第23話 一試合目、撃ち合う前に負けた
降下開始まで、あと十秒。画面左側に並んだ二十チームの名前が、一斉に明るくなる。
NOVA-3。
AURAVEX。
SONELIA。
TIERAX。
これまで順位表やキルログで見てきた国内チームが、同じマップの上にいる。
普段のランクでは、公式マークを見た部隊が着地先を曲げてまで追ってきた。
「東の整備区画、被りなしです」
航平が降下中の周囲を確認する。
近くまで来ていた二部隊はNOVA-3に被せず、それぞれ北と南の市街地へ流れていった。周囲では、着地直後の銃声が一発も鳴らなかった。
「そのまま降ります。三棟取ってから合流しましょう」
「了解」
「分かった」
三人は近い建物へ分かれて着地した。
夕奈が入った車両整備棟には、MP9とScout-56が落ちていた。使い慣れた二本が、早い段階で揃う。
「ユウナセット、完成ですか」
航平の声が入る。
「武器だけです。Scoutのサイトがありません」
棚の上にあった1倍サイトを、ひとまずScout-56につける。
1倍サイトでは敵の姿が小さく、周囲を見ながら中距離を止めるには2倍の方が扱いやすい。
「2倍、見つけたらください」
「こっちは3倍だけです」
「俺の方にはない」
遥真はすでにAK-76とAuto-8を持っていた。航平もLancer-56と十分な回復を確保している。
近くに銃声はない。
残り部隊数は、まだ二十のままだった。
夕奈は、その数字を見直した。普段のランクなら、着地直後の戦闘で二部隊か三部隊は消えている時間だ。
誰も無理に被せず、誰も早く落ちない。そのぶん、次に欲しい建物も、そこへ続く道も、一つずつ埋まっていく。
「次のエリア、西寄りです」
航平がマップを開く。
貨物検査場を抜け、北の倉庫群を通れば、遮蔽物を使いながら中央へ近づける。
「今からなら、北倉庫を先に取れます」
距離はあるが、ラウンド1の縮小開始までは余裕があった。
周囲に敵もいない。
「隣の棟まで見てもいいですか。2倍があれば、移動中も止めやすくなります」
「時間はあります」
「俺も弾、もう少し欲しい」
「では、隣まで見てから出ましょう」
三人は整備区画の北側へ進んだ。
次の建物にも敵はいなかった。
夕奈は物資箱を開ける。5.56弾。シールドパック。使える物資はあるが、2倍サイトはない。
「こっちにもないです」
「奥にもう一部屋ありますよ」
航平の声に、夕奈は一瞬だけマップを見た。
まだ間に合う。
「そこだけ見ます」
奥にも2倍はなかった。
代わりに、SMG用の拡張マガジンが落ちている。夕奈はMP9につけた。近距離で一人を倒し切りやすくなる。
装備は増えた。それでも、出発の声は誰からも上がらなかった。
「出ましょう」
三人が整備区画を離れた直後、ラウンド1の縮小が始まった。
リング外のダメージはまだ低い。入るだけなら、十分に間に合う。
だが、貨物検査場へ近づくにつれ、銃声が増えていった。
北西の倉庫。正面の高架。南側のコンテナ群。
移動中の部隊同士が接触し、キルログにチーム名が流れ始める。
「北倉庫、います」
航平が足を止めた。
二階建ての検査棟。その窓から、こちらへ銃口が向いている。
直前のキルログにはAVX。窓の敵は、事前映像で覚えたAURAVEX共通の競技スキンと同じ配色だった。
敵を追い回さず、先に欲しい場所へ入る。そこから、あとで通ろうとする部隊だけを撃つ。
「正面、AURAVEXです」
「分かってる」
遥真は低い壁の端から、二階の窓を見た。
敵の一人が二階の窓から顔を出し、NOVA-3のいる低い壁と右の細道へ銃口を振った。
遥真なら、次に顔を出した瞬間、大きく削れる。
遥真は撃たなかった。
「一人、割れる。でも戻る場所がない」
遥真のいる壁から検査棟までは開けていて、詰める途中は右の高架からも見られる。
「正面は行けません。右から回ります」
航平が、検査棟とコンテナ置き場の間にある細い道へ視点を向ける。
「スモーク一つ。車両までは隠せます。その先は見られます」
北の検査棟。右の細い道。今三人がいる低い壁。線として残っているのは右だけだった。
「AURAVEX、降りません。通路だけ見てます」
AURAVEXは検査棟を手放さず、二階の窓から右の道へ照準を移した。
「右へ行きます。航平さん、車両までスモーク。ハルさんは窓を押さえてください」
「了解」
「窓、見る」
航平がスモークを投げる。
白い煙が広がり、検査棟から手前の車両までの射線を隠した。
「行きます」
三人が低い壁を離れる。
夕奈が煙へ入り、航平が少し前を走る。遥真は検査棟の窓を見ながら、二人の後ろについた。
右の細い道からパルスセンサーが車両脇へ飛んだ。警告音と一度目の走査が、煙の中を走る夕奈と航平の輪郭を短く浮かべる。
遥真が本体を撃ち、二度目は止めた。だが、右の部隊には二人が車両へ向かうことまで伝わっていた。
車両までは渡れた。
だが、煙の先にある細い道から銃声が響く。
「右、います!」
航平の声と、敵の射撃が重なった。
右の通路へ、別部隊がすでに入っていた。
夕奈が判断を出してから、三人が煙を抜けるまでの短い時間。その間に、残っていた入口も埋まった。
航平のミディアムシールドが割れる。
「戻れません。車の裏まで行きます」
航平は走りながらLancer-56を撃った。低い反動の弾が通路の先頭を止める。
しかし、検査棟の二階からも弾が届いた。
煙の端を抜けた航平に、二方向の射撃が集まる。
「航平さん、左へ!」
「左も通ってます」
航平の体力が削り切られ、車両の横でダウンした。
「航平、起こせる?」
遥真が撃ち返しながら聞く。
航平のいる場所には、右の通路からも検査棟からも射線が通っている。近づいて止まれる遮蔽物がない。
「無理です。先に右を下げます」
夕奈はScout-56を撃った。
一発。二発。三発目は車体に弾かれた。
「右、一人六十」
「詰めてくる」
遥真がAK-76を撃つ。
敵のシールドが割れた。
割った敵の後ろには残り二人がいる。AURAVEXも、NOVA-3が戦い始めた瞬間から車両の両側へ弾を送り始めた。
「正面、角度変わります」
ダウンした航平が報告する。
AURAVEXは検査棟から降りてこない。
二階の窓と屋上から、射線をずらしているだけだった。
それだけで、三人は車両の裏から出られない。
右の部隊が距離を詰める。
遥真がもう一人を大きく削った直後、検査棟からの弾でシールドを割られた。
「ハルさん、車の反対へ」
「無理。右から見られてる」
後ろの低い壁へは戻れない。正面にはAURAVEX。
右には別部隊。
左は高架の射線が通っている。
夕奈は移動先を探した。だが、どこにも三人で入れる場所がなかった。
索敵ウルトは使える。遥真の攻撃ウルトも残っている。敵がどこにいるかは、もう分かっていた。爆発で一度動かしても、その先に三人で入れる遮蔽がない。
遥真がダウンする。
残ったのは夕奈だけだった。
シールドは半分以下。シールドパックは持っているが、使い切るまでの二秒半、止まっていられる場所がない。
「ユウナさん、右二人。正面は窓です」
航平の報告を聞きながら、夕奈は車両の陰を回った。
右の敵へMP9を撃つ。
拡張マガジンのおかげで、いつもより長く撃てた。
一人のシールドを割り、体力まで削る。
それでも、倒し切る前に検査棟から弾が届いた。画面が大きく揺れる。夕奈は車両へ戻ろうとした。
反対側には、右から詰めてきた敵がいた。
最後の弾が夕奈の体力を削り切る。
部隊全滅。
順位は十四位。
0キル。
獲得は、順位の1ptだけだった。画面が観戦表示に切り替わる。
夕奈たちを倒した部隊は、航平のデスボへ近づこうとしていた。
だが、物資を取る前に検査棟から撃たれる。
一人が割られ、車両の陰へ戻ったところを、高架の別部隊からも狙われた。
三方向から射線を受けた部隊は、ほとんど物資を拾えないまま離れていく。
AURAVEXは追わなかった。
検査棟に残り、次に通ろうとする部隊へ照準を向け直した。
夕奈の画面には、NOVA-3が通れなかった検査棟が残っていた。
待機画面には次の試合まで八分と出ている。五試合のうち、まだ一試合しか終わっていない。夕奈の指はコントローラーから離れず、何も動かない観戦画面で左スティックだけを押していた。
画面の端に結果が表示された。AURAVEXは二位、5キル、合計14pt。NOVA-3は1ptだった。
「どこから戻します?」
航平が聞いた。
「車の裏」
遥真が先に答えた。
「そこへ来る前を見ないと、いつ出口がなくなったか分かりません」
「全部見る時間ない」
「では、降下から一分だけ見ます」
「一分で車まで行かない」
航平は「早送りします」と返した。夕奈は2倍サイトを探した場面から、と言えないまま、航平に開始位置を任せた。




