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第56話 俺だけの射線じゃない

挿絵(By みてみん)

TIERAXとの再スクリムが決まったのは、中華料理店へ行った翌日のことだった。


佐伯玲司から遥真へ届いた返事は、短かった。


『分かった。今の三人で来い』


遥真がその画面を三人のチャットへ送ってきたとき、夕奈は大学の講義室にいた。


教壇では次回課題の説明が続いている。ノートパソコンの画面には提出期限が表示されていたが、夕奈の目は伏せたスマートフォンに何度も戻った。


今の三人で来い。遥真が約束したのは、次のスクリムをNOVA-3で戦うことまでだ。残るとも、TIERAXを断るとも言っていない。


夕奈はスマートフォンを鞄にしまい、課題欄の一行目を書こうとした。教授はもう、提出形式の説明へ進んでいた。


今夜になれば、また三つの名前が同じ画面に並ぶ。



スクリム開始十五分前。夕奈が通話へ入ると、遥真と航平はすでに接続していた。


「お疲れさまです」


「お疲れさまです。大学の課題は終わりましたか」


「明日の分までは終わらせました」


「それなら安心して五試合負けられますね」


「勝つ前提で話してください」


夕奈が返すと、航平は小さく笑った。遥真は二人の会話に入らず、マウスの感度確認を繰り返している。


航平が参加チーム一覧を開く。二十チームの中に、NOVA-3とTIERAXの名前がある。


「今日の試合で、返事を決めますか」


航平はNOVA-3とTIERAXの名前を画面に残したまま、遥真へ尋ねた。


「決める」


遥真は答えた。夕奈の指に力が入る。


「なら、TIERAXを倒すことだけは考えません」


航平が続ける。


「五試合を通して、俺たちの判断を崩さない。前回より速く動く。その上で、どっちで戦いたいか決めてください」


「分かった」


遥真は感度確認を終え、準備完了を押した。夕奈も返事をする。


「私も、試合だけを見ます」


夕奈は参加一覧のTIERAXを閉じ、マップを開いた。HALの最初の移動先へピンを置く。


開始時刻になり、画面が切り替わった。一試合目。NOVA-3は湾岸貨物区の北側へ降り、初動の被りを避けて移動を始めた。


中盤、キルログにTIERAXの名前が二つ続けて流れ、部隊撃破の表示が出た。数秒後、航平が北東の道路にTIERAX共通の競技スキンを三つ見つける。佐伯たちはすでに戦闘場所を離れ、次の建物へ向かっていた。


「もう移動してます」


航平が言った。


NOVA-3も遅くはない。夕奈が周辺部隊を確認し、航平が退路を作り、遥真が最後の射線を切って合流する。


それでも目的地へ着く頃には、東の窓から、TIERAXの三人がさらに一つ先の建物へ入るのが見えた。


一試合目は、NOVA-3が七位。TIERAXが二位。


「俺たちは、戦闘が終わってから移動を始めてるように見えます」


試合間の短い時間に、航平が言った。


「TIERAXは、敵を落とす人、物資を取る人、次の場所を見る人が同時に動いてるように見える。でも、配信外の声までは分かりません」


「次は、重ねられるところを探します」


夕奈が答える。


「ハルが撃っている間に、私たちが先へ動けるなら」


「戻る場所は?」


遥真が尋ねた。


「撃つ前に決めます」


「分かった」


二試合目。中盤、NOVA-3は工業区の高架下でTIERAXと接触した。前回、夕奈が判断を遅らせた場所に近かった。


「正面、TIERAX。右の一人だけ離れてます」


航平が中央の遮蔽へ入りながら報告する。


遥真がRaptor-5を撃った。


右の支柱から顔を出していた敵のシールドが割れる。


「右、割った。支柱を取る」


夕奈は周囲を確認した。


航平のカバーは届く。夕奈が左を止めれば、遥真は一つ前の支柱まで出られる。背後の部隊は、まだ遠い。


「ハル、右へ出てください。航平さんは中央。私は左を見ます」


「了解」


今度は遅れなかった。


遥真が右へ出る。夕奈と航平が正面の二人を止め、遥真だけに射線を集めさせない。


削られた敵は、中央の味方へ向かって逃げた。


「中央へ逃げた」


遥真が言う。


だが、そこまで追えば中央からのカバーが薄くなる。敵を倒しても、元の位置へ戻る間に撃たれる。


「そこで止めて。右を押さえたまま、中央を取ります」


「分かった」


遥真は敵を追わず、右の支柱から中央に射線を通した。


敵が顔を出せない間に、夕奈と航平が一つ前の遮蔽へ入る。


「ハル、戻ってください」


「戻る」


三人が揃った直後、背後の部隊が近づいてきた。TIERAXの中央二人はNOVA-3ではなく、その足音へ一度向きを変える。


NOVA-3は北側へ抜け、挟まれる前に戦闘を離れた。


「今の、通したって言っていいんですかね」


航平が北へ走りながら言う。


「向こうが後ろ見た」


遥真が答えた。夕奈は結果画面まで返事を決められなかった。TIERAXから一人も倒していない。それでも前回は止められた高架下を、三人で通り抜けていた。二試合目は、NOVA-3が五位。TIERAXが一位だった。


三試合目、遥真は5キルを取った。


遠距離で一人を割り、移動中の部隊から一人を落とし、終盤前にもキルログにHALの名前を残した。TIERAXの選手と撃ち合っても、個人の火力では負けていなかった。


しかし最後の敵を倒し切ろうとして、高所に残る時間が長くなった。


移動開始が遅れ、NOVA-3は東から来た二部隊に挟まれて十位に終わった。


「俺が残りすぎた」


結果画面が出ると、遥真が言った。


「倒せそうだったので、私も待ちました」


「俺が撃ってる間でも、次の場所を言ってほしい」


遥真は自分のキル数を見なかった。


「俺が残るか戻るか、先に決め切れないときもある。二人が動いたら、それを見て戻る」


四試合目。


NOVA-3はラウンド3の収縮前に、中央地区の立体駐車場へ入った。


一階には別部隊がいる。


屋上側からはTIERAXが近づいていた。


航平が上階の梁へパルスセンサーを撃ち込んだ。敵側にも聞こえる警告音のあと、最初の走査で三つの輪郭が短く浮かぶ。


「上、TIERAXです。西階段に二人。もう一人は屋上の北側」


航平が報告した直後、屋上から一発だけ返ってきた。センサーが火花を散らし、二度目の走査を出す前に消える。


「ここからは動きます」


夕奈たちは二階の車両陰にいた。上へ出ればTIERAXと戦えるが、下へ降りれば一階の部隊に挟まれる。


残された道は、南側の連絡橋だった。


ただし橋へ出るには、屋上から見下ろすTIERAXの射線を横切らなければならない。


「北の一人、撃てる」


遥真が階段脇から屋上を見た。


「落とせますか」


「追えば落とせる。でも、俺だけでは行かない」


夕奈は連絡橋までの経路を見る。


「ハルは北側を押さえてください。航平さん、スモークで橋を切って。私が先に渡ります」


「了解」


遥真のRaptor-5が屋上へ向く。


北側から顔を出したTIERAXの選手が削られ、遮蔽へ戻った。遥真は追わず、西階段へ出ようとする二人に射線を移す。


「上、出られない。今なら渡れる」


「行きます」


航平のスモークが連絡橋を覆った。


夕奈が先に走る。一階の部隊が足音を聞きつけ、階段へ出ようとしたが、航平の投げ物が足を止めた。


夕奈と航平が橋を渡り切る。


「ハル、戻って」


「もう一発だけ」


遥真がブレイクショットを起動し、短く撃つ。一発目は煙へ消え、二発目が北側の敵に入った。


北側の敵のシールドが割れた。その代わり、遥真も屋上の別角度から一発を受けた。


割った直後のブレイクステップで射線を外す。橋の煙が薄くなり、遥真は途中で一度足を止めた。


「こっち、見られてる」


「走って。私が窓を撃ちます」


夕奈が屋上の縁へ弾を置き、航平も橋の付け根へ出る。遥真は敵を追わず、二人に撃たせた時間で橋を渡った。


「北の一人、回復中です」


航平が後方を見る。


「残り二人は、屋上から降りられます。西階段なら橋、東の整備梯子なら一階外周です」


夕奈は南側の建物に入り、二階の窓から連絡橋を見た。逃げ切ることはできる。


だが、TIERAXの一人は回復中で、残り二人もまだ屋上にいる。今なら三人で仕掛けられる。


「ハル、二階の窓から橋を撃てますか」


「撃てる。ここなら戻れる」


「航平さんは一階出口。私は階段から上がります」


三人が同時に動いた。


回復を終えたTIERAXの選手が西階段から橋へ出る。


「撃つ」


遥真の弾が入る。敵は橋の中央で遮蔽を失い、シールドを割られたまま倒れた。


「橋、ダウン」


直後、南側の建物の二階窓と橋の付け根に、赤い攻撃範囲が順番に灯った。TIERAXの攻撃ウルトだった。警告のあとを追って爆発が走り、遥真は窓から、夕奈は階段の上段から退かされる。


その時間を使い、TIERAXは橋にスモークを入れた。一人が煙の中の味方へ寄り、通常の起こしを始める。もう一人は屋上の東端へ回り、整備梯子を下りた。


「東、一人。俺の一階出口へ来ます」


航平の報告で、夕奈は橋の煙へ飛び込まず、階段を半分だけ下がった。


東から来た敵がブーストステップで外周を横切る。航平は着地点を読み違え、最初の弾を敵の背後へ撃った。敵も建物の張り出しへ肩を当て、初速が切れる。夕奈が階段側から横を取り、航平が照準を戻した。夕奈の弾に航平が重ね、敵が倒れる。


攻撃ウルトが終わる。遥真は二階窓へ戻り、橋のスモークの手前へ通常のグレネードを落とした。爆発を避けたTIERAXの選手が起こしを途中で切り、煙から西階段へ退く。


起こしを続ければ、遥真の窓と夕奈の階段から撃たれる。起こしの音が止まり、TIERAXの足音が屋上へ戻っていく。遥真が橋に残ったダウンを確定させる。


最後の一人は屋上にいる。西階段と東の整備梯子、見えている逃げ道は二つだった。換気塔の裏は索敵が切れ、屋上の縁から直接下りる動きも残っている。


だが、一人では追わなかった。


「ハルは窓から西階段。航平さんは一階外周から東の梯子。私は西階段を上がります。飛び降りたら声をください」


「分かった」


三人が二つの出口へ分かれた。夕奈が西階段から屋上へ顔を出す。最後の敵は中央の換気塔を遮蔽にし、東の梯子側へ何度も銃口を振っていた。


夕奈がクラックチャージを起動し、換気塔へ一発を撃ち込む。小さな爆発を避けた敵は、予想した東ではなく屋上の南端へ走った。


「南へ行きました」


航平の射線からは外れる。遥真も窓を離れ、夕奈が正面から追う。そこへ北から近づいていた別部隊の弾が一発だけ屋上へ届き、敵が換気塔側へ戻った。夕奈と遥真の弾が入り、遅れて階段を上がった航平が逃げ先を塞いだ。


短い銃声のあと、部隊撃破の表示が出た。


TIERAXを倒した。


「北から別部隊。来ます」


航平の報告で、夕奈はすぐにデスボックスから目を離した。


「必要なものだけ取って、南へ離れます」


「もう取った」


遥真は戦闘を終える前から、次に戻る場所まで見ていた。


NOVA-3は追ってきた部隊と長く戦わず、三人生存のまま次のエリアへ入った。


四試合目は二位。TIERAXは十二位だった。


「今の、ハルが追っていたら、最初の一人はもっと早く落とせましたね」


航平が言う。


「落とせた」


遥真は答えた。


「でも、俺が撃ってる間に二人が動いた方が速かった」


最終試合。


残り四部隊になったとき、NOVA-3は南側の二階建てを取る必要があった。西に荷下ろし口、北二階に窓、東に狭い通用口がある。建物内には三人いた。


遥真が北へ大きく回れば、窓の一人を落とせる可能性はある。ただし、夕奈と航平のカバーは届かない。


「北からなら撃てる」


「戻れますか」


「一人落とせても戻れない」


「なら、出しません」


「分かった」


夕奈は西側の割れた窓と荷下ろし口を見る。


「ハルは今のコンクリート壁から北窓を止めてください。航平さんと私は西の荷下ろし口へ。航平さんは、寄りながら東の通用口の音も拾ってください」


遥真が北窓へ短く撃ち、二階の敵を室内へ下げる。夕奈と航平は西へ寄った。航平のスモークが割れた窓と荷下ろし口の間を切り、夕奈の投げ物が西側の部屋で弾ける。中の一人が中央階段まで退いた。


敵も待つだけではなかった。荷下ろし口へコンカッションを返し、夕奈と航平の足を短く鈍らせる。その間に別の一人が東の通用口から出て、遥真の横を取ろうとした。


「東、出ます。たぶん一人」


航平は足音を追い続けた。遥真は北窓の敵を追わず、コンクリート壁の右端に照準を移す。東へ出た敵へ一発入ったが、通用口へ戻ったのか外壁沿いに残ったのか、航平の音だけでは分からなくなる。北窓の一人も、遥真が向きを変えた間に一度だけ顔を出した。


「西から入ります。東は消えていません」


鈍化が切れた夕奈と航平が荷下ろし口を越えた。


「入りました」


「合流する」


遥真も西から二人のもとへ走る。夕奈は中央の棚、航平は右壁、遥真は入口左へ入ろうとして、床に残った投げ物の警告で中央へ寄った。三人は近いが、互いの射線が一度重なり、遥真が「見えない」と位置をずらす。


「右の一人、通用口の内側。撃てる」


遥真が言う。


「でも、俺だけでは落としに行かない」


夕奈は中央階段と奥の部屋、二つの足音を聞いた。


「右から――東の音が消えました。ハルは一人で奥へ行かないで」


航平が右壁から射線を通す。通用口にいたはずの敵は中央ではなく、棚の裏から夕奈へ出た。夕奈の初弾は棚に当たり、遥真が近い位置から先にシールドを割る。航平が右から重ねて倒した。


一人を落としたあと、遥真は奥へ一歩出た。通常のグレネードが棚へ返り、夕奈の「戻って」とほぼ同時に爆発する。遥真のシールドが削られ、入口左へ戻る。航平も右壁を保てず、柱まで下がった。


階段から下りた二人目を、夕奈が正面で止める。遥真が弾を重ね、航平は右壁ではなく柱の隙間から最後の一発を入れた。最後の一人は奥の部屋から東の通用口へ逃げる。航平の元いた射線はもう残っておらず、一度は外へ出られた。


「東、外です」


三人は同時に追わなかった。夕奈が通用口を見て、遥真が北窓へ戻り、航平が外壁の足音を追う。敵が収縮を嫌って西へ回ったところを遥真が窓から見つけ、夕奈が出口で止める。航平は最後まで敵を画面に入れられないまま、部隊撃破の表示を見た。


NOVA-3は建物を取った。残る二部隊が北側でぶつかり、一部隊が消える。


最後の部隊は高台から三人で降りてきた。二人が北の擁壁沿いの坂、一人が東のサービス路へ分かれる。


「ハルは二階の北窓から坂を。航平さんは東通用口。私は中央階段――両方は見られないので、音が消えた方を呼んでください」


夕奈が待つ場所を決め、航平は敵が入る前に二本の進路を読む。敵がその通りに来る保証はない。遥真が北窓へ入ったときには、坂の二人のうち一人がもう擁壁の陰へ消えていた。


敵は北窓にスモークを入れ、東の一人が通用口へ投げ物を落とす。航平は爆発を避けて室内柱まで下がった。


「東が先です。北は一人しか見えません」


「東を中へ入れます。ハルは北を――見える方を止めて」


東の敵が通用口を越える。航平は柱の裏から正面を押さえ、夕奈が中央階段から横を取る。敵は二人の間へ入らず、階段下へ投げ物を落とした。夕奈が一段上へ退き、航平が一人で撃ち合う。


「夕奈さん、見えません」


「今、下ります」


夕奈が爆発のあとに戻り、二人の弾で一人目が倒れる。航平の体力は半分を切っていた。


北からは一人だけがスモークを抜け、倒れた味方と荷下ろし口の間へ走った。もう一人は外壁を回っている。遥真が二階窓から先頭のシールドを割る。敵は室内中央へ入り、夕奈が階段から撃つ。航平は回復を始めていて間に合わず、遥真が窓を離れて一階へ下りる途中で二人目が倒れた。


最後の一人は外壁から東の通用口へ回っていた。航平は回復を途中で止めて出口へ向く。夕奈は足音を北と取り違え、一度荷下ろし口を見た。遥真が階段の途中で敵を見つける。


敵が通用口から外へ戻ろうとしたところへ、遥真の弾が先に入った。夕奈が向き直って重ねる。航平は柱から一発撃ったが、敵が倒れるのとほぼ同時だった。


画面中央に、文字が表示される。


CHAMPION


夕奈は大きく息を吐いた。


「勝ちました」


「今度は俺の胃も無事です」


航平が言った。遥真は総合表を開く。序盤三試合で積み上げたキルptが効き、TIERAXが一位。最後の二試合でTIERAXを上回り、第五試合を取ったNOVA-3は、二位まで戻していた。


スクリム終了後、佐伯から遥真へメッセージが届いた。


『通話できるか』


遥真は画面を見たあと、夕奈と航平へ言った。


「二人も残っててほしい」


数秒後、通話へ新しい接続音が入った。


「お疲れ」


佐伯は挨拶が三つ返るのを待った。


「今日の動きなら、こっちでもやれる。四試合目の連絡橋も、最後の建物も、前に来たときよりよかった」


「はい」


「返事を聞かせてくれ」


夕奈は自分のマイクを切らず、遥真のアイコンを見た。


遥真のマイクは点いたままなのに、声が出ない。


「五分、待ってください」


「まだ迷ってるのか」


「先に二人に言います」


佐伯は一度だけ息を吐いた。


「今日中なら待つ」


「すぐ返します」


「分かった」


佐伯が通話を切った。三人だけになっても、夕奈は先に聞かなかった。


「TIERAXには行きたい」


遥真が言った。


「今日も、五試合なら向こうが上だった。あそこで練習すれば、もっと強くなれると思う」


夕奈の指が、コントローラーのスティックから離れた。


「でも、今は行かない」


「……どうしてですか」


「俺はまだ、NOVA-3で勝ち切ってない。今日は一試合勝っただけだ。五試合では負けた」


遥真は総合表を閉じた。


「三人でグリムマスターまで行くって決めた。俺もやるって言った。別の場所の方が速いからって、途中で消したくない」


夕奈は何か言おうとして、一度やめた。


「だから、今は残る」


「私が言ったからではないんですね」


「それだけなら、昨日決めてた」


「そうですか」


夕奈の声がそこで細くなった。


「ハル」


「何」


「よかったです」


航平のマイクが点いた。


「俺も、ほっとしました。ただ、『ずっと』に聞き換えるのはやめておきます。このシーズンは三人でやる。それで合ってますか」


「うん。終わったら、また決める」


「分かりました。じゃあ、今日はここまで喜びます。先の分まで喜ぶと、あとでへこみそうなので」


「航平さん」


「はい」


「今は黙ってください」


航平が笑った。夕奈も、今度は止めなかった。


遥真は佐伯へかけ直した。夕奈も航平も、今度は何も言われず通話に残った。


「決まったか」


「今は行きません」


「今日勝ったからか」


「違います。一試合だけです。NOVA-3で勝ち切ります。三人で決めた目標も、まだ途中です」


「情だけで残るなら止める」


「一人で撃つより、三人で動いた方が速かった。ここで勝つために残ります」


佐伯はしばらく黙った。


「声をかけたことは取り消さない。次に来るなら、今日より強くなって来い」


「分かりました」


佐伯との通話が切れた。


「次は、五試合で勝ちましょう」


夕奈が言った。


「勝つ」


「その前に、三人でグリムマスターですからね」


航平がランキング画面を共有した。三人の名前は、まだ離れた位置にある。いちばん下はKOHEIだった。


「航平さんが一番遠いんでしたよね」


「さっき黙れと言った人が、急に刺してきますね」


「一緒に回す」


遥真が準備完了を押した。


「一試合だけ、行きましょうか」


夕奈が言うと、航平は少し間を置いた。


「その一試合が、一試合で終わった記憶がないんですけど」


「今日は終わらせます」


「夕奈さんの『今日は』、信用していいんですよね」


三つ目の準備完了が点き、マッチングが始まった。




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