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『009』
トーマスと料理部屋から移動し、別の部屋に。
部屋は多いのは慣れているけど、さすがに広い。
「この部屋がエマ様の個人用の部屋になります。個人の部屋ですからご自由に使えます」
「私の個室ですね。素晴らしい部屋です。使わせてもらいます」
いかにも貴族の令嬢にふさわしい装飾があり、衣装を入れる木製の家具、ベッドも設置されていた。
女の子が好きな部屋になっていたので、エマはつい笑顔になってしまう。
(装飾は素晴らしい。令嬢っぽい部屋です)
「エマ様の笑顔は初めて見ました。ずっと無表情でしたから」
「無表情でしたか。クローゼがずっと冷たい表情だから私も硬くなったと思う。気付かないうちに私は感情を抑えていたのかな」
「そうでしょう。笑顔のエマ様の方が素敵です」
「まあ、トーマスったら」
トーマスに笑顔を褒められた。
つい照れてしまう。
エマはそんな自分が恥ずかしい。
(トーマスはあくまで執事であって、私にとっては婚約者はクローゼ)
そのクローゼはとても冷たいから、なんとなくトーマスが婚約者だったらいいなとか考えてしまった部分は否定できない。
トーマスは綺麗な顔をしているし、優しいのがあるから、そう思ってしまうのだった。
個室で過ごすことにして、トーマスとは別れた。
自分用の個室の椅子に座り、ぐったりとして考える。
クローゼは、いつまであんな冷たい態度なのか。
対照的にトーマスは優しい。
まだ伯爵邸に来て間もないのであって、これからずっと長く住むのが不安になる。
(クローゼはいつになったら優しく笑ってくれるのかと)
♢
エマの家の案内をさせておけとクローゼ辺境伯からのトーマスへ指示があった。
クローゼ辺境伯は今日は森で魔物の目撃があり、討伐に行った。
その間に案内した時にエマは不思議なことを話した。
予想してなかった話で、料理用の部屋を案内した時のことだった。
執事のトーマスから考えても、侯爵令嬢は貴族の令嬢の中でも上位の爵位にある令嬢である。
侯爵令嬢のエマが自分で料理がしたいと言ってきたことで、普通はメイドがすることなので、やる必要はない。
それなのにエマは料理をしたいと言ってきて、どうも興味がありそう。
クローゼ辺境伯がそれをどう思うかと考えると、たぶん反対だろう。
クローゼ辺境伯の考えは、婚約者は料理はしなくていいという考え。
王都の国王からの手紙で、急に婚約の話があったのは驚きだった。
クローゼ辺境伯はもっと驚いていて、猛烈に怒っていたのだった。
そもそも王都の連中を毛嫌いしていて、辺境のことを下に見ていると思っている。
トーマスは元はクローゼ辺境伯の組織する騎士団に所属していた。
騎士団で周辺地域の魔物の討伐にあたっていたが、騎士団を抜けて執事になった。
理由はいろいろあるが、クローゼ辺境伯は許してくれた。
最初は反対された。
なぜかというと、トーマスは騎士団で最も有能な強さを誇っているからだった。
そのトーマスが抜けると大きな戦力が落ちて、クローゼ辺境伯の負担が増えるからで、反対されるも、執事を希望して納得してもらったわけだ。
それからはクローゼ辺境伯の執事として身近な世話をしてきた。
だからこそクローゼ辺境伯が怒るのは理解できていて、多くの仲間を魔物に取られたのがあるからこそ、仲間想いのは理解している。
クローゼのことを騎士団の団員は誰も悪くは言わなくて、トーマスも同じく悪くは言わない。
悪口を言うどころか尊敬をされているのがクローゼだった。
しかしエマはクローゼが尊敬されている一面は知らないから、ただ冷たい伯爵としか映らないでいる。
王都にいる国王が援軍が送ってくれれば、助かった命もあっただろう。
援軍を送らない国王を嫌っていて、その国王と繋がりがある王都の侯爵令嬢のエマを嫌うのは当然だった。
婚約はしたものの、とにかく形だけでいいという状態で、エマに対する態度は冷たい。
もう婚約した男女の仲とは思えない状態。
見た感じは、長く続かないかなと思われるも、トーマスは執事だし、2人の仲がうまくいくように支えるのが仕事でもあるのはわかっているつもり。
エマは自分の個室に入っている。
この後はクローゼ辺境伯が魔物の討伐から帰ってきて晩ご飯になるのを、ケンカにならないようにすることにしたいと思う。
エマはかなりクローゼ辺境伯の態度に不審に感じている。
ここまで冷たい態度になることはないでしょうと思っているから、いつかはエマは我慢できなくなる日が来るのは想像できる。
2人が最悪の婚約破棄にならないようにする。
だがわからない点もある。
エマは素晴らしい女性で、美人で令嬢として何も欠点があるとは思えない。
それなのに、聞いた話では王都のユリウス第1王子ユリウスと婚約を破棄された。
なぜなのかなと疑問にトーマスは思う。
どうしても破棄されたのは納得できないのだった。




