↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京ランクマッチ ー三人で挑むeスポーツ青春譚ー  作者: Aramaki_mai
第9章 終わると決まったチーム
PR
65/95

第65話 選ばなかった方

挿絵(By みてみん)

講義が終わっても、沢渡夕奈はノートパソコンを閉じられなかった。大学から、卒業後に何をしたいかと聞かれている。


今の仕事についてなら書ける。尋ねられているのは、その先だった。


DWCが終われば、NOVA-3のデルタフィールド専任活動も一区切りになる。


アークラインの立ち上げメンバー候補に入っていることも、まだ決まった進路ではなかった。選考から外れる可能性もあれば、選ばれたあとで自分が断る可能性もある。


答えを入力しないまま、画面の問いを見つめていた。


「沢渡さん、それ来た?」


隣から声をかけられた。相沢千紘も、スマートフォンで同じ画面を開いている。


「今、見てたところ」


「私、とりあえず一般企業にした。映像か配信関係には行きたいけど、職種まではまだ決められないし」


「もう出したの?」


「第一希望だけね。あとから変えていいって書いてあるし」


千紘はそう言いながら、鞄に充電器をしまった。


「沢渡さんは、ゲーム会社?」


「まだ決めてない」


「そうだよね。あ、説明会の追加資料、送ったの見た?」


「通知は見た。ありがとう」


「座談会でもらった資料も入ってる。会社ごとに分けたから、気になるところだけでも見てみて」


千紘は、夕奈が合同説明会へ行けなかったことを大げさには扱わなかった。


仕事と重なったなら仕方がない。資料があるから送る。ただそれだけのこととして話している。


「今度、お昼でも食べながら見る?」


「うん。お願い」


「私も一人で読んでると、全部いい会社に見えてくるから。沢渡さん、変なところ見つけるの得意そうだし」


「どういう意味?」


「グループ課題で、みんなが大丈夫って言った映像の音ずれを最後に見つけたでしょ」


「ずれてたから」


「そういうところ」


千紘が笑い、次の講義へ向かうために席を立った。夕奈はその背中を見送り、ノートパソコンに残していた高架下の地図へ戻った。スクリムの録画には、まだ見直したい場面が二つある。千紘から届いた通知は、画面の隅に残った。



夜、練習開始まで一時間を切ったところで、母から電話が来た。夕奈は机に大学の資料を広げたまま、スマートフォンを耳に当てた。


「もしもし」


『夕奈、ご飯食べた?』


「今から。練習の前に食べる」


『今からって、またパンだけとか違うやろな』


テーブルの端には、スーパーで買ってきた弁当が置いてある。


「今日はお弁当ある」


『野菜は?』


「入ってる」


『端にちょっと緑のやつが入っとるだけで、野菜あるって言うてへん?』


「見てないのに決めつけんといて」


夕奈が返すと、母は電話の向こうで笑った。食事は取っているか。朝の講義に遅れていないか。提出課題は間に合っているか。


いつもの確認が一通り終わったあと、母が尋ねた。


『三年になったら、就職の話も増えるんやろ』


「今日、大学から進路希望調査が来た」


『何て書いたん?』


「まだ出してない」


『何で?』


夕奈は、閉じたノートパソコンを見た。


「卒業後に何をするか、まだ決められなくて」


『今の会社で、そのまま働くんと違うん?』


「社員じゃないから。今の契約が卒業後まで続くって決まってない」


母の返事が途切れた。


『この前言うてた大会は、どうなっとるん?』


「DWC?」


『世界大会につながるやつ』


「国内予選に出る準備をしてる。明日、正式に出場するか最終確認がある」


『夕奈は出るつもりなん?』


「そのつもり」


答えたあと、夕奈は合同説明会と強化スクリムが同じ日だったことを話した。母は黙って最後まで聞いた。


『会社に、スクリム出ろって言われたん?』


「言われてない。大学を優先してもいいって言われた」


『二人に頼まれたん?』


「航平さんは、代わりの選手を相談する案も出してくれた」


『ほんなら、夕奈が選んだんやね』


「うん」


電話の向こうで食器の触れる音がした。


『行って、どうやった?』


「予選で使えるかもしれない道を見つけた。上位のチームが、どれくらい早く動くかも分かった」


『行ってよかった?』


夕奈は、すぐに「よかった」と言えなかった。


「よかったと思う」


『思う、なんや』


「説明会にも行きたかったから」


『そら、行きたかったやろ』


母は責める声ではなかった。


『自分で選んだ道でも、選ばんかった方は気になるで。気になったらあかん、とは誰も言うてへん』


「でも、説明会の資料を見たら、スクリムを選んだことまで迷いそうで」


『迷ったらええやん。見んかったことにしても、なくならへんで』


「お母さんも、そういうことある?」


『あるに決まっとるやん。選ばんかった方がどうなったかなんて、誰にも分からへんし』


夕奈は、未読のまま閉じた千紘の資料を見た。


「会社の次の話は、まだ詳しく言えない」


『仕事やったら、言えんこともあるやろ。話せるようになったら話したらええ』


『今聞いても、うちにはゲームの名前ばっかり増えて分からんし』


「デルタフィールドは覚えた?」


『それは覚えたで』


「三年目でやっとやけど」


『毎年、新しい言葉を増やす方が悪い』


夕奈は声を漏らして笑った。航平には、守秘義務を理由にして、話せるはずの「嬉しかった」まで黙った。母には、そこまで話していない。


母は少し間を置いた。


『それで、夕奈は大会に出たいん?』


「出たい」


夕奈は今度は待たずに答えた。


「この三人で、勝ちたい」


『ほんなら、それが今、夕奈が自分で選んだ道なんやね』


「うん」


『負けたときに、会社に言われたからとか、二人のためやったからとか言うたらあかんで』


「言わない」


『大会に出ることには、まだ賛成したわけちゃうで』


「分かってる」


『でも、自分で決めたことなら、ちゃんとやり』


「うん」


『あと、弁当は冷める前に食べ』


「今から食べる」


通話を切る直前、夕奈は小さく「ありがとう」と言った。母は聞き返さず、『ほな、またな』と答えた。



夕奈は弁当を食べ終えると、千紘から届いた資料を開いた。ゲームを作る仕事、大会を動かす仕事、配信を届ける仕事。知らない名前の中に、続きを読みたいものが二つあった。そこに印をつけてから、画面を閉じた。


練習ロビーへ入ると、遥真は射撃場で動く標的を追い、航平は高架下の経路をマップに引き直していた。


「明日の確認、私は出ると答えます」


夕奈が言うと、遥真は標的を撃ったまま「分かった」と返した。出るとも、出ないとも言わない。


航平は線を引く手を止めた。


「俺は、まだ決めきれてません」


「はい」


「夕奈さんと同じ答えじゃなくても?」


「同じでなくていいです」


夕奈は自分の準備完了を押した。


「私は出たいです。この三人で、勝ちたいから」


航平は高架下に引いた線を一本消し、別の出口へ引き直した。


「明日、自分で答えます。その前に、この道をもう一回試しましょう」


「行ける」


遥真が射撃場から戻り、二つ目の準備完了を押した。航平の印も点き、三人は高架下を選んでマッチへ入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。