左の一人が味方から離れている。航平がその識別帯を読み上げかけたとき、右側から投げられたグレネードが車体の下を跳ね、NOVA-3の足元まで転がった。


「出ます」


誰が狙われたかを確かめる前に、夕奈は車両を離れた。爆発で戻り道が塞がり、三人は中央の大型車両へ向かうしかなくなる。


先に飛び出した遥真の正面へ、孤立していた敵が現れた。互いに予定していない距離だった。遥真がシールドを削り、夕奈も走りながら撃つ。敵は味方側へ戻り切れず、車輪の横でダウンした。


その銃声を聞いて、右側の別部隊から一人が詰めてくる。航平のCARが先に鳴った。


「右、別タグです」


夕奈は最初の敵の味方だと思って照準を置いていた。向きを直す一拍で、航平のシールドが半分まで減る。


「こっち」


遥真の声を聞いて照準を合わせ直し、夕奈がMP9を重ねた。二人目がダウンする。


航平は中央へスモークを投げたが、車体の手前で広がった。奥までは隠れない。遥真が一発もらい、シールドパックを使いながら最後に大型車両へ滑り込む。


残った敵同士は、NOVA-3を挟むより先に倒れた二人を巡って撃ち合いを再開した。二つのダウンがそれぞれ確定に変わり、NOVA-3の表示は3キルになった。キルログには、別々の部隊タグが一つずつ残った。


大型車両の西側には、まだ誰も入っていなかった。



残り三部隊。


NOVA-3は低い壁の裏へ入り、最後の二部隊は北側の倉庫と東の斜面で撃ち合っていた。


遥真には撃てる敵がいる。


「東、一人見える」


「まだです」


夕奈は銃声を数えた。


片方が撃つ。


撃ち返される。


倉庫側が前へ出る。


「倉庫、前へ出ます。斜面は――」


航平が最後まで言う前に、遥真が立った。


「今行く」


「まだダウンは出てません」


「次で出る」


夕奈は止める代わりに、遥真が見ていた倉庫の角へ照準を置いた。短い連射のあと、そこから斜面へ弾が通る。キルログにダウン表示が出た。


遥真はもう低い壁を越えていた。


「右から入る。二人、来て」


指示ではなく、置いていかれないための声だった。夕奈が続く。航平は二人と同じ右へ行かず、壁の切れ目から中央へ出た。


「俺は左を消します。右だけ見てください」


斜面側には二人が残っている。手前の一人が遥真へ向く前に、航平のLancer-56が岩の左端を削った。逃げ道を変えた敵を、遥真が遮蔽へ戻る直前に倒す。


最後の一人が奥の岩から姿を見せた。夕奈は正面から撃たず、さらに右へ走った。敵の銃口が遥真と航平の間で迷う。


「こっちです」


夕奈のScout-56が肩に入り、シールドが割れる。航平が中央から重ねて落とした。


斜面側の部隊が消える。


残った倉庫側の部隊が、スモークの向こうからこちらへ向きを変えた。


画面上の部隊数が二つになる。


NOVA-3と、残り一部隊。


「正面、二人。右が先に来ます」


航平は言うと同時に中央へ出た。一人はスモークの右から、もう一人は倉庫の壁沿いから来る。


「航平さん、そこは二人から見えます」


「だから二人とも、俺を見るはずです」


右の敵が航平へ向く。夕奈はその敵へScout-56を入れ、足を止めた。遥真は右を倒し切らず、倉庫沿いの敵へ走る。


「左、俺が行く」


航平の弾が倉庫の壁を削ると、左の敵は銃口を航平へ向けたまま裏へ逃げた。


逃げ道は一つしかない。


夕奈はそこに先に照準を置いた。


「左、出ます」


敵が姿を見せる。


夕奈が撃ち、航平が合わせた。


一人がダウンする。


「最後、右」


夕奈が今度は先に声を出した。遥真は倉庫裏から折り返し、航平も中央からそのまま走る。三人が別の角度から、同じ車両へ近づいた。


最後の敵が車両の陰から撃ち返す。


遥真のシールドが割れる。


「ハル、下がれますか」


「戻れる。まだ撃てる」


夕奈は遥真の退路を空けようと半歩引いた。


「違う。下がるって意味じゃない」


言い直す間に敵の弾が中央へ抜け、航平のシールドを一段削った。


「夕奈さん、車両の左へ。俺はここで撃たれます」


航平が退かずに言った。夕奈はその言葉を決定として受け取り、車両の左へ滑る。敵がまだ航平を狙っているうちに上体を出した。


敵の照準が夕奈へ向く。


その一瞬で、遥真が右から撃った。


航平の弾も中央から重なる。


敵のシールドが割れ、体力が削り切られた。


画面中央を、勝利の表示が覆った。


CHAMPION


夕奈は、止めていた息を吐いた。隣の遥真が拳を上げている。コントローラーを膝へ下ろし、その拳へ自分の拳を当てた。航平も伸び上がり、二人の手に触れる。


防音席の外側で誰かが立ち上がったのが、透明な壁越しに見える。歓声は聞こえない。観客が動くたび、会場の空気が揺れた。


画面には7キルと表示されていた。


順位12pt。


キル7pt。


獲得19pt。総合は67ptまで伸びた。


「4位です」


航平が順位表を見た。1位はTIERAX、82pt。2位はAURAVEX、73pt。


管理棟を取れなかったTIERAXも、この試合で8ptを持ち帰っていた。試合履歴の全体マップでは、KYOが撃ち合いに戻らず、TOMAが最後に離れたあとも、三人の軌跡は東側へ続いている。


2位のAURAVEXとの差は6ptになっている。代表圏外のままだが、一試合で追える距離まで近づいた。


「夕奈」


遥真に呼ばれ、夕奈は顔を上げた。


遥真は試合履歴のマップを開き、管理棟へ入った場面で映像を止めた。北側から来たTIERAXと、南側から回ったNOVA-3の軌跡が、建物の縁を挟んですれ違っている。


「KYO、先にいなくなってる」


遥真はKYOの印を東へ追い、先へ送った映像をまた管理棟へ戻した。撃ち合う機会のなかった相手を、まだ探している。


「次は撃ち合いたいんですか。私は、また先に管理棟へ入りたいです」


夕奈が言うと、遥真はマップを少し巻き戻した。煙の中で、夕奈はサービス口へ、航平は搬入口へ、遥真は西側へ分かれている。


「ここ、三人じゃない」


「俺の一本目が短かったですからね」


航平が未開封の水を机の上へ転がす。遥真は受け取ったが、まだ開けなかった。


「中の三か所を押さえられたので、TIERAXが入れませんでした」


夕奈は西の道路を指した。ここへ早く出たあとに1キルを取り、最後の車両まで進んだ。映像の先には、聞き違えた『戻れる』もある。その時刻をメモして、遥真の手元へ端末を戻す。


遥真は再生を進めた。車両群で航平が先に撃ち、最後の壁では自分が先に越えている。


「俺、勝手に行ってる」


「今日は二回ですね」


「止めなかった」


「最後は、航平さんが私を動かしてくれました」


夕奈が答えると、航平は自分の名を聞き返しかけた。遥真が「左へ、ってやつ」と先に言い、リプレイを閉じる。三人で囲んだ車両が消え、水のボトルが持ち上がった。


航平がキャップを開けようとして、遥真の手から水を取り返す。代わりに一口飲んでから返した。


「俺のです」


「開けないからです」


遥真は取り返した水を半分近く一度に飲んだ。飲み終えてから、航平が口をつけた場所を見た。


「今さらですか」


航平に言われ、遥真は返事をせず、ボトルの反対側からもう一口飲んだ。夕奈はそこでようやく背もたれへ体を預けた。




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