16.楽しいダンジョンデート2
イルンの若木について後ろ髪を引かれながら、まずは採取ですよ。
次はわたし的に曰くのある、ハイネジアです。
需要が高いんだよね、あの植物。
買い取り価格も高い方だし、悪くはない依頼なのですけれどもね。あんなことがあったから、倦厭してたんだよね。
折角の機会だから、ここらで克服しておくのがいいよね。
「よおしっ! 極上のハイネジアを集めるぞー」
「極上の?」
「そう、最高の。薬草にもランクがあって、極上、上、中、並、規格外に分類されるんだよね」
知ったときは、豚の格付けかな? と思ったよね。
和牛のお肉がA5とかA4とか格付けされるように、豚肉にも格付けがあるのだ。
「極上の薬草は、ランクの高い薬を作るのに必要だから、買い取り価格が五割増しになるんだよね」
前に試しに極上の薬草だけで納品したら、ギルド職員に大喜びされた。
「面白いね。今日は、極上の薬草だけ採ることにしようか」
「面白そう! 頑張って探すね!」
吊り橋の先は滅多に人が来ないらしく、植物の宝庫だった。
極上と表示される薬草だけを、丁寧に採取していく。
領都でもよく見かけるハイネジア、ペレン草、レナ草はもとより、はじめて見る、マルシ草、テステト草、ポトン草、餅草なんていうのが生えている。
極上と表示された物を、それぞれ十本を一束にしてまとめていく。
「大豊作ですなあ」
ほくほく顔ですよ。
ちゃんと依頼にあった、ハイネジアとペレン草の極上も規定量が採取できた。
「ここは本当に穴場だね」
橋の向こうから人の声が聞こえてくるけど、結構遠いので何を言っているのかまではわからない。
「身体能力が足りなかったら来られないし、来たところで薬草しかないから、討伐をする人にとってはうまみがないよね」
その言葉に同意する、わたしたちにとっては絶好の場所だけどね。
「それじゃあ、どうする? 下に行ってみようか?」
「いいのっ?」
ライゼスの言葉に一も二もなく飛びついた。
そのとき――
大きな音を立てて、吊り橋が落ちた。
「あ、落ちたねえ」
「落とされた、の間違いかな? この通路は、ここしか道がないから、手っ取り早く閉じ込めたんだろうね」
「吊り橋って、架け直すの? それとも、時間経過で直っていく?」
「時間経過で直るらしいけれど、完成までに一年くらいかかるらしいね」
一年かあ。
ダンジョンは不思議な場所だよね。壊れた場所の修復も勝手にダンジョンがするんだから、手間がない。
「わたしたち以外に、こっち側に来てる人は居ないみたいだから問題はないけど、橋を落とすなんてことは拙いんじゃないのかな」
ダンジョンに入れたってことは冒険者資格を持っているってことだから、変なことをすれば経歴に傷が付くはずなんだよね。
「冒険者証の剥奪相当の罰だね」
それだけの痛手を被ってでも、依頼を遂行したかったんだろうな。依頼料は一体、おいくら万円なんだろう? きっと廃業しても生きていけるだけの金額ってことだよね。
いや、その前に依頼内容を知りたい。誘拐とか、殺害とかなのかな。殺されちゃったら、父母を殺された父のトラウマがさらに重症化しそうだから、なんとしても元気で帰らねばならないよね!
それにしても、わたしはともかくライゼスも一緒にいるのに、巻き添えで死なせたらどうするつもりなんだろう?
そう考えると、余計に腹立たしい。
「まあ、その前に、別件で捕まるだろうけれどね」
「さっきから、回収してくれてる人たち?」
確認すると、頷かれた。
「カミル様、いやどちらかというと、カミリオン殿下の采配かな」
同一人物だけどね。
王弟殿下として動いてくれてるみたいなので、より強い権力で取り締まってくれるのはありがたい。
「ソレイユは、やっぱり気づいてたんだね。ごめんね内緒にしていて」
「いいよ! ライゼスが決めたことなら、間違いないし」
ライゼスを見上げて笑うと、彼にぎゅっと抱きしめられた。
「ソレイユの信頼に応えられるように、もっと強くなるね」
「ええええ? 圧を掛けたいわけじゃないよ。ライゼスは、わたしに助けて欲しいときは、ちゃんと言ってくれるでしょ? そこのところを信頼してるんだから、なんでもかんでも一人で抱え込んだりしないでね?」
抱きしめてくる彼を抱きしめ返して、大きな背中をポンポンと叩く。
「……ソレイユ、大好き」
「わたしも、ライゼス大好き!」
少しだけ腕を緩めた彼が体を離し、わたしの頬に手を添えて上を向かせる。
「キスしても、いい?」
「う、うん、いいよっ」
覚悟を決めてぎゅっと目を瞑る。
本当に、どうしてこういう経験値は前世の知識で引き継がなかったんだろう!
心臓は破裂しそうにバクバクするし、目を瞑っている時間がとても長く感じる。
まだかな?
そう思ったとき、唇に柔らかな感触が重なった。
一度くっついて、それからチュッ、チュッと何度か繰り返される。
こ、呼吸、できないっ。
鼻でするんだよね、タ、タイミングが……っ。
ちょっとパニックになった時に、橋の向こう側から、こちらに声が掛けられた。
「おーい! そっちに誰か居るのかー! 大丈夫かー!」
ライゼスは舌打ちをしてから、わたしから離れる。
「こっちは大丈夫です! そちらに戻る手段もありますから、ご心配なく!」
「わかったー! 気をつけるんだぞー!」
声が応じて、人が離れていった。
「それじゃあ。冒険の続きをしようか?」
「そっ、そ、そ、そうだねっ」
耳の先まで熱くなった顔で返事をして、吊り橋がだらんと垂れる大きな穴の端に近づいて下を見る。
「やっぱり、よく見えないね。低階層は明るいはずなのにな」
「ここの三階層は推奨レベルがあるくらいだから、低階層という扱いじゃないのかも知れないね」
ライゼスの考えに、なるほどと納得する。
「今回はやめておこうか」
「ええっ! どうしてっ?」
隣に来たライゼスが下を指さして、「あのあたりを集中してみて」と言ったので、索敵でそこを集中的に調べる。
……なるほど。
「あれは、ちょっと無理だね。虫型の魔物がうじゃうじゃとか、最悪過ぎる……」
ライゼスが言ってくれなきゃ、あそこに突っ込んでた。
さっきライゼスが三階層は植物がないって言っていたのに、どうしてあんなに虫型がいるんだろう。虫の主食は草じゃないの? 恐ろしさに震える。
「依頼の採取も終わったから、帰ろうか!」
「ソレイユは、農作業してるときは虫が平気なのに。不思議だよね」
「仕事中はいいの。気持ちが切り替わってるから、いくらでも対処できるんだけど。日常に発生するヤツらは、本当に、もう、凄くイヤなの」
熱く伝えたわたしに、ライゼスが「そういうものなんだね」と納得してくれる。
そういうものなんですよ。
「じゃあ、三階層には行かないから、イルンの若木だけ見ていってもいい?」
「いいよ。じゃあ、ソレイユが先にいく?」
「そうする!」
索敵の魔法で、イルンの若木が生えている岩棚に他に何も居ないことを確認してから、反重力の魔法を使って身軽になり、壁を蹴って一気に一階層と二階層の中間くらいの位置にある岩棚まで走る。
忍者になった気分で、とても楽しい!
一畳ほどのスペースに降り立ったわたしの隣に、ライゼスもすぐにやってくる。
「これが、イルンの若木」
ひょろりと生えているオブディティの身長くらいの高さの木を、ライゼスが感慨深く見ている。
細っこい幹に、葉の枚数も少ない。よく枯れなかったよね、と感心する。
「うん、樹齢二百七年の若木だって」
「それは、若木ではないんじゃないかな」
わたしもそれは思ったけど、ステータスがそうなってるから、なにか理由があると思うんだよね。
もう一度ステータスを見てみる。
「あ、これ、外に出したら、太陽の光で一気に成長して、樹齢どおりの大木になるらしいよ」
「……うん、迂闊に持ち出しはできないね」
ライゼスが一瞬絶句した。
「そうだねえ、ダンジョンの入り口が、イルンの木で潰れちゃうね」
「オブディティ嬢の収納に入れてしまえば、大丈夫そうだけど」
「うん、それなら大丈夫みたいだよ」
「ん?」
答えたわたしを、ライゼスが見下ろすので、そういえば伝えてなかったかと思い至る。
「疑問を提示してアレを見たら、答えが載るようになったの」
「へえ……それは……便利だね」
「だよね! それなら、文字制限もないようなものだし」
なにも疑問を提示しなければ、基本情報を教えてくれるだけなんだよね。
「この木以外にも、イルンの若木はあるのかな?」
「他の木のコトはわからないよ? 見られるのは、この木の情報だけだからね」
「なるほど」
「増やす方法ならわかるよ? この木はダンジョン内でしか発芽しないんだって、だから、外で育った実の種を持ってきて、ダンジョンに植えるといいって。でも太陽光も必要だから、植えるなら、ダンジョンの入り口かな? 平地にダンジョンがあれば、一番いいんだろうけどね!」
「ダンジョン化した土地か……」
ライゼスがちょっと考える仕草をした。
ヒーリングライトを掛けようかと相談したけれど、この若木は衰弱しているわけではなさそうなので、このままにしておくことになった。
そして、また忍者のように壁を蹴って進み、元の通路に出る。
わたしたちを気にしていたらしい人たちが、安心したように距離を取るのを確認してから、また、バカップルごっこを継続して、ダンジョンデートを満喫した。




