第11話 三人とも武器を持ってから
夕奈は空中で進路をずらしながら、東の資材置き場を見下ろした。中央の大型倉庫には、床に落ちている武器が二つ見える。屋根の端には防具もあった。
先に届けば、取れる。
同じ屋根へ向かう敵は一人ではない。後ろの部隊の先頭が遥真とほぼ同じ高さまで降り、さらに西から曲がった別部隊も中央倉庫へ着地しようとしていた。
「先に降りれば、一人は取れる」
遥真の声は落ち着いていた。実際、取れるのだと思う。
敵より先に武器に触れれば、遥真なら一人を倒せる。だが、屋根に見えている武器は二つだけだった。遥真が一つを取り、敵がもう一つを取れば、夕奈と航平は何も持たないまま戦闘に入る。
「正面には降りません。北へずらします」
夕奈は資材置き場の外れにある、小さな整備棟にピンを移した。
「戦うのは、三人とも武器を持ってからです」
一瞬だけ、遥真の進路は中央倉庫側に残った。遥真はすぐにピンの方へ向き直る。
「分かった」
「後ろの一部隊、ついてきます。もう一部隊は中央に降りました」
航平が周囲を見ながら伝えた。
「整備棟の北側から入ります。建物を分けすぎないでください」
三人は屋根の低い整備棟へ滑り込んだ。
夕奈は割れた窓から事務室へ入り、床のScout-56を拾った。隣には5.56弾が一束とライトシールドがある。中距離では戦えるが、廊下まで詰められれば苦しい。
「Scoutとライトあります。近距離なし」
「俺、AK。7.6弾一束」
遥真は隣の作業場へ入っている。声の距離は近い。
「こっち、Drum-90とMP9。SMG弾二束と、2倍サイトあります」
航平の報告が続いた。
「ユウナさん、事務室の入口にMP9とSMG弾を一束、2倍サイトを落とします。ハルさん、ライト一個そっちへ投げる」
「分かった」
夕奈が入口へ戻ると、床を滑ってきたMP9と弾薬、2倍サイトが壁際で止まった。MP9を二つ目の武器枠に入れ、サイトはScout-56につける。
MP9の拡張マガジンは見つからず、装弾数は二十発のままだった。これで近距離と中距離の両方を見られる。
「航平さんの防具は?」
「俺もライト拾いました。三人とも最低限あります」
建物の南側で、金属の扉が開く音がした。
追ってきた部隊が入った。
「南の搬入口、一枚。先頭だけ近い」
遥真の報告が入る。
夕奈の痕跡解析には、搬入口まで入った新しい足跡とは別に、南の外壁で左右へ分かれた二人分の跡が見えた。向きと新しさは分かる。壁の向こうで今どこを見ているかまでは分からない。
夕奈はミニマップと、二人の位置を確認した。遥真は作業場の西。航平は物置の北。三人の間に大きな壁はなく、互いにカバーできる。
「残り二人は?」
「南の外。まだ入ってません」
航平が答えた。
「中央倉庫の別パは、まだ中です。北側も空いてます」
逃げ道はある。それでも夕奈は、すぐに離れるとは言わなかった。
先頭の一人は、味方より深く整備棟へ入っている。NOVA-3が中央倉庫から逃げたと思い、そのまま追えば倒せると考えたのかもしれない。
今のNOVA-3には三人分の武器と防具があり、敵の一人だけが味方から離れている。
有利なのはこちらだった。
「今なら戦えます。ハル、手前から落として」
「合わせる」
遥真が作業場の柱から体を出した。
AKの銃声が短く続く。遥真は強い反動を押さえ込みながら撃ち、搬入口を越えた敵のシールドを一気に削った。
「割った」
敵が外へ戻ろうとする。
夕奈はScout-56を構え、逃げる先に照準を置いた。一発が背中に入る。敵が搬入口の脇へ逃げ込むより早く、遥真の次弾が重なった。
「一枚落とした」
「残り二人、入ってきます。右の外壁沿い」
航平は北へ抜ける通路を背にしながら、南の扉へDrum-90を撃った。三十発近い弾が途切れず入口へ流れ、正面の敵が顔を出せない。
「右、一人回ってます」
「私が見ます。ハルさんは正面を」
夕奈はScout-56からMP9に持ち替え、事務室の横窓へ向かった。
敵の一人が外壁沿いを走り、窓から中へ入ろうとしている。近づくまで待ち、窓枠を越えた瞬間に撃った。
拡張マガジンのないMP9から、二十発が一気に減る。
全部は当たらなくても、敵のシールドは割れ、相手は窓の外へ落ちた。
「右、割りました。外へ戻った」
「見える」
遥真は正面の敵を押さえながら、右へ一歩だけ射線を広げた。AKの数発が、外壁沿いへ逃げた敵に入る。
「右ロー」
「航平さん、正面どうですか」
「止めてます。でも、残り十発。撃ち切ったら入られます」
Drum-90は弾数が多い代わりに、リロードが長い。航平が入口を止めている間に、右の敵を落とす必要がある。
「右を先に落とします。ハルさん、行けますか」
「行ける」
遥真が窓から外へ飛び出した。夕奈も窓へ寄り、外壁の角を見た。
「敵、角の裏。ハルさんの右」
「見えた」
短い銃声のあと、二つ目のダウン表示が出た。
「最後、搬入口から離れました。中央倉庫側へ戻ります」
航平がDrum-90のリロードを始めながら伝える。最後の一人は、倒れた二人を置いて南へ走っていた。追えば倒せる可能性は高い。
だが、その先にある中央倉庫のシャッターが開いた。金属音に続いて、複数人が外へ出ていく足音が聞こえた。
「中央の三人、中庭へ出ました。こっちへ寄ってます」
航平が続けた。
「まだ距離はあります。でも、最後の一人を追ったら正面でぶつかります」
夕奈は南側を見た。
逃げた一人は、中央倉庫から出てきた部隊との間へ走っている。追えばその一人は倒せるかもしれないが、開けた中庭で三人から撃たれる。
「追いません。二人を確定して、北へ出ます」
「最後は残す?」
遥真が聞いた。
「今追ったら、中央の三人に正面を取られます。倒した二人の分だけ取って離れます」
「分かった」
遥真は逃げた敵から照準を外し、近くで倒れている二人を確定した。
「中央の三人、中庭を渡ってきます。北はまだ空いてる」
「弾とパックだけ取ります。取った人から北へ」
三人は、それぞれ近いデスボックスを開いた。
遥真が7.6弾を取る。航平はDrum-90を撃った分のSMG弾を補充し、夕奈はシールドパックを二つ拾った。
別の欄には、AK用のバレルがある。窓の外で倒れた敵は、MP9用の拡張マガジンを持っていた。
どちらも欲しい。だが、夕奈はカーソルを止めなかった。
「取れました」
「俺も出る」
「北、行けます」
三人はデスボックスを閉じ、北側の通路へ走った。
整備棟を出た直後、南の入口に弾が当たった。少し遅れていれば、デスボックスを開いたまま撃たれていた。
「右へ寄って。鉄骨まで走ります」
夕奈は資材路を渡り、積まれた鉄骨の陰へ向かった。航平が最後尾から北側を確認し、遥真は追ってくる敵へ短く牽制射撃を返す。
中央倉庫の部隊は、そのままNOVA-3を追ってこなかった。
整備棟の南側で銃声が始まる。
中央倉庫の部隊が、逃げた一人とぶつかったらしい。
三人は鉄骨の陰まで走り、そこで初めて足を止めた。
「全員いますね」
航平が周囲を確認しながら言った。
「武器もある。弾も、さっきよりは増えた」
遥真がAKの残弾を確認する。
「最初に中央へ降りても、一人は倒せたと思う」
夕奈は少しだけ肩を固くした。
判断を否定されたわけではない。それでも、遥真が見えていた一人を捨てたことは事実だった。
「はい」
「でも、そのあと三人で残れたかは分からない」
遥真は続けた。
「今の方がよかった」
夕奈はすぐに返事ができなかった。
「最初に中央を捨てたから、三人で撃てたんですね」
「全員に武器がありましたからね。俺のDrum-90も、重い置物で終わらずに済みました」
「さっき全部撃ち切りそうでしたけど」
「四十発あると、使える気がしてくるんですよ」
「使い切ったら、リロード中は置物になります」
「次から三十九発で止めます」
「一発残しても、たぶん変わりません」
航平の声に軽さが戻り、夕奈は少し笑った。戦う時間は、相手だけが決めるものではなかった。その試合で、NOVA-3は六位まで残った。
チャンピオンには届かなかったが、最初の戦闘で誰も欠けなかったことが、夕奈には順位以上に大きく思えた。
リザルト画面からロビーへ戻る。
「もう一試合、行きますか」
航平が聞いた。
「行きます」
「やる」
夕奈はマッチングを開始した。
次の試合では、輸送機がマップの中央を横切った。
夕奈は前の試合とは離れた、北西の研究区画にピンを刺す。細長い建物が複数あり、入口を変えれば物資を分けやすい場所だった。
「ここなら、被っても建物を分けられます」
「今度は何部隊来ますかね」
「来ない方がいいです」
航平の軽口に言葉を返しながら、夕奈は輸送機から飛び出した。
すぐ後ろに一部隊。
さらに左から一部隊。
少し遅れていた三つ目の部隊まで、研究区画へ角度を変えた。
「三部隊来ました」
「言わなければよかったです」
「言わなくても来てたと思う」
遥真の声は冷静だった。
三人は予定していた東棟へ向かった。夕奈は二階の割れた窓から入り、廊下の奥に見えた武器へ走る。
あと少し。反対側の窓から入った敵が先に床へ滑り込み、武器が消えた。
夕奈の手に入ったのは、その横に落ちていたライトシールドと5.56弾二束、2倍サイト、それから5.56用の拡張マガジンだけだった。
「武器なし。東棟二階、敵一人」
「こっちも接敵した」
遥真の銃声が、別の建物から聞こえる。
「俺も武器なし。ユウナさんの方へ行けない」
航平の声にも、いつもの余裕がなかった。夕奈は使えない武器のアタッチメントを抱えたまま、廊下の角へ下がった。
近づく足音は一つではない。角の向こうから、武器を持った敵の影が伸びる。弾もサイトも拡張マガジンもある。
撃てる武器だけがなかった。
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※掲載内容は、それぞれの一般的な違いを分かりやすく整理した一例です。活動内容や契約形態、収入源、呼び方は、本人や所属先によって異なります。
※本作『東京ランクマッチ』のNOVA-3は、ゲーム会社が販促を目的として契約した「公式契約プレイヤー」という架空の設定です。アバター配信やイベント出演を行いながら競技にも挑戦するため、一般的なプロ選手、ストリーマー、VTuberのいずれか一つだけには当てはまりません。




