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第22話 AURAVEX

挿絵(By みてみん)

国内公式スクリムの三日前、夕奈たちは品川の会議室に集められた。壁のモニターには、参加する二十チームの名前が四列に並んでいる。


NOVA-3。


AURAVEX。


SONELIA。


TIERAX。


配信や過去大会で見た名前が続く。その中で、夕奈にはAURAVEXだけが大きく見えた。


「最初に確認しておきます」


三好玲奈は、三人へ配った進行資料を開きかけ、夕奈の視線が一つの名前に止まっているのを見た。


「今回の公式スクリムは、AURAVEXとの対抗戦ではありません。二十チームが同じマップへ入り、全五試合を行います」


「分かっています」


夕奈は早く答えすぎた。玲奈が資料から顔を上げる。


「まだ、AURAVEXを倒せば評価される試合ではない、としか言っていません」


「それも分かっています」


「二回言うと、余計に意識してるように聞こえますね」


航平が横から言った。夕奈は否定できず、モニターを見直した。


五試合の順位とキルで総合を決める。会社の販促評価は別。資料にある競技規則はそれだけだった。玲奈は戦闘後の立て直しや修正点まで読み上げず、ページを閉じた。


「何を持ち帰るかは、試合が終わってから三人で決めてください。今ここで評価項目を増やすと、それを達成するための五試合になります」


「では、会社から見た正解は教えてもらえないと」


航平が尋ねる。


「試合前に答えを渡すことが、支援だとは考えていません」


夕奈はもう一度モニターを見る。AURAVEXは、同じネクスフィアプロモーションの公式契約チームだった。


立場はNOVA-3と近い。だが公式スクリムでは何度も上位へ入り、五試合を通して崩れにくい。誰か一人が目立っても、勝ち方が一人に偏らない。


AURAVEXの試合を見れば、先に動くMAKIはすぐ分かる。紗月は撃つときより、味方が撃つのをやめたときに声が入る。RENKAは二人から離れて見えるのに、戦闘が終わると先の建物にいる。役割名をつければ整理できそうで、夕奈には三人とも、その名前から少しずつはみ出して見えた。


「過去試合の映像を共有してあります」


玲奈はテーブルの端に置いた操作用端末を航平へ渡した。


「分析内容について、私から指示はしません。必要な確認があれば、運営へ問い合わせます」


玲奈は会議室の予約終了時刻だけを確認し、次の打ち合わせへ向かった。航平が椅子をモニターの正面に寄せる。


「じゃあ、五試合を無事に終えるためにも、強い人たちを見ますか」


「無事に終わるだけでいいんですか」


「できれば順位も欲しいです。要求を増やすと急に難しくなるんですよね」


航平が再生したのは、二週間前に行われた公式スクリムの記録だった。


AURAVEXのチーム視点と、全体マップが同時に表示される形式になっている。


ラウンド2の縮小前。


AURAVEXは、工場地区の外周を三人で移動していた。まだ残り部隊は多く、遠くで複数の銃声が鳴っている。


紗月が、味方より先に道路へ出た敵を見つけた。遮蔽物は少なく、残り二人の射線も届く。夕奈にも、撃てると分かった。


けれど、AURAVEXは撃たなかった。


戦術アビリティも移動ウルトも点灯したまま、一発も撃たずに通した。


敵が道路を渡り終えても、誰も追わない。そのまま少し向きを変え、別の道へ移動していく。


「今の、撃たないんですか」


夕奈は思わず言った。航平が映像を止める。


「撃てましたよね」


「落とせたかもしれない」


遥真も同意した。


周囲にすぐ寄る部隊はなく、エリアにも耐久にも余裕がある。撃たない理由が、すぐには見つからない。


「通した敵の先、見てみます」


航平が再生を進めた。


道路を渡った部隊は中央へ向かう途中で別部隊とぶつかった。その間に、AURAVEXは空いた細道を通り、窓と裏口のある二階建てへ入った。


航平が全体マップを拡大する。


「さっきの敵と、ここにいた部隊が戦って道を塞いだ。その横が空いたんですね」


「見逃したんじゃない、と思います」


夕奈は言った。


「撃たなかったから、あの部隊が前へ進んだ。それを使ったように見えます」


「最初から建物へ行くつもりで、たまたま前がぶつかった可能性もあります」


航平は全体マップの時刻を戻した。AURAVEXが敵を見つける前から建物へ薄く印を置いていたかどうかは、観戦映像では判別できない。


再生を進めると、一人を失った部隊が中央へ近づく頃には、AURAVEXが建物の窓から道路を見ていた。遥真が建物の窓を指した。


「ここに来ても、まだ撃たないんだ」


「昨日の三試合目と同じ?」


遥真が聞いた。


「倒さずに動かして、建物へ入ったところは似ています」


「昨日は、攻撃ウルトのあとに別部隊が来ました。こっちは撃つ前から、道路の先に一部隊いる」


航平が止めていた全体マップを少し戻す。


「別の試合も見ましょう」


航平が映像を切り替えた。今度は終盤に近い場面だった。


AURAVEXが低い壁を挟んだ戦闘で、一人をダウンさせる。残った敵は、倒れた味方を引きずるようにして建物の裏へ下がった。


追えば、部隊撃破まで届きそうな距離だった。


先頭のMAKIが前へ出かける。だが紗月が短く何かを伝えると、RENKAが先に退路へ入り、MAKIも反対方向へ戻った。


敵を倒し切らないまま、高所へ続く坂を上がっていく。


「また離れるんですね」


夕奈が言うと、航平が音量を上げた。


映像の中で、遠くの銃声に交じって別方向から近づく足音が入っている。


十秒も経たず第三部隊が現れ、ダウンした味方を起こそうとした二人を撃つ。AURAVEXは坂の上で回復と補充を終えていた。


「最初にダウンを取ったときは、有利でした」


航平が言う。


「でも、別部隊が来たところで、最後まで倒す相手じゃなくなった」


「その判断が早いだけじゃない」


夕奈は全体マップを見ながら言った。


「離れた先にも、戦える場所があるんです」


坂の上には次のエリアへ向かう二本の道と、追われても下がれる遮蔽物がある。


「私たちは、撃ってから行くか引くかを決めてます。AURAVEXは、その前に――」


「でも、この試合は坂しか空いてません」


航平が全体マップの外周を拡大した。


「先に選んだというより、そこしか残らなかったようにも見えます」


夕奈は言葉を止め、坂へ入る三十秒前まで映像を戻した。紗月が一度だけ別の道へ照準を向け、MAKIが先に坂を下りている。


「ここの報告、聞けないんでしょうか」


「公式映像には入ってませんね」


「でも、撃てるときに全部我慢してるわけじゃない」


遥真が別の場面を指した。


映像では、RENKAのパルスセンサーが孤立した一人の位置を捉え、紗月のコンカッション弾が足を止め、MAKIがブーストステップで退路へ回る。三方向から一人を倒すと、そのまま残り二人も押し込み、短時間で部隊を撃破した。


部隊撃破の表示が出ても、再生バーはほとんど進んでいなかった。


「さっきは残り二人を置いた」


夕奈が言うと、遥真は倒れた一人を指した。


「これは一人。戻る道もある」


夕奈は最初の場面の時刻をノートへ写し、その横に「敵を先へ流す」と書いた。


「俺は、先の建物の方が気になります」


航平が横からノートをのぞいた。


「最後のは、戻る道があった」


遥真が言う。


「今、最初の道路の話です」


「俺は最後の話」


夕奈は「敵を先へ流す」の末尾に疑問符をつけた。


説明会の最後には、オンラインで参加チームの事前確認が行われた。


画面には二十チームの代表者名が並び、順番に短い挨拶をしていく。SONELIAの代表は明るく声を張り、TIERAXの代表は大会本番と変わらない落ち着いた口調だった。


AURAVEXの順番になる。表示されたのは、紗月のアバターだった。


「AURAVEXの紗月です。五試合、よろしくお願いします」


それだけ言うと、表示は次のチームへ移った。通話が終わったあと、航平が資料を閉じる。


「普通でしたね」


「普通の方が困ります。相手のことが、何も増えていないので」


「映像で十分」


遥真は、閉じられた通話画面を見たまま言った。


「撃つ相手を決めるには、でしょう。俺が退路まで真似するには、映像だけでは足りません」


「私は、紗月さんが何を見て決めたのか聞きたいです。三人とも違うものを持っていきそうですね」


「違っていい」


「合わせるときは、どうしますか」


「試合で言う」


航平が資料を閉じかけた。


「それで間に合えばいいんですが」


遥真は返事をせず、閉じられた通話画面から目を離した。


スクリム当日。


開始前の音声確認で、夕奈は分析会で書いたメモを机へ置いた。『敵を先へ流す?』の下に、航平の『先の場所を取る』があり、少し離れて遥真の『今は撃たない』がある。


「聞こえてます」


「聞こえる」


「こちらも大丈夫です」


航平が一度マイクを切り、すぐ戻る。


「最後まで報告が保つ保証はありませんが、聞こえなくなったら言ってください」


「聞こえなかったら、言えません」


「では、聞こえているうちにお願いします」


遥真が割り込む。


「AURAVEXがいたら?」


夕奈は答えようとして、自分のメモを見た。撃たずに通す。先の場所を見る。戻る道があるなら撃つ。どれも映像の中では正しく見えた。


「名前では決めません。その場を見ます」


「見てる間に撃たれたら?」


「ハルは、撃てるなら言ってください」


「撃っていい?」


「それは、まだ……」


航平が笑った。


「始まる前から間に合ってませんね」


夕奈も笑いかけたが、指に青いインクがついているのに気づいた。メモの疑問符を何度もこすり、乾いたと思っていた線が手についたらしい。


「ユウナ?」


「大丈夫です。始まったら言います」


インクを拭くものを探すうち、開始前の音が鳴った。夕奈は汚れた親指を、そのままスティックへ置いた。




挿絵(By みてみん)

本作をお読みいただき、ありがとうございます。


☆ゲームについての豆知識をご紹介☆

eスポーツ大会を観戦するときは、キル数だけでなく、チームがどのように勝利へ近づいているかを見ると、試合をより深く楽しめます。


**キル数**は、敵を倒して人数や戦況を有利にする重要な要素です。ただし、キルを多く取っても早い段階で敗退すれば、十分な順位ポイントを得られない場合があります。


**順位**は、最後まで生き残る力を示します。終盤まで三人生存できるか、少ない人数でも順位を伸ばせるかに注目すると、チームごとの判断の違いが見えてきます。


**移動**では、安全地帯へ入る時間やルートが重要です。敵と遭遇しにくい道を選ぶのか、あえて危険な場所を突破するのかを見ると、選手の判断力や情報共有の速さが分かります。


**物資**も勝敗を左右します。武器、防具、弾薬、回復アイテム、投げ物が十分に残っているかによって、戦える時間や選べる作戦が変わります。


**強い場所**とは、高所、遮蔽物の多い場所、周囲を見渡しやすい場所など、敵より有利に戦いやすい位置です。どのチームが先に強い場所を確保し、どのように守っているかも見どころです。


さらに、画面に表示される**残存部隊数**を見ると、試合の緊張度をつかみやすくなります。多くの部隊が残っている間は慎重な位置取りが求められ、残りが少なくなるほど積極的な戦闘や勝負を決める判断が増えていきます。


「今どこにいるのか」「何を持っているのか」「次にどこへ動くのか」に注目すると、銃撃の迫力だけでなく、チームの作戦や選手同士の連携も楽しめるようになります。


※掲載内容は、バトルロイヤル形式のeスポーツ大会を観戦する際の一般的な見方をまとめた一例です。得点方式、物資、マップ、試合形式は、ゲームや大会によって異なります。


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