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第17話 追ってくる一部隊

挿絵(By みてみん)

敵部隊は距離を保ったまま、排水施設の外で足を止めていた。正面から詰めてくるわけでもない。別の場所へ移動する様子もない。三人が建物から出るのを待つように、周囲の配管や低い壁の陰へ散っている。


「北に一人。西の作業路に一人。残りは見えません」


航平が二階の窓から外を確認した。


「出口を分けて見てる?」


「そう見えます。俺らが出た方向へ、三人で寄れる距離は残してます」


排水施設へ入る前、夕奈たちは北から西へ進路を変えた。外から姿は見えないはずなのに、敵も少し遅れて西へ回った。出口を分けて見るだけなら、以前にもあった。進路まで二度重なるのは初めてだった。


「東は空いてます」


航平が言う。


「ただ、次のエリアとは反対方向です」


ラウンド2のエリアは北西に寄っている。東へ抜ければ敵との距離は作れるが、次の移動が長くなる。ラウンド2の縮小が始まる前に北へ戻らなければ、外周を大きく回ることになる。夕奈は建物の構造を確認した。二階の北側には、隣の処理棟へ渡る連絡通路がある。一階の南側には、細い作業路へ出る搬入口があった。


「北へ行くように見せて、戻ります」


夕奈が言うと、航平の返事が一拍遅れた。


「相手を試すんですか」


「反応を見ます。まだ、配信を見ているとは決めません」


言いながら、夕奈は自分の声がすでに疑っている側へ傾いているのを感じた。パルスセンサーは使わない。警告を出せば、敵が何を見て動いたのか、ますます分からなくなる。


遥真は北の配管へ照準を置いたままだった。


「一人、撃てる」


「今は撃たないでください」


「見せるために?」


「……こちらが気づいたと、知られたくないです」


遥真は照準を外したが、「分かった」とは言わなかった。


三人は二階へ上がった。夕奈は北の連絡通路を画面の中央に入れ、処理棟までの線を長く見せた。


『まだ追ってきてる?』


『北なら抜けられそう』


コメントが先に夕奈の考えを言葉にする。配信には遅延がある。それでも、今誰かに見られていると思った途端、スティックを倒す動きまで芝居に見えた。


連絡通路の手前で、夕奈は引き返した。


「南へ戻ります」


航平と遥真が続く。南の搬入口まで下りると、航平だけが階段を半分戻り、細い窓から北を見た。


しばらく何も起きなかった。


「まだですか」


夕奈が尋ねる。


「『まだ』が、何秒のことか分かりません」


航平の声には、苛立ちより困惑があった。コメント欄では『動いた?』と『考えすぎじゃない?』が交互に流れている。


やがて北の一人が走った。西にいた影も外壁の向こうへ消える。南の敵は少し残り、遅れて角を曲がった。


「北へ寄ったようには見えます」


「今のが配信なら――」


「エリアも北西です」


航平に遮られ、夕奈は言葉を止めた。配信を見た証拠にはならない。けれど、偶然だと片づけて同じ出口を使う気にもなれない。


「もう一回、南を見せます」


夕奈が搬入口へ向くと、遥真がその場に残った。


「いつまでやる?」


「次で終わります」


「敵と戦う時間、減ってる」


「追われているまま出る方が危ないです」


「見てるか分からない相手に、こっちが合わせてる」


夕奈は返せなかった。南の扉を画面へ入れたまま、向こう側で敵の足音を待つ。これも相手に見られているなら、疑っていることまで伝わるかもしれない。


正面の遠い建物から、別部隊の銃声が聞こえた。夕奈は二度目の芝居を途中でやめた。


「東から出ます。もう反応は待ちません」


遥真が点検口へ先に寄った。航平は北の窓から下りながら、敵がどこへ消えたか最後まで言い切らなかった。


「了解。外、見ます」


遥真が点検口の横につき、扉をわずかに開いた。


「東、通れる」


三人は順番に外へ出た。


点検口から見える隣の保管室には、2倍サイトが落ちていた。取りに行くには、今出てきた通路の近くまで戻らなければならない。夕奈は足を向けず、そのまま低い配水路へ下りた。


三人は排水施設から距離を取る。夕奈が振り返ると、南の搬入口付近に見えたのは一人だけだった。残る二人が、少し前の配信画面を追っているのか、エリア側へ先回りしたのかは分からない。


「少なくとも一人は、少し前にいた場所へ来ています」


『うまく抜けた』


『相手まだ南を探してる』


『配信見られてない?』


「東の配水路を抜けたら、北へ戻ります。あの部隊とは距離を切ります」


「追ってきたら?」


遥真が聞いた。


「孤立した一人だけ削ります。ただし、倒しに戻るかは周りを見て決めます」


「分かった」


三人は配水路から工業区画の外周へ出た。北西へ戻る途中の資材置き場には、低い箱と鉄骨しかない。銃声が寄れば、横からも見られる場所だった。


「後ろ、来ました」


航平が言った。


排水施設の東側から、先ほどの敵が姿を現す。


三人とも迷わず、NOVA-3へ向かって走っていた。


「東へ出た映像が、もう届いたんだと思います」


「ずっと追うつもりか」


遥真が振り返った。


AKの重い銃声が鳴る。


先頭を走っていた敵のシールドに、弾が続けて入った。相手は低い配管の陰へ逃げ込む。


「九十。次に出たら割れる」


「ハルさん、右の鉄骨まで下がりながら見てください。航平さんは前を――」


「資材置き場、撃ってます」


「右へ下がる」


航平と遥真の声が一瞬だけ重なった。夕奈には「右」だけが残り、鉄骨へ先に一歩出た。


進行方向から弾が届き、夕奈のライトシールドが二十五削れる。


「前、二部隊です。入口で撃ち合い――ユウナさん、右はまだです」


航平が言い直した直後、爆発音が聞こえた。


前には、すでに別の戦闘がある。


後ろからは、こちらだけを追ってくる部隊がいる。


立ち止まれば挟まれる。


「後ろ、一人出た」


遥真が短く撃った。


敵のシールドが砕ける。


「割った。落とせる」


遥真は鉄骨の陰で返事を待っている。割れた一人は配管の後ろ、正面の銃声はさっきより近い。


「倒し切るまで戦ったら、次の部隊が来ます。今は離れます」


「分かった」


遥真は敵を追わず、鉄骨の裏へ戻った。


遥真の攻撃ウルトなら追跡部隊を配管の陰から動かせる。ただし予告範囲を避けた敵が、どちらへ出るかは選べない。前の二部隊まで反応すれば、抜けたい右側へ敵を集める可能性もあった。


「航平さん、前後の射線を切れますか」


「スモークを二つ使います。一つだと、どちらかから見えます」


「お願いします。右の壁沿いで抜けます」


航平が一つ目のスモークを後方へ投げた。


白い煙が配水路の出口を覆う。追ってきた敵の弾が煙の中から飛んできたが、三人の姿は捉えていない。


二つ目は、資材置き場の入口へ入った。


「今です」


三人は右側の壁に沿って走った。


煙を抜けた直後、夕奈のシールドに弾が入る。追跡部隊ではない。資材置き場の中から撃たれている。


「正面です。止まらないでください」


夕奈は回復せず、そのまま走った。


遥真が短く撃ち返し、敵を遮蔽物へ戻す。航平は最後尾から、後方の部隊が煙を抜けたことを伝えた。


「後ろも来ます。俺が一度止めます」


航平のLancer-56が長く弾を吐いた。


敵が顔を出せない間に、夕奈と遥真が外周の壁へ入る。


「航平さん、戻ってください」


「戻ります。残り一マガジン半です」


三人は資材置き場を抜けた。


遠回りになったうえ、夕奈のライトシールドは割れていた。遮蔽物を一つ挟んだところでパックを一つ使う。二秒半で戻せたのは二十五だけだった。もう一つ使えば最大まで戻せるが、後ろの銃声が近い。


「行きます。残りはエリアに入ってから使います」


遥真のAKは、さっきより明らかに短い間隔で弾切れの音を返す。航平は消えたスモークの欄を一度開き、何もないのを確かめて閉じた。三人はラウンド3の内側へ滑り込み、外周の低い倉庫でようやく足を止めた。


「後ろの部隊は?」


夕奈が聞く。


「資材置き場の部隊と撃ち合ってます。これで切れたと思います」


航平が答えた。


夕奈は壁へ背中を寄せ、残っていたパックを使った。青い耐久が戻るあいだも、倉庫の薄い壁を越えて銃声が響く。回復が終わっても安心は戻らず、手元からパックだけが消えた。


Scoutの小さなサイトには傷があり、CARの弾も心もとない。遥真は自分の弾を数えたあと、数字を言わずに一束だけ床へ落とした。夕奈の武器では使えない弾だった。


「いらない?」


「航平が使える」


航平は拾わなかった。


「俺が持つと、ハルさんが足りないときにまた渡します。今はそっちで」


遥真は一度落とした弾を拾い直した。三人とも必要なものが違い、分ければ埋まるほど持っていない。


「ユウナさん、パックありますか」


「今のでなくなりました」


「俺のを一つ――」


「航平さんも削れています」


夕奈は言い終えてから、断るのが早すぎたと思った。もらえば次に自分が残れる。航平へ持たせれば、また最後尾で撃たれたときに使える。正解ではなく、どちらが先に倒れるかを選んでいるだけだった。


航平は渡しかけたパックをしまい、代わりに回復装置を倉庫の壁際へ置いた。低い作動音が始まる。


「少し止まります」


「どのくらい?」


遥真が聞く。


航平は画面の数字を読まず、外の銃声を聞いた。


「次の一発が近くなるまで」


三人は装置のそばにしゃがんだ。誰も配信のコメント欄を見なかった。壁一枚の向こうにいるかもしれない視聴者の方が、今は敵より近く感じられた。


装置の光が消える前に、夕奈は立った。


「次は、戦わずに入れる場所を探します」


言ったそばから、遥真が倉庫の出口へ銃口を向けた。戦わないで済むと信じた動きではなかった。


夕奈はマップを開いた。逃げ切った代わりに、パックも投げ物も残っていない。試合は終盤まで進んだ。


残り五部隊。


NOVA-3は道路沿いの低い壁へ入り、次のエリアを見ていた。安全地帯は、道路の向こうにある整備棟へ寄っている。先に入っている部隊が一つ。左の高架下に一つ。残る二部隊だけ、位置が分からない。


倉庫で一度消えた航平の回復ウルトが、いつの間にか再び使える状態へ戻っていた。低い壁の裏に装置を置き、三人は肩を寄せるようにして削れた分を戻す。装置は持っていけず、この壁に残った。


「右が分からないまま渡ると、横を撃たれます」


夕奈は索敵ウルトを起動した。広い索敵波が一度だけ通り、整備棟と高架下に三人ずつ、さらに右の浅い排水溝にも三つの輪郭を浮かべる。索敵された全員へ警告が出た。発動光を見た整備棟と高架下の部隊には、NOVA-3が低い壁にいることも知られた。もう一部隊は索敵範囲に入らず、位置不明のままだった。


「右の部隊、私たちより先に道路へ出ます」


排水溝の背後には収縮が迫っている。右の部隊は索敵された位置に残らず、一人がブーストステップで配送用トラックへ走り、もう一人が整備棟側へスモークを投げた。残る一人も二人の後ろへ続き、三人ともNOVA-3へは撃たず、エリア方向へ動いている。


遥真の攻撃ウルトなら、排水溝の出口とトラックを同時に塞げる。直撃で倒せなくても、予告範囲から出る方向は絞れる。


「右を動かします。私たちは撃ちません。二部隊に見える場所へ出します」


遥真が指定範囲を重ねた。赤い予告がトラックまで重なると、右の部隊は進路を左の道路へ変えた。最初の爆発を避けた先で、整備棟の窓と高架下から銃声が重なった。


右の部隊も拾得した遮断バリアを道路へ展開し、整備棟へ撃ち返す。だが、正面を塞いだ一枚では、高架下から通る横の射線まで切れない。バリアの陰へ三人が寄ったところへ次の爆発が落ち、散らされた先から一人ずつダウンした。


NOVA-3は一発も撃たなかった。数秒後、キルログに三人分の名前が流れ、部隊数が四に減る。


「道路を渡るしかないです」


航平が言った。


「スモークが残っていれば、車まで切れたんですけど」


索敵で得た位置は、敵が動いた時点でもう古い。攻撃ウルトは使い、回復装置は後ろの壁から動かせない。この試合の構成に、三人を速くする移動ウルトはなかった。道路の途中には、壊れた配送車が一台ある。そこまで行けば、次の射線を作れる。一度で渡り切るのは難しい。


低い壁に残れば整備棟へ入れず、ラウンドの終盤で次のエリアに押し出される。配送車を取れば正面の窓と高架下の両方へ射線を返せる。ただし、スモークがない今は、誰かが撃たれながら渡ることになる。


「ハルさんが先に車まで行ってください。私は整備棟を撃ちます。航平さんは高架を見てください」


「行ける」


「左、出たら止めます」


遥真が壁から飛び出した。


夕奈はScout-56で整備棟の窓を撃つ。1倍サイトの向こうでは、窓の敵が小さい。一発目が窓枠を叩き、続く二発が敵に入る。相手が引いた。


「正面、下がりました」


遥真が配送車へ着く。航平も続こうとした。


その瞬間、高架下から別の部隊が出てきた。


「左、三人」


航平のLancer-56が鳴る。


敵の先頭を止めたが、撃ち返された弾でライトシールドが割れた。


「パックはあります。でも、ここで二秒半止まったら落ちます」


「使わなくていいです。航平さん、車まで走ってください」


「正面の窓も出てます」


「私が見ます」


整備棟の窓へ敵の肩が戻った。夕奈はScout-56を二発撃ち込み、窓の奥へ押し戻した。


「今です」


航平が道路へ出た。配送車まで、あと少し。


高架下の敵が再び顔を出す。


夕奈はCARに持ち替えたが、距離が遠い。弾を撃っても、相手を遮蔽物へ戻すほどの圧にならない。


高架下からの射撃が航平へ届いた。


航平が道路上で倒れる。


「航平さん!」


「左です。二人出てます」


遥真のAKが鳴り、一人のシールドを割った。


「一人割った。航平を起こせる?」


道路には、高架下からの射線が残っている。煙で隠すことはできない。夕奈のパックは、倉庫で使い切っていた。ここで起こそうとすれば、夕奈も数秒間止まる。高架下の二人と整備棟の窓、その両方から撃たれれば、航平を起こす前に二人とも落ちる。先に整備棟へ入れれば、壁で高架下を切ってから起こす可能性が残る。


「ここでは無理です。先に整備棟へ入る道を作ります」


「分かった。俺が右を撃つ」


遥真が整備棟へ圧をかける。


夕奈は配送車の陰まで走った。そこから航平を起こすには、道路側へ体を出して数秒間動きを止めなければならない。


高架下の敵が詰めてくる。


「左、来ます」


航平が倒れたまま伝えた。


夕奈はScout-56を撃つ。


残りの弾がなくなる。


「Scout、弾切れです」


CARに持ち替える。


高架下の先頭が距離を詰め、ようやくCARの射程へ入った。夕奈は二十八発を撃ち込み、青いシールドを割る。だが、敵が下がる前にマガジンが空になった。


リロードへ入った隙に、高架下から飛んできた弾が夕奈のシールドを砕く。


遥真が一人を落としたが、整備棟の部隊も外へ出てくる。二方向から撃たれ、配送車の周囲に逃げ道は残っていなかった。


数秒後、部隊全滅の表示が出た。


部隊順位、四位。


画面がリザルトに切り替わる。


『惜しかった』


『スモークが残ってたら渡れたかも』


『最初の部隊に追われたのが最後まで響いたな』


夕奈はコメント欄を見たまま、所持品欄を開いた。パックはゼロ、投げ物もゼロだった。


「今日はここまでにします」


夕奈は声を整えた。


「見に来てくれてありがとうございました。次は、もっといい判断を見せます。おつゆなでした」


「見てくれてありがとうございました。次も勝ちます」


「今日もありがとうございました。俺の胃は少し削れましたが、チームはちょっと強くなりました。おつこうへいです」


「おつNOVAでした」


三人の声が重なり、配信終了画面に切り替わった。航平はすぐに録画を開いた。


最初に映ったのは、北へ向かうふりをした自分たちだった。夕奈は、再生バーの数字より先に、自分の声を聞いた。


『反応を見ます。まだ、配信を見ているとは決めません』


その直後には、敵が配信を見ている前提で三人を動かしている。


航平は敵が北へ消えたところで止めた。いつものように原因らしい場面へ名前をつけようとして、入力欄を開いたまま手を止める。


「何て残します?」


「配信を見ていた可能性、では駄目ですか」


「運営へ送る文なら書けます。でも、俺たちの反省として置くと、次に同じ動きをした相手までそう見えます」


遥真が録画を少し進めた。二度目の動きを試そうとして、途中で東へ変えた場面が出る。


「俺は、ここで撃ちたかった」


「撃って負けたかもしれません」


「それでも、試したかった」


夕奈は言い返せなかった。敵の反応を待ち、遠回りするうちに、使える出口と物資は減っていた。だが、あそこで撃っていれば最後の道路を渡れたとまでは思えない。


航平が報告用の欄を開いた。選択肢には、迷惑行為、談合、不正な情報取得の疑いが並んでいる。どれかを押せば、相手が何をしたかをこちらが決めるように見えた。


「選ばないと送れませんか」


夕奈が聞く。


「窓口の都合では必要です。判断するのは運営なので、『疑い』で送って構いません」


航平は不正な情報取得の疑いを選んだが、本文には別のことを書いた。排水施設から離れたあとも、同じ部隊が追ってきたこと。配信上で見せた進路と、敵の移動が重なって見えたこと。確認できなかった部分。


「相手の名前、出す?」


遥真が尋ねた。


「運営には必要です。配信では出しません」


「名前を出さなくても、相手は自分だって分かるかもしれません」


夕奈の言葉に、航平は送信ボタンから手を離した。


「それでも、送らない方がいいとは思いません」


送信音は小さかった。誰も肩の力を抜かなかった。


少しして、玲奈が通話へ入った。配信は終わっているのに、三人とも反射で姿勢を正す。


「映像はこちらでも確認します。次回は遅延と接続条件を変えます。ただ、それで今日の相手が配信を見ていたと確定するわけではありません」


「はい」


夕奈は返事をしたが、納得の声にはならなかった。


「配信は続けますか」


玲奈に聞かれた。会社の方針ではなく、夕奈たちへ向けられた問いだった。


「続けたいです」


「俺も」


遥真が答える。


航平だけは、すぐに返さなかった。録画の中では、道路で倒れた自分が位置を報告し続けている。


「怖くないとは言えません。でも、止めたら、今日の相手が見ていたことに自分たちで決めたみたいになるので」


玲奈は「承知しました」とだけ答えた。


通話が切れても、遥真は録画を閉じなかった。夕奈が二度目の芝居をやめた場面まで戻し、そこで止める。


「次、同じことがあったら?」


夕奈は答えを探した。すぐに東へ出るとも、最初から撃つとも言えない。


「次も、相手を見て決めます。今は約束できません」


遥真は不満そうだったが、再生は押さなかった。


遥真は自分の水を持ち上げ、夕奈の前にある未開封のボトルを顎で示した。


「飲んだ?」


夕奈は首を振る。


「先に飲めば」


録画の中の夕奈は、まだ南の扉を映している。夕奈は画面から目を外し、固い蓋を両手でひねった。


挿絵(By みてみん)

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